第六話:報告書という語り、静馬への手紙
帝都・朝霧邸の書斎。 椿子は、仮面展示室で起きた事件の報告書をまとめていた。 その筆は、冷静でありながら、どこか柔らかさを帯びていた。
「被害者・三宅恒彦氏は、過去に“白面”と呼ばれる仮面の非公開取引に関与していた。 死因は毒物による急性中毒。 仮面の配置、紙片の警告、死後にかぶせられた仮面―― それらは、彼が“語ろうとしたこと”への警告である可能性が高い」
椿子は、報告書の末尾に一文を添えた。
「沈黙は、時に語る以上の力を持つ。 語ることは、誰かを救うことにも、傷つけることにもなる。 私は、語ることの責任を、沈黙の重さと共に受け止める」
彼女は、報告書を封筒に入れ、藤村に手渡した。
「帝都警察へ。 でも、必要以上のことは語らないで。 真実は、すべてを晒す必要はないから」
藤村は、深く頷いた。
夜。椿子は、書斎の灯りの下で一通の手紙を書いていた。 宛先は、黒江静馬。
「静馬さんへ。
あなたの沈黙が、誰かを守るためのものだったと知りました。
私は、語ることを選びました。
でも、それは誰かを裁くためではなく、 誰かの沈黙を理解するためです。
あなたの微笑みが、仮面ではなく“赦し”であることを、私は信じます。
だから、私は語ります。 静かに、慎重に、そして誠実に」
椿子は、手紙を封筒に入れ、白面の絵が描かれた便箋を添えた。 それは、彼女が“語る者”として歩き出すための、最初の一歩だった。




