血濡れ包丁と彼女の笑顔
病室のドアを開くと、ヨウコは窓の外をぼんやりと眺めていた。痩せこけた頬は酷く醜く、その部分だけ嫌に影ができていた。夕暮れの明かりがそれを特に強調させる。
「やあ、昨日ぶり」
「昨日ぶり」
僕が右手を振りながらそう言うと、彼女は外を見ながら僕に答える。
「今日は何を見ているの?」
僕は手に持った花束をそっと机の上に置いた。ヒマワリの花は夕日の方を向いている。
「今日。今日は特に何も見てないよ。ただ、ぼーっとしているだけ」
「ふうん」
「ところでさ、なんで今日はヒマワリ?」
ヨウコはヒマワリの種の部分を、細くなった指先で優しく撫でながらそう聞いてくる。彼女の指先は、つい一か月前とは比べられないくらい細く脆くなっている。僕が握ってしまったらぽきりと折れてしまいそうなほどだ。
「ここに来る途中にさ、ヒマワリ畑があるだろ。そこでちょっと拝借させてもらったんだよ。あそこの畑は結構でかいから少しくらいなら大丈夫かなって」
「泥棒め」
「そう言わないでよ。ここからはヒマワリなんて見えないからわざわざとってきたんだぜ?」
ヨウコの顔は笑顔だった。それがあきれての笑顔だったのか。それとも、心からの笑顔だったかはよくわからなかった。ただ、ヨウコの笑顔を見れたのは久しぶりだった。彼女が入院してから今まで、笑顔を見る機会が全くといってなかった。それならば拝借してきてよかったと思う。
「でも、綺麗よね。私とは大違いで今も元気に生きている」