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暴走勃発

 「亜里沙が、黄金美連合にしばかれた」

 聞いた途端、全身から血の気が走った。

「な・・・何でだよ!? 何であいつが!? 女に手出す奴らなのかよ黄金美連合ってのは!?」

「いいから落ち着け。亜里沙は何とか無事だ。全治三週間の入院で済んだ」

「ふざけんな! 何が無事だよ!? 全然無事じゃねぇじゃねぇか! 今どこだ? すぐにそっちに行く!」

「赤星病院だ」

「遠過ぎんだよクソがぁ!!」

俺は急いで電話を切り、ネネの元へ戻った。気がつくと周囲の人間は俺を注目の的にされ、沈黙の荒らしになっていた。

「ど、どうしたの?」

「悪いネネ、亜里沙が怪我しちまったから今日はここで解散させてくれ」

「え、今日は?」

そして全速力で走り、赤星行の電車に乗った。


 くそ・・・何であいつが……!!


三十分後、難なく俺は病院に辿り着いた。304号室と書いてあった部屋に行ってみる。

「亜里沙!」

罵声を放ったと同時にドアを勢いよく開けた。


その先にはベッドで座っていた頭と左腕に包帯を巻いていた亜里沙と、その横の椅子で座っている長柄の姿があった。

「だから無事っつっただろ?」

「うるせー。おい亜里沙、黄金美連合にやられたって本当か?」

「う、うん。まぁね。たく・・・アンタは心配し過ぎなのよ! このバカ!」

亜里沙は笑っているが、これは作り笑いだ。顔が無理してる。

多分、俺に心配かけたくないからだ。


「長柄、何でこうなったんだよ?」

「こいつは散歩が好きだからっつーからお前の代わりに俺が相手してやったんだ。でも、コンビニに行く途中で黄金美連合っつー連中が絡んできて、亜里沙を誘拐しようとしたんだよ」

長柄の説明を聞けば聞くほど怒りがこみあがる一方だ。

「亜里沙が最初に連中の一人に殴って、それからそいつらが亜里沙を一気に殴り始めて、タバコ吸ってた俺が気づいたのはその乱闘からだ」

「何で助けなかったんだよ!?」

「ちゃんと最後まで聞けよ。それから俺も黄金美連合を皆殺しにはした。だが亜里沙がその時は既に怪我をしていたんだ」

「くそ・・・! 黄金美連合、許さねぇ!! 絶対に許さねぇ!!!」

「おい、まさか黄金美連合に喧嘩売るのか?」

「仇討たなきゃ腑に落ちねぇんだよ!! その連合ってどういう奴らだ?」

「服装は雑種系だから俺もよくわからないが、明るめのシャツを着る奴らが多い。それと、首にタトゥーシールを貼っているからそこらへんはすぐに区別つくと思う」

「卑怯極まりねぇな。ふざけやがって」

「ちなみに、俺が黄金美区に来て最初にぶっ飛ばした相手も黄金美連合だ。そこまで強くはないが、とにかく数で攻める奴らだ」

「関係ねぇ。1000人いようが、こいつに手出した連中ってことに変わりはねーんだよ」

「ふん、勝手にしろ」

そして、俺はすぐさま病院から出ていき、黄金美区で奴らを探すことにした。





俺の名前は長柄。黄金美町、黄金美区では俺の噂がいっぱいいっぱいになっているらしい。

「怪我、大丈夫か?」

病院で、亜里沙は深くへこんでる表情だ。佳志もどこかへ行ってしまい、もう泣きそうな表情にもなっている。

「うん。これくらいは……ね。でも佳志、大丈夫かな」

「ふん……。アイツなら何とかなるだろ」

「そうだと良いけど……」

 かなり心配している。ふん、お互い仲良すぎなんだよ。

 さてと……この怪我だらけの女どうすっかな。俺はこれからどうすりゃいいんだ?

 そうだ、佳志が何してんのか俺も気になる……後をつけてくか。まだ間に合うはずだ。


 病院をダッシュで出てみると、佳志が歩いていた。よし、尾行といこうじゃねぇか。


佳志・・・何をする気だ?

多分黄金美連合にたった独りで立ち向かうつもりでいると思うが、あんな貧弱な体じゃまず身が持たん。それはあいつ自身ちゃんと分かっているはずだ。

尾行して40分が経過した。

もう黄金美区に足を踏み入れた時だ。俺からして、あいつがやる事がまず予測不明だ。


 さて、どうする?


