表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】白面に微笑む令嬢探偵 ~椿子の記憶録と沈黙の三事件~ 第一章『仮面の微笑』  作者: ましろゆきな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/11

第八話:沈黙の守人

 黒江堂・夜。 静馬は、展示室の仮面を一枚ずつ磨いていた。 指先に伝わる微かな凹み、裏面に残された古い墨跡―― それらは、語られなかった記憶の痕跡だった。


 三宅恒彦が死んだ日。 静馬は、彼の足音を聞いていた。 展示室に入る前、三宅は一枚の仮面を見つめながら、こう言った。


「語るべきだと思うんだよ。 あの仮面の出所も、澄子の沈黙も」


 静馬は、答えなかった。 ただ、仮面を棚に戻しただけだった。


「語れば、誰かが壊れる。 語らなければ、誰かが忘れられる。 私は、守ることを選んだ」


 三宅が倒れた時、静馬は展示室の隅にいた。 彼の手に握られていた紙片――それは、静馬が書いたものではなかった。 だが、そこに記された言葉は、彼自身の沈黙を映すようだった。


「語る者は、仮面を剥がされる」


 椿子が現れた時、静馬は彼女の目に“問い”を見た。 それは、真実を暴く者の目ではなく、沈黙を理解しようとする者の目だった。


 彼女が言った。


「あなたは、誰を守ったのですか?」


 静馬は、答えた。


「澄子様を。 彼女が語らなかったことを、誰にも語らせないために」


 だが、心の奥では、別の声が響いていた。


「私は、椿子様をも守ろうとしていたのかもしれない。 語ることの重さを、彼女が知る前に」


 椿子が報告書をまとめ、手紙を送ってきた夜。 静馬は、それを読みながら、仮面の棚に一枚の空白を残した。


「この場所は、語られなかった者のために。 そして、語ることを選んだ者のために」


 彼は、椿子の手紙を仮面の裏にそっと挟んだ。 それは、沈黙と語りのあいだにある“理解”の証だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