蓮×暁 ~暁の風邪と優しいお預け~
相変わらずたどたどしい文ですが、読んでくださるとうれしいです。
暁が風邪を引いた。
「暁? 起きてるか?」
「……」
蓮の問い掛けに暁の返事はない。寝ているのかと暁の顔を覗き込めば、熱に潤んだ瞳と目が合う。どうやら寝ていたわけではなさそうだ。
「メシは?」
「……食ってない……」
今度は返事が返ってきた。しかし、蓮は暁のことが心配で朝から一歩も出歩いていないのだ。暁が食事を摂っていないことなど知っている。
「食ってないのは知ってるよ。腹減ってるかって意味」
「……」
また答えが返ってこない。
「暁?」
名を呼ばれ、暁は口を開く。が、それは答えではない。
「蓮、こっちきて」
言いながら自分の寝ているベッドの縁をぽんぽんと叩く。
暁は小柄で華奢な割には体が強く、風邪など滅多に引かないが、いざ患うと甘えや寂しさを多く見せるのだ。
恐らくこれも甘えからなのだろう。そんな事を考えていると、暁が焦れたように急かした。
「……早く」
「ああ。……ほら、ちゃんと来たぞ」
小さく笑いながら暁のすぐ傍に腰をおろす。すると、
「もっと」
という言葉とともに、蓮の身体を引き寄せ添い寝の形をとらされた。
「どうした、暁。寂しいのか?」
暁の柔らかな髪を撫でながら、蓮は優しく問う。
「うん……。だからもっと……」
そう言いながら自分の髪を撫でる大きな手をずらし、頬擦りする。
「わかったよ。……ほら、おいで」
ねだる暁の身体を引き寄せ、抱き締める。よほど嬉しかったのか、蓮の背に腕を回し、広い胸に顔を埋める。
「蓮……良い匂い」
「そうか?」
「うん、良い匂い。………好き……」
「匂いが?」
「ううん。蓮」
いつもは恥ずかしがって言わないようなセリフも、熱に浮かされた今だけはすんなりと紡がれる。
「蓮……喉乾いた」
蓮の胸に顔を埋めたまま、暁は喉の渇きを訴える。だが蓮は嫌な顔一つせずにサイドテーブルに置いてあるミネラルウォーターに手を伸ばす。
「ちょっと待てよ……ほら」
手にしたミネラルウォーターを差し出すと、暁は顔を上げ、しかし
「ヤダ」
と言ってまた埋めてしまった。
「水、要らないのか?」
「いる。飲ませて」
恥ずかし気もなく言う暁に、蓮は笑みを零し、しかし従う。
「ん……」
口移しで与えられる水は少なく、すぐに飲み干してしまったので、もう一度水を含むために唇を離す。と、それを追って口付けられた。
「暁?」
「……もっと」
「水だろう?」
「違う。キス」
何時になく素直に求める暁は可愛いのだが、蓮は理性を繋ぎ止めるのに些か苦労する。
「ダメ」
「何で? キスしてよ、蓮」
「ダメだって。それだけじゃ済まない」
少し困った笑みを浮かべながら蓮は暁を宥めてみる。が、
「? セックスもってこと? オレは別にいいよ?」
と真顔で切り返す。これには蓮も驚きを露わにする。
「……正気か? 病人だぞ、お前」
「当たり前だろ。冗談でンな事言うか」
大胆なのは良いのだが、時と場合を考えて欲しいものだ。何せ暁は――…
「暁?」
「Zzz」
暁は体を壊すと不規則に夢の世界へと旅立ってしまうのだから。
「まあ、そんなとこも可愛いんだけど」
正気の本人が聞いていたら、きっと二つの意味で顔を赤くし、怒っていただろうセリフを呟きながら、暁の頭を撫でてやる。
「ん……蓮……」
「ん? 何だ、夢にまで俺がいるのか?」
「蓮……大、好き……」
寝ているはずの暁が紡ぐ言葉は、本当に普段聴けないような言葉で、蓮は頬が緩むのを自覚する。
「……ったく。お前が病人じゃなきゃ襲ってんだけどなぁ……」
あまり可愛いことを言ってくれるなと、暁の額にキスをする。そして暁の肩口まで掛布を引き上げ、暁の後を追うように蓮も夢の縁に立つのだった。
- END -
最後まで読んでくださってありがとうございます。楽しんでいただけていれば幸いです。