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祝福の魔導公 ―転生した天才は魔法で世界を導く―  作者: branche_noir
第3章 顕現する力と揺れる都
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第16話 才覚の顕現

朝露に濡れた芝が、足元にしっとりとした感触を残す。

この訓練場に立つのは、もう何度目になるだろうか。


けれど今日は、明確に“違う”。


「今日は“破壊の魔法”について学ぶ。……それも、実際に“壊す”という意味での魔法じゃ」


クラヴィスの口調には、いつになく重みがあった。


私が父に頼み、彼に教えを請うようになってから、数ヶ月が経つ。

これまでにも、風や水、光といった性質の異なる魔素を操りながら、

その挙動と理を学ぶ日々が続いていた。


だが今日は違う。


戦うということ。


ただの演習ではない、敵意にさらされる未来のために。

私は、ソフィアを守るために、この世界に対峙する力が要ると、そう思った。


__________


「攻撃魔法とは、“威力”で語られるものではない。

 ――“意味”で語られねばならん」


クラヴィスは杖を地に突きながら、訓練場の中央を指差す。


そこには、かなりの厚さのある石柱が一本、突き立てられていた。


「これは軍の標準障壁模擬材。第六階梯の〈地盾〉でも全壊させるには少々手間取る硬さじゃ」


「なるほど……試すにはちょうど良い」


私は右手を構え、炎と風の魔素を指先に集める。


魔素が応える。温度が高まり、周囲の空気が震える。


術式の展開。構文を再確認し、制御環を内に描く。


「――〈焦風刃(ファル=ヴェント)〉」


私の魔素が、鋭い風を纏った火炎の刃を形作る。


そのまま、石柱へ――


〈ズドォン〉!


爆ぜる衝撃。風が巻き起こり、火花が四散する。


砕けた石柱の残骸が、周囲に転がる。


訓練場に、静寂が戻る。


クラヴィスは、破片を一瞥し、口元に手を当てた。


「第六階梯……いや、七階梯に近い……かの」


「まだ粗いと思う。魔素の収束に雑味が混ざった」


「そういう問題ではないですぞ、アルヴィス坊ちゃま」


不意に、声がした。


訓練場の端で見守っていた執事長クラウスが、珍しく前へ歩み出てきた。


「問題は、貴方の力が“誰にも真似できぬ域”に入りつつあることです。

 あの術、制御環を三重にせねば通常は爆散します。それを一重で収束とは……」


私は、首をかしげた。


「それほど奇妙なことだった?」


「……ああ」


クラヴィスがぼそりと呟く。


「“才覚”とは、時に“異常”の別名じゃ。

 おぬしの魔素の流れ、術式の直感的解釈……それらはもはや“常識”の外側じゃ」


私は言葉を返せなかった。


“異常”――それが、私をどう見せていくのかは、まだわからない。


__________


次に試したのは〈地槌陣〉。足元から地を這わせ、打ち上げる魔法。


さらに〈雷撃軌条〉で射線制御を学び、〈光槍〉による貫通実験。

〈氷壁〉と〈熱障壁〉を交互に構築し、魔素の衝突応答を検証する。


そのすべてが、予想を超える精度で成功した。


それは“才能”と呼ぶには、もはや言葉が足りなかった。


騎士団の視察士官たちは、ただ沈黙したまま、筆を走らせ続けていた。



訓練の終わり。私はふと空を見上げた。


「……これが“戦う魔法”か」


私は確かに理解した。


破壊とは、無意味な力ではない。

それを行使する者の“覚悟”が問われる。


だからこそ、私には必要だった。

世界が敵意を持つなら、私は応えなければならない。


その時――


「アル兄!」


振り返ると、ソフィアが駆け寄ってきた。


訓練の熱気がまだ残る私に、彼女は恐れもせず抱きついてくる。


「すごかった! びゅーんってして、がらがらーんってして!」


私は思わず吹き出してしまった。


「……あれは、そんな音してたかな」


「してたの!」


そう言って笑う妹に、私はふと気づく。


彼女だけは、私を“恐れない”。


炎を纏っていても、雷が走っていても、私が“私”である限り、

彼女は変わらずに、甘えてくる。



訓練場の片隅で、クラヴィスがぽつりと呟いた。


「畏れられる者が、愛されるなど……本来は、両立せぬ道じゃ。

 じゃが、その両方を手に入れる者が稀におる。……おぬしが、そうであることを祈っておる」


私は、ソフィアの手を握ったまま、言葉にはせず頷いた。


“この力は、きっとまだ未完成だ。けれど、だからこそ学び続ける意味がある”


そう思えた。


戦うとは、壊すことではない。


護るために、壊さねばならぬことがある――

その意味を、私は掴みはじめていた。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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