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祝福の魔導公 ―転生した天才は魔法で世界を導く―  作者: branche_noir
第3章 顕現する力と揺れる都
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第17話 静かな軋み

静けさが、屋敷を包んでいた。


だがその静けさは、安らぎから来るものではない。

それは、ひたひたと迫る何かを、誰もが察していながら口にせぬときに訪れる類のものだった。


__________


「……坊ちゃまの術式、報告書にまとめ終えました」


騎士団副長のラウルが、応接室にて報告を終える。


その向かいに座るのは、エルンスト家の主――ジークフリート。

傍には執事長クラウスと、軍務文官のマゼランも控えていた。


「七階梯級の複合魔法を即時展開、しかも制御環は一重。

 魔素収束の精度、術式展開速度、いずれも神殿記録基準を超えています。……常識外の数値です」


ラウルは淡々と告げた。だが、その声の奥には、確かな“畏怖”があった。


「……異才とは、いつもそういうものだ」


ジークフリートが、グラスを傾けながら言う。


「アルヴィスは、まだ五つ。だが“すでに”中等師範クラスの術式を会得している。

 その現実を見据えねば、我が家は帝国に対して“中庸の要”を保てぬ」


「――御意」


クラウスらが頭を垂れる。


「皇帝陛下より、非公式ながら勅報がございました。

 “いかなる政治勢力も、坊ちゃまへの接触を控えるように”と。

 同時に、陛下直轄の記録官が、近日中に視察を希望されております」


「早いな」


ジークフリートの声に、マゼランが答えた。


「……“早さ”が、この帝国の最も恐ろしい強みです」


__________


その頃――


アルヴィスは、書庫の一角で静かに書物をめくっていた。

内容は、結界術における“魔素の逆位相干渉”について。


幼い手には分厚い本がやや重たかったが、彼の視線はどこまでも真剣だった。


「……地属性の結界は物理遮断、空間属性は位相安定。

 じゃあ、両方を組み合わせたら――」


「“転移拒絶陣”になるわ」


聞き慣れた声に、顔を上げる。


母・セシリアが、書架の影からそっと現れた。


「すごいわね、まだ誰にも教わっていないのに……理論を組み立ててる」


「……だって、誰かが入ってこられたら困るでしょう。

 ソフィアを寝かせてる部屋の防衛、強化しておかないと」


セシリアは思わず笑みをこぼした。


「あなたは本当に、守るために強くなろうとしているのね」


「それしか考えてないよ、今は」


__________


一方、騎士団詰所。


団長のレオナール・ヴァルステルは、黙って報告書の束を見つめていた。


その表紙には、赤い封印――“機密指定・内示可”の印。


「……この子が、帝国の“未来”になるかもしれん」


そう呟いたのは、かつてジークフリートにも仕えていた先代の副団長。


「おまえが見てきたアルヴィス坊ちゃまは、どんな子だ?」


「礼節を守り、学を求め、力を奢らず、妹を愛し、母を気遣い、父を敬う子です。

 ――ただし、魔素の流れだけは、誰とも違う。どこか、底がない」


「底がない、か」


レオナールは立ち上がり、剣の鍔に手を置いた。


「ならば我らが支えるべきは、“力ある子”ではなく――“人である彼”だな」


__________


夜。

アルヴィスは書斎の椅子に腰掛け、筆を握っていた。


今日もまた、自分用の術式帳に“魔素安定式”の新しい構文を記録していた。


隣のソファでは、ソフィアがくたくたに眠っている。


「……ソフィは、私が守る」


ぽつりと呟いた声に、誰も応えない。


けれど、揺れる燭火が、それを聞いたように揺らいだ。


__________


静けさは、屋敷の外にも広がっていた。


帝都南街区に位置するとある古い屋敷――


「“あの子”が覚醒したそうね」


ほの暗い部屋の奥で、貴族らしき者が小さく笑った。


「帝国の中庸が動かぬ限り、我らも静観するしかあるまい。……だが、あの子が動くなら」


「――均衡が、崩れるかもしれませんな」


__________


静けさの中に、小さな軋みがあった。


それはまだ“音”を立てぬ。

だが、確かに“始まり”だった。

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