忍者は所詮忍者であった
「お前が最近調子にのってるプロントか」
いつものように街門を付近で日焼けをしていると、黒装束の貧弱な革装備の男がいた。
「さん、をつけろデコスケ」
親しき仲にも礼儀あり。見知らぬ他人には"さん"を付けて名乗るべきではないのか?俺が温厚なナイトでなかったら、こいつは犬の餌になっている。
こちらの返答を気にした様子もなく、男は続ける。
「お前最近目立ちすぎだと思わないか」
「それが何の問題だ、デコスケ」
「俺らが弱いと周りに思われるのが問題なんだよ」
「お前が俺より弱いのは事実だ、デコスケ」
「毎日昼寝をして堕落している奴がこの街最強ってのは外聞が悪いんだよ」
悲しいかな、人と人とは分かり合えないものだ。
「お前の生際が後退しているのはお前の問題だ。俺のせいではない」
「うっせーな、デコは関係ないだろ!」
「同じだ。お前らの評判が悪いのも、デコスケなのも、お前の問題だ。俺には関係がない」
流石汚い忍者だ、話が通じない。無視をして昼寝を続行するとデコスケは立ち去った。
◇◇◇
「おーい、黒エルフのあんちゃん。ギルドから至急って呼び出しがきてるぞ」
無粋な声でまたもや貴重な午睡を邪魔された。
またギルド長が俺に仕事をふるつもりか。他者にはできない仕事ばかりなので割りはよく、今のプロントは週一勤務である。夢の半ニート生活だ。
「至急と聞いてカカッっと参上」
二階の窓からダイレクトエントリー。
「この程度で窓を壊すのは止めてくれんか」
「至急ならば一秒の時も無駄にはしない。一瞬の油断が命取り」
「・・・・・・わかった。真に至急の時以外は至急とは言付けんよ」
「それで、何が至急だったんだ」
「北東の荒野に、はぐれの暴れ地竜がでた。普段はこの地域にはおらん魔物じゃ、巻き込まれた者がおると報告があった。」
「場所の詳細と敵の情報をまとめろ。現地付近に狼煙を上げておけ」
地竜と名付けられているがドラゴンではない。地面を走る大型のトカゲという表現が正しいだろう。地面を這うように動くため人型モンスターに比べ有効打を決めにくい面倒な奴だ。
幼生期より専門家の元で育てると、馬より格段に強く早い移動手段になるため、その卵は高値で取引される。
併走するギルド員が半ば叫びながら地竜の生態を説明している。中々ガッツのある男だ、後でエールを奢ってやろう。
狼煙があがっている方向の更に奥から、今度は砂煙が見えてきた。馬から下りて駆け出す。短距離なら走り続けた馬よりも、俺の全速力の方が早い。
「不意打、閃光魔法いくぞ、カウント三・・・・・・<フラッシュ>」
地竜と戦闘中のPTに強制乱入。強力な光で視界を奪う魔法の使用を一方的に宣言し、使用する。「ナイト来た!」「これで安心!」など俺を称える声が上がる。
「撤収だ。後方にギルド員がいる、指示にしたがって撤退しろ」
「ブロント!こいつは俺の獲物だ、お前は手を出すな」
「もう勝負ついてるから」
朝に会ったデコスケが何故かここにいる。
戦場で言い争いをする浅はかさは愚かしい。デコスケの頭を殴りつけ、運び出させる。
「お前の相手は俺だぞ、っと」
地竜を盾で殴りつけ注意を引き付ける。周囲の撤退が完了するまではこの場に留める必要がある。
アワレ地竜は突進をしかけるが、俺はあっさりと受け止める。キングベヒんモスの攻撃すら受け止める俺にとって、せいぜい二トン程度の獣など相手にならぬ。
(中略)
「なぜ、俺を無視して地竜を倒した」
「時既に時間切れ」
ギルドへ報告に戻ると、糞忍者ことデコスケが待ち構えていた。こいつは何故俺に構うのだろうか。
こいつが手柄を立てる為に地竜を倒す意図があったとしても、相当な時間戦闘していながら致命傷どころか、有効打を一つとして与えていなかった。討伐は無理だ、貴様にはクンフーが足りてない。
俺は徒党(LS)でも人気者の謙虚で優しいナイトだからな、暴走しがちな若者を諭すことくらいしてやる。