第十一話:語る者としての決意
帝都・朝霧邸の朝。 椿子は、静馬からの手紙を読み終えたあと、しばらく窓辺に佇んでいた。 秋の光が、庭の銀杏を淡く染めていた。
彼の言葉は、沈黙の中で語られた“理解”だった。 語らないことに意味があると知っていた彼が、椿子の語りに耳を傾けると書いてくれた。 それは、椿子にとって“赦されたような感覚”だった。
彼女は、机に向かい、日記帳を開いた。 そこには、まだ誰にも語っていない“記憶”が眠っていた。
「私は、語ることを選ぶ。 でも、それは誰かを裁くためではない。 誰かの沈黙を、理解するために語る。 そして、語ることで、誰かの記憶を守る」
椿子は、日記帳の余白に一行、静かに書き加えた。
「私は、“語る者”になる。 沈黙の奥にある声を、拾い上げる者として」
その瞬間、彼女の中で何かが定まった。 それは、探偵としての使命ではなく、“語り手”としての責任。 真実を暴くのではなく、真実を“選び取る”者としての歩み。
藤村が書斎に入ってきた。
「椿子様。帝都大学からの講義依頼、正式に届きました。 “証言と記憶”について語ってほしいとのことです」
椿子は、微笑んだ。
「ええ、行きましょう。 語る準備は、できています」




