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第一話:仮面の奥にある真実
帝都・冬の午後。 朝霧椿子は、黒江堂の応接間にいた。 依頼人の紹介で訪れたその場所は、骨董と沈黙に満ちた空間だった。
壁には、仮面が並んでいた。 能面、西洋の仮面、そして一枚だけ――表情のない白い仮面が、椿子の視線を捉えた。
「それは、“語らない者”の仮面です」
声の主は、黒江静馬。 黒い手袋をはめ、仮面の埃を払うその姿は、まるで“記憶を磨く者”のようだった。
椿子は、静馬の瞳に揺らぎを見つけた。 それは、何かを知っていて、語らない者の目だった。
「あなたは、何を語らないのですか?」
静馬は、微笑んだ。 だが、その微笑みは仮面のように“感情を隠す”ものだった。
「私は、語ることを選ばなかった。 それが、誰かを守ることになるなら」
椿子は、その言葉に違和感と興味を覚えた。 探偵としての直感が、“沈黙の奥にある真実”を感じ取っていた。
この人は、何かを知っている。 でも、それを語ることが“正義”だとは思っていない。
その瞬間、椿子の中で何かが動き出した。 それは、仮面の微笑の奥にある“語られなかった物語”への扉だった。