 ふと佳志の横を見ると、黄金美連合の連中がたまっていた。


……気付くか?


すると佳志は、連中に近寄り、「おい」と声をかけた。


連中が「あ?」と返答すると、すぐ様佳志が蹴りを入れた。

後ろで見られない程度で様子を見る限り、そこは不明な勃発に覆われていた。

佳志は5人を相手になぎ払っては殴り、蹴り、最終的に佳志以外の全員が地面を這いつくばっていた。


……これが、あいつの復讐か?

 どうやら佳志は奴らを黄金美連合と確信したようだ。

 まずいな。遠くからじゃ曖昧だが、少なくとも我を忘れていることには違いない。


どこかでストップでもかければ幸いなんだけどな。

佳志はそのまままたどこかへ行き、俺は尾行を再開する。

次は、路地に到達した。路地にいたのはまたもや、10人ほどの連合たちだ。

「おい、お前。金持ってんだろ? さっさと出せよ」

 どうやら連中は佳志をカツアゲしているようだ。

 佳志はそのカツアゲを聞くまでもなく座っている内の一人を蹴り上げた。

またもや壮絶な乱闘が勃発した。こいつの暴走はこのままずっと続くのか?



 この後も、見つけてはボコし、見つけてはボコしの連続が繰り返されている。………そろそろ潮時だな。


 中道通りに、俺は尾行を中止した。


「おい」

「………長柄か、何だよ」

「いい加減にしろよ。こんな事しても、何も手に入らねぇぞ」

「テメェは大人しくしてろよ。手に入らない事ぐらい分かってんだよ」

「だったらさっさとそのくだらない暴走を止めろ……」

「黙れよ! お前だって訳の分からん暴走しまくってた癖に、今更説教たれてんじゃねぇよ!」

「何だとテメェ………! ふざけてんなよ佳志ィ!」


 ドカ!


 怒りが込み上がった俺は佳志を思い切り殴った。倒れ込んでもなお、相手は立ち上がった。

「おい、何とか言えよ。俺の話とお前の話、すり替えてんじゃねぇぞ!」

「うるせぇ! 人の事言えない分際が今更何言ってんだ!」

「あぁ人の事言えないさ! 確かに俺だって大分前、色んなチームをボコして訳も分からず終わったよ!」

「だったら………尚更俺に説教くれる立場じゃねぇじゃねぇかよ!」


 ドカ! ドカ! ドカ―――!


 佳志は俺に何発ものパンチを浴びせた。しかし、このままコイツの暴走を続けさせてしまったら、キリがない。コイツの身が危ない。

 ダメだ。早く止めないと……!


 俺は無造作に殴り続ける佳志に対し、そのまま踏ん張り一気にタックルした。

 そして馬乗りの状態から鼻に向かって思い切り、重力を利用して拳を落下させた。


 ドブ――――!


「一遍……落ち着け。佳志」

「……………」

 互いにはぁはぁと、息が切れている。もう疲れた。

「お前のやってる事は、亜里沙の仇討ちじゃない。お前のやってる事は……、


 ただの、自己満足における暴走だ」


 その告白をし、佳志も表情が変わった。多分、自分がしている事に気が付いたんだろう。




         *



 俺のやってる事が…………ただの自己満足……?


