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数字と宇宙と、地球人



四日目


 「どうにもこうにも地球人はおごっているから、本当にまいるよ」

 朝からそんな言葉で起こされる。何があったのだろうか、と訊いてみたのが失敗だった。

 「ほら、この広告。新聞についていたのだけど、酷いね」

 薄い新聞紙の上にでかでかと「宇宙一 うまい!!」という文字が躍っている。どうやら新製品の広告のようだ。


 「宇宙一というなら、本当に検証でもして調べないと。だいたいこういう過大広告は……ってあれ、笑ってる?なんか変なこと言ったっけ?」

 なんだかおかしくなって、酷く笑った。笑いすぎて、息も出来ない。ああ、こんな宇宙人と一緒に居られるのもあと一日だけなのだ。

 「酷いね。こっちは必至なのに。君たちは、この世界の4%しか物事を分かってないっていうのに、さ」

 ああ、今日もまた講義が始まるようだ。少しだけ、ちょっとだけ、宇宙人にばれないように口角を上げた。

 ペタン。床の上に正座をする。




 「地球上のすべてのものはある物質だけで作られる。機械も、服も、そして僕たちも――そうだ、元素から生み出される。これは間違いない。

 けれど、宇宙はそうじゃない。宇宙の中には、君がさっき言った元素の他に、あと2つ、他にある。ダークマターとダークエネルギー、だ」

 実にいい名前だね。直接的過ぎるところが特に、と宇宙人は笑った。


 「ではこの二つが、つまり我々が実態を計り知れていないこの二つが、この宇宙上に何%ぐらいあると思うかい」

 この宇宙人がこう聞くときは、決まって意地悪な問題を出す時だ。そう思って私は答える。90。

 「9割? 惜しいね。


 

 答えは、96%だ」

 近くにあったメモに、ぐるっと円が描かれる。







 「ほら、円グラフにするとだいたいこんな感じ。君たちはこの宇宙の4%しかまだ知らない。それなのに、何でも知ってる顔だなんて、おかしいじゃないか」

 ついでにいうと、ヨーロッパの人々も、実におかしな発想をしていたらしいね。彼はそういった。


 「地球は丸い。これは確かなことだ。論理的にも、視覚的にも正しいことだよ、これは。嘘だと思うなら宇宙から地球を見たらいい。青くて丸いボールが浮かんでいるから」

 まあ僕はここに来るときに一度見たけどね、とわざわざ付け加える宇宙人。

 「けれど、昔のヨーロッパでは

 地球は皿の形をしていて、端のほうは滝になっている

 って考えていたんだってね。全く、笑ってしまいそうだったよ。

 だって、

 紀元前4世紀にはそんなの分かってた事なのにさ」


 「地球が丸いっていうのは、すでにアリストテレスの時代――つまり紀元前4世紀、古代ギリシャ時代だね――には理解されていたんだ。もっというなら、それ以前から理解されていた可能性さえあるっていうんだから。

 でも、このヨーロッパでの話を君は笑っちゃいけないよ。だって、君も同じように無知な生き物なんだから」

 むっとして口を尖らせる。なんだかとても馬鹿にされている、というのはよくわかった。


 「数学を、君は苦手といったね。だけど、知ってるかい?君たちが解いている、中学までの数学っていうのはさ。

 全部、紀元前までに証明されたものなんだ」

 そういって宇宙人はふふふと笑った。



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