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祝福の魔導公 ―転生した天才は魔法で世界を導く―  作者: branche_noir
第3章 顕現する力と揺れる都
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第18話 皇帝からの使者

帝都神殿の最高位、そして皇帝直属の記録官――

その名を冠する者が、エルンスト家の門をくぐったというだけで、邸の空気はひどく張りつめた。


それは力による威圧ではない。

だが、“見る”という行為が、時として最も鋭利な干渉になることを、ここにいる誰もが理解していた。


__________


「アルヴィス様は、今どちらに?」


応接間に通された記録官――ヴァルティナ・セイリスは、神殿色の外套に皇帝紋の小章を佩き、落ち着いた声で尋ねた。


灰銀の髪に、淡い青の瞳。その口元には敬意と静かな探求心。

“記すために存在する者”――まさにその象徴であった。


「書庫にて、魔術構文の解析を行っております」


応じたのは執事長クラウス。

その声音には警戒が混じりつつも“誇り”が先んじていた。


「“学ぶ”とは……やはり、彼の本質はそこにあるのですね」


ヴァルティナは目を伏せ、呟いた。


「“見る”ことが記録官の務めであるならば、私は今日、“証言者”としてここに在るのでしょう。

 ――皇帝陛下より、“その目で記せ”との命を預かっております」


__________



書庫の扉が静かに開かれた。


私は、本を閉じ、顔を上げた。


そこに立っていたのは、見知らぬ女性。

だが、その身に纏う魔素の揺らぎに、“王宮と神殿の両方”の風を感じ、すぐに立ち位置を察した。


「初めまして、アルヴィス様。

 私は帝国記録局、皇帝直属の記録官、ヴァルティナ・セイリスと申します」


彼女は私の前で、静かに一礼した。


「今日は、あなたの中に流れる“魔素の形”を、見せていただければと。

 それは、あなたを縛るためではなく、未来を記すために」


私は何も言わなかったが、魔素をわずかに揺らし、“理解”と“了承”の意を伝えた。


彼女の瞳が一瞬だけ揺れた。

けれど、それ以上は何も言わず、儀式の準備に移った。


__________


観測器具は、神殿特製の高位魔道具で構成されていた。

空間属性の結界内に魔素を流し、その偏向や応答性から術者の“素質”を読み取る仕組みである。


私は両手を器に乗せ、魔素を送り込む。


すると――結晶球が静かに発光を始めた。


赤、青、緑、茶、白、黒、黄、銀。

炎・水・風・地・光・闇・雷・氷の八属性。


さらに、それらの内から滲み出すように現れた四つの光。


精神、空間、時間、そして――創造。


「……全属性、完全共鳴……しかも高位四属性まで……」


ヴァルティナが目を伏せ、そっと息を飲んだ。


__________


観測を終え、器具を閉じた彼女が、ひとつだけと前置きして言った。


「あなたは……“恐れられている”ことを、どう思われますか?」


その言葉に、私は目を細める。


「理解してるよ。

 怖がられる理由も、距離を取られる意味も……その全部」


私は、自分の胸元に手を置いた。


「でも、私はそれを拒まない。

 “そういう存在であること”も、未来に必要なら引き受ける」


__________


夜。私は書斎で一人、星を見ていた。


記録官が去ったあとも、屋敷には言葉にならない静けさが漂っていた。


母セシリアと父ジークフリートは、まだ会談をしているらしい。

ソフィアはすでに隣室で寝息を立てている。静かで、あたたかい。


けれど、私の胸の奥は、どこか冷たかった。


――この“特異”は、きっと消えない。


私は知っている。

私の“本当”は、この世界の誰とも違う。


転生――そう呼ばれる現象が、私に与えた記憶と視点。


だからこそ、私は誰よりも早く、正しく選ばなければならない。


何を創り、何を壊し、何を遺すのか。


__________


その夜、記録官ヴァルティナは書を閉じ、筆を置いていた。


「――この子は、ただの奇跡ではない。

 “記す”に値する、“理を歩む者”だ」


窓の外で、帝都の空が淡く輝いた。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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