「お前のやってる事は、ただの自己満足の暴走だ」

「な………」

「いい加減気付けよ。連合の頭にも顔を見せず、ただひたすら弱い奴らをシバキ続けるなんてよ」

「でも………亜里沙に手出したのはそういう奴らだったんだろ?」

「確かにそうだ。でもな、責任はそのチームにおけるリーダーに発するんだよ」

「…………なら俺が、そのリーダーをぶっ潰して――」

「バカかお前。一つだけ教えてやるよ。


 こんな事して、亜里沙が喜ぶとでも思ってんのか?」

 そう、長柄の言ってる事は正しかった。

 俺は見返りを期待せず、ただひたすら自分のストレスを発散させているだけだ。何が亜里沙を守るのは俺だ……自分が情けなく感じる……。

「俺も前はそういう意味不明な暴走を繰り返してた。でも、それで得たものは何一つなかった。後悔だけが手元に残っただけだ」

「なら今は何かしてんのかよ……」

 長柄はその場で立ち上がり、俺も汚れた背中を振り払った。

「俺にも、お前みたいな、付き合ってなくても一緒にいる、守らなきゃならない女が1人だけいるんだよ」

「な……何? 初耳だぞそれ」

「お前には言ってなかったしな……、そいつイギリス人の日本語ペラペラで嫌に気使うバカなんだよ。俺も当初はしつこくてムカついてたが、つるんでる内に、こういう奴も悪くないなって思ったよ。それからだ、自分がやってきた暴走がいかに情けないかって分かったのは」

「は? 何でそれで分かったんだよ」

「前の俺は、塀の中で何も楽しく感じず、守備より破壊の方が興味を持ち、黄金美区全体を自分最愛の定位置にしようと、名を上げようとしてた。

 でも、それで全チームが俺に従うことはなかった。従うどころか、避けられていく一方だ。つまり、優しさが全くなかったからだ。

 俺と一緒にいたセレナっつー奴とつるんでから、次第に優しさが生まれ、いつしか少年院に入る前の自分に戻っていた。

 だから、暴力だけで自分を突き通す事は止めたんだよ」

 長柄の意味ありげな話を聞いた俺は、納得いくのか納得いかないのかよく分からない気持ちになったが、確かに今のコイツは俺を食い止めるという優しさがよく伝わる。


「…………悪かったよ。でも、亜里沙に手を出した連中を俺は許せない。このまま奴らに好き勝手させる訳にはいかない……!」

「ふん………まぁお前ならそう言うと思ってたよ。まぁ、お前より俺の方が腐ってる分際だし、ここは俺に任せろよ」

 長柄はすれ違い際に俺の肩をポンと叩き、そのままどこかへ行った。

「お…おい! 何処行くんだよ!?」

「決まってんだろ? お前は引き続き亜里沙を見守れ。俺は、連合のヘッドと話をつける」

「ちょ……暴力だけで自分を突き通す事はやめたんじゃ……」

「暴力じゃねぇ。仇討ちだ」

「何? お前………」


「俺ら、もう仲間じゃねぇか」


 長柄は微笑みを浮かべ、そのまま歩き去っていった。


 仲間……か。まぁ、あぁいう奴が仲間でも悪くないか……。


 俺は一端赤星病院へ戻り、亜里沙の元へ戻った。


「………怪我、大丈夫か?」

「まぁね。アンタもその頬にあるアザ、大丈夫なの? 喧嘩した?」

「あ……これは長柄と……」

「ふん。なにもめてんのよ」

「うっせぇよ。そんな事はどうでもいいだろ」


 亜里沙はいつも通りの様子だ。………良かった。


「アンタ、私に手出した奴らにお返ししてないわよね?」

「…………ごめん、ついさっきまでそれしてた……」

「ふん……ホントバッカじゃないの。私が怪我して、アンタも怪我したらどうすんのよ…!」

「悪かったよ……。そっから長柄に止められて、アイツが連合に出頭したんだけどよ……アイツは大丈夫なんかな……」

「長柄は……大丈夫でしょ。アンタと違って喧嘩強いし」

「うっせーな! 一言多いんだよお前は!」

「でもあの男は本当に只者ではなさそうだわ。アンタと同様、前科があって年少にしばらくいたけれど、その少年院の厳重さが半端じゃない」

「何? どういう事だ?」

「少年院の場所はそもそも日本列島でも北海道でも四国でも九州でもない」

 亜里沙はさっきも使用してたノートパソコンを改めて俺に見せてきた。


 その画面はマップで、日本列島から南の方にある小さな島がドロップされていた。

「な……そこはどこだ?」

「少年院しかない島よ。名前はまだ決まってないし、日本領海だとしても難しい範囲。経済領域でもなさそうだわ」

「………日本の少年院じゃないのか?」

「海外の少年もココに入ってくるらしいわ。いや……ずばり言えばそこは海外の少年院でしょうね」

 その事を聞いた俺はハッキリ確証した。

 そして、俺は長柄の人物がまた疑問化していった。


「つまり長柄は、外国で裁かれた男よ」


 外国で……裁かれたとしたら、長柄は……日本にいなかった奴なのか?


