第二話:仮面の間の死
黒江堂・仮面展示室。 椿子が静馬との会話を終え、応接間を出ようとしたその時―― 奥の展示室から、鈍い音が響いた。
「……何かが、落ちた?」
藤村が先に動き、椿子と共に展示室へ向かう。 そこには、倒れた仮面台と、床に崩れ落ちた一人の男―― 帝都美術商組合の理事・三宅恒彦だった。
彼の顔には、白い仮面がかぶせられていた。 だが、その仮面の下から、血が滲んでいた。
神崎が駆けつけ、脈を確認する。
「……死んでいます。 外傷は少ない。だが、口元に泡――毒の可能性があります」
椿子は、展示室を見渡す。 仮面の配置、倒れた台、そして三宅の手元に握られていた紙片。
「“語る者は、仮面を剥がされる”」
椿子は、紙片の文字を読みながら、静馬の言葉を思い出す。
「私は、語ることを選ばなかった。 それが、誰かを守ることになるなら」
静馬は、展示室の隅に立っていた。 その表情は変わらず、沈黙を湛えていた。
椿子は、彼に問いかける。
「この部屋に、誰が最後に入ったのですか?」
静馬は、仮面を一枚手に取りながら答えた。
「三宅氏は、“語るべきではないこと”を語ろうとしていた。 それが、彼の選択だったのです」
椿子は、静馬の言葉に違和感を覚えながらも、展示室の空気に“何かが隠されている”ことを感じ取っていた。
この事件は、語られなかった真実の始まり。 そして、仮面の奥にある“沈黙の動機”を探る旅の第一歩。




