夏の日
朝からうだるような暑さが続いていた。
あたしの部屋に、クーラーなんて贅沢なものはない。
開け放った窓から、空気を震わす程度の風と共に蝉の大合唱がさらにこの暑さを倍増させていた。
「あっつぅ」
肌に張り付いた髪をかきあげて、頭の高い位置で一つにくくる。
扇風機の前にドカリと座ってみたものの、蒸し風呂みたいな空気をかき回すだけで涼しくはならなかった。
今日はお店も休みだし……。
友達との予定もない。
こういう日は、あそこに行くのが一番だよね。
「よし」
転がっていたリュックに机の上に広がっていた教科書やノートを詰め込んで部屋を飛び出した。
ミーーンミンミンミー……
蝉の中でも、ミンミン蝉は割と好きだ。
なんか夏って感じがするし。
アブラゼミと違って、暑苦しさがない。
緑が生い茂った桜並木の中をゆっくり歩く。
木漏れ日の中の、爽やかな風は汗ばんだ肌に気持ちいい。
少しだけ温度のさがった空気を肺に満たすと、木々の間から空を見上げる。
宇宙を感じさせる突き抜けるような、青の青。
キラキラと輝く、真っ白なかき氷のような入道雲。
そっと目を閉じると、どこからか聴こえてくる風鈴の涼しげな音色。
あたし、夏が好き。
胸の奥がギュッと掴まれたような想いが湧きあがる。
それに蓋をするように、小さく息をついて、目を開けた。
「…………」
目を開けた……は、いいんだけど。
いつの間にそこにいたんだろう。
あたしのすぐ目の前に、目線の変わらない男の子が立っていた。