「ちょっと待て……、アイツ国籍どこだ?」

「………エスファニアキングダム……って、とこらしいわ」

「は!? 何そこ!? ニューヨーク!?」

「通称エスフォニア。話によるとヨーロッパにある小さな国らしいわ。そこの宗教がとんでもなくて……とても宗教とは言い切れない範囲だわ」

「どういう事だ? キリスト教か?」

「いや、そこら辺はまだ分からない。でも、宗教と言うよりは、犯罪組織といても過言じゃないわ」

「犯罪組織……マフィアか?」

「近いけど、言うならばギャングだわ。体の一部にトライバル式のタトゥーを入れている人がほとんどらしい」

「それって長柄もじゃねぇか。つまりアイツもその宗教の一員って訳なのか?」

「考えられるわね。でもそんな小さな組織がわざわざ日本に来るなんてあり得るのかしら……」

「分からんな。亜里沙が取得した情報も、確かなのか?」

「他から得た情報だからまだ保証はないけれど、その情報屋も中々手が込んでるから多分本当だわ」

「………情報屋だと?」

「まぁ……ちょっと変わった人でね。普段はチャットとかで連絡をやり取りしてるわ」

 情報屋の事は初耳だな。コイツどういうのとツルんでるんだ?

 まさか鳴海とか……? いやまさかな……。


「アンタ、長柄の本名聞いたことある?」

「そういえばアイツの下の名前……聞いたことねーな。お前は?」

「ないわ。私は引き続きコネと連絡を取ってみるわ」

「いいのか? 情報料とかかかるんじゃねぇか?」

「そこらへんは何とかなるわ。まだ会ったこともないけど、多分振込とかで何とかなるでしょ」

 何か不安だが、とりあえずそこらへんは亜里沙に任せておこう。



 ………長柄という人物、それはハーフということ。だがアイツはハーフ的な特徴がほとんど見当たらない。顔も普通の日本人だし、大した訛りもない。

 あのタトゥーしか………心当たりがない。


 ガタン――


 腹を押さえ、顔のいくつかの箇所に打撲跡が残った長柄の姿が見えた。

「は……早くね……?」

「ふん……、誰に向かって口利いてんだお前……。約束を守っただけじゃねぇかよ……」

「て言ってる割に何かとボロボロだよなお前」

「うるせぇよ……。ちょっと横借りるぞ亜里沙……」

 長柄はためらいもなく亜里沙の横で寝そべり始めた。

「あー! テメー何普通に女の添い寝してんだコラァ!」

「……あ? お前怪我人に向かってその口の利き方ねぇだろ……。俺は怪我…」

「いやいや! なら床とか、開いてるベッドで寝てろよ! お前狙ってんじゃねぇだろうなー!」

「この状況で女を狙うほどバカじゃねぇよ俺は………とにかくちょっと寝かせろ……!」

 わずか数十分で戻ってきたボロボロの長柄には結局何も聞けずに寝られてしまい、疑問がモヤモヤしたまま時間が経った。

 横で寝られた亜里沙は恥ずかしげにする事もなく、そこに誰もいないかのような素振りで長柄と添い寝した。


 …………何か腑に落ちねぇ!



 事は一件落着し、長柄はパニック状態の俺を抑えてくれてわざわざ自分を犠牲にしてでも代わりに亜里沙の仇を討ってくれた。

 多分黄金美連合という奴らは、俺ではとても手に負えないほどのセコい連中なんだと思う。一応、長柄も奴らともめたことが過去にあるらしいからだ。

 でも……亜里沙を守るのは、俺だ。

 長柄と言う心強い仲間ができて光栄だが、それでも俺は彼女を守りたい。

 好きとか……愛してるとか……そういうのじゃなくて、居候までしてくれて世話になってる無鉄砲な女の子に借りを返さないのは、酷く無礼と分かってるからだ。

 顔見知りの元同僚だと言え、親しき仲にも礼儀あり、だ。


 それにしても、長柄も亜里沙も、ちょっと疑問が残る部分がある。


 長柄はさきほど思った通り、まず何者かがはっきり分からない。

 亜里沙は、一体誰と連絡を通じているのか……分からない。


 一度亜里沙と連絡を通じてる相手を探って、話を付けてみるか。



 その行動を起こすのは、今からおよそ一か月後の話だ。


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