第五話:沈黙の対峙
黒江堂・応接間。 夕暮れの光が、仮面の棚を淡く照らしていた。 椿子は、静馬の前に立っていた。 その手には、三宅恒彦の過去を記した資料と、“白面”の由来が記された記録。
「静馬さん。 あなたは、三宅氏の死に直接関与していないかもしれない。 でも、あなたの沈黙が、彼を“語らせた”。 そして、その語りが、彼を死へと導いた」
静馬は、椿子の言葉を遮らず、ただ静かに聞いていた。 その瞳には、微かな揺らぎがあった。
椿子は、記録を机に置き、静馬に一歩近づいた。
「あなたは、誰を守ったのですか?」
沈黙が、部屋を満たした。 時計の音が、ひとつ、ふたつと響く。
静馬は、棚から一枚の仮面を取り出した。 それは、“白面”ではなく、無表情の能面だった。
「私は、澄子様を守った。 彼女が“語らなかったこと”を、誰にも語らせないために。 三宅氏は、それを語ろうとした。 だから、私は沈黙を選んだ」
椿子は、静馬の言葉を受け止めながら、問いを重ねる。
「それは、澄子様の意思だったのですか? それとも、あなた自身の“選択”だったのですか?」
静馬は、仮面を見つめながら答えた。
「彼女は、語らないことを選んだ。 私は、その選択を“守る”ことを選んだ。 それが、私の沈黙です」
椿子は、静かに頷いた。
「私は、語ることを選びました。 でも、それは誰かを裁くためではなく―― 誰かの沈黙を“理解する”ために」
静馬は、初めて微笑んだ。 それは、仮面の微笑ではなく、沈黙の奥にある“赦し”のような微笑だった。
この人は、語らなかった。 でも、語らないことで、誰かを守った。 それは、沈黙の中の“優しさ”だった。




