あんないずのまえ
ヒロイン攻略対象と出会う そのさん
昇降口から入り、案内図の前へ向かうと、そこには人が密集していた。
今日、入学の生徒達が自分の教室を探している。
本来なら学園の地図は配布された用紙の中に交じっていたのだが、学園の広さを確認せず、持ってこなかった生徒が多いのだ。
ちなみに姫華の場合、同じクラスの琥珀と一緒だったため、必要性を感じていなかった……。
「うーん。これじゃ見えないな」
「まったくだ」
人混みの向こうを見ようと背伸びしながら呟くと、返事があった。
見ると、となりに人混みを眺める小柄な少年が立っていた。
背丈は姫華と同じくらい、赤い髪と瞳、胸元の火の紋章。
少年は姫華を見ると、ニッと笑った。
「おまえ、春日姫華だろ。
オレは赤神柘榴、よろしくな」
「うん。よろしくね!
だけど、どうしてわたしの名前、知ってるの?」
「おまえ、六家の人間には有名だぜ。
後天的に魔力を得たうえに、神眼もちだからな」
「そうなんだ……」
思わずうつむく姫華にの頭を柘榴はなでる。
「ま、気にすんな。
なんかあったら、助けてやっからさ」
「ん……。ありがと」
「こんなところでナンパか?」
ビクッと震えて柘榴が後ろを向く。
姫華が同じ方を見ると、背の高い少年が立っていた。
漆黒の髪、銀の縁取りの薄いレンズのメガネの奧は灰色の瞳。
胸元の紋章は闇。
「僕は灰神黒曜。
あなたが春日姫華さんですね。
おそらくは、今後僕の親しい友人があなたと共に在ることになると思います。
よろしくお願いいたします」
「?
親しい友人? 誰ですか?」
「あー」
柘榴が口を開こうとすると、黒曜が目を向ける。
思わず口を閉じて目をそらす柘榴に、姫華は首をかしげる。
「僕は1-Yです。
なにかあったら、訪ねて来てください」
それだけいうと、黒曜は柘榴の首根っこを掴んで歩き出す。
「はーーなーーせーーー……」
柘榴の声が消えていくのを見守るのだった……。
ーーー
「なあ、知ってるの友人って、ひょっとして姫様のこと?
姫様、学園にきてへーきなのかよ?」
「君が気にすることではありません」
黒曜は生徒会室まで、そのまま柘榴を引きずっていった……。