20の願い事
19歳、夏。就職を控えた学生である。教師や親から早く就職先を決めろとせっつかれていた。
正直、俺には蟻の様にあくせく働く意味も理由もサッパリ分からない。
「ねぇ、ねぇ、願い事きまった? どんな願いも20個! お得だよ!!」
俺の周りでイタい事を叫んでいる彼女の事もサッパリ分からない。
「もー適当な事でもいいから言ってみてよぉ!」
スクランブル交差点の真ん中で縋り付く様にリュックを引っ張られ、余りにもウザいので適当に一つ言ってみる。
「じゃあ、学校を休みに--」
「かしこまりぃ~サクッと叶えるよ!!!」
ウザっ……。
携帯が鳴り出す。
『急な講師の主張の為、本日の授業は休みとなります』
勢いよく振り向く。
彼女がニコッと笑う。
「なにお前……天使? 食べたい物とかある? おごるよ?」
俺は信じた。マジ天使がご降臨なされたよ。
……とりあえずここの支払いだな。
そして俺の世界は変わった。
「可愛い彼女が欲しい」
「ケンカが強くなりたい」
「何時に行っても遅刻にならなくしてくれ」
「権力よこせ」
「働かなくてもよくしろ」
どんな理不尽な願いだって叶うのだ。
この一ヶ月思い通りにならない事なんかなくて、神になった気分だった。
が--
「願い事、決まった?」
夕暮れ時のスクランブル交差点でリュックを軽く引っ張られる。
振り向くと彼女。
「最後の願い事」
金もある。女も手に入れた。将来も約束された。今更欲しい物などないはずなのに、何故俺はこんなにも焦っているのだろう。
「どうしたの? 焦ってる? なんか不安そうな感じ」
--ッ!!
「それだ!! 焦ってるんじゃない、不安なんだ。この生活が終わる事が!」
だから--
「この不安を消してくれ!!!」
スッと心が軽くなる。
これで--
ザクッ。
俺の胸から腕が生えていた。
「ん、ふふふふ♪ 20回使い切っちゃたねー。死神の制約で19回なら手出し出来なかったんだけど。でもいいよね、好き勝手出来たんだから。 ねぇ?」
腕を引き抜かれ俺の体は地面に叩き付けられた。
「タダで奇跡が手に入ると思った? 等価交換だよ。君の生きて来た19年分。それが対価。人生全部使っちゃたら生きていられる訳ないよね。あ、今日は何の日か知ってる?」
彼女がしゃがみ込みこちらを覗き込んでくる。
今日は……
「君の誕生日だよ。20歳、お誕生日おめでとー」
彼女の呑気な声が聞こえた。