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祝福の魔導公 ―転生した天才は魔法で世界を導く―  作者: branche_noir
第2章 才と理、魔法への門出
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第15話 才能の輪郭

陽光が穏やかに差し込む訓練場。

その中心で、私は静かに立っていた。


「――アルヴィス坊ちゃま、準備はよろしいですかな」


老魔導師クラヴィスが、ゆっくりとした足取りで杖を地に突いた。

その視線は、とても真剣だった。


「ああ、始めよう」


私の声は落ち着いていたが、胸の奥には確かな高鳴りがあった。


今日は、正式な訓練の初日。

属性魔法の基本すべてを学ぶ“感応試練”が、今から始まる。


周囲には、数人の騎士団の上級士官と、母セシリア、執事長クラウス、そして数人の魔法文官たちが控えていた。

ただの訓練のはずなのに、妙に多くの目が私に注がれていた。


いや――それは当然なのだろう。

祝福の儀で見せた奇跡。

その真価を、この場で見極めるために。


「では、まずは風じゃ。身を軽く保ち、感応に集中するのじゃ」


私は、右手を前に伸ばし、魔素の流れに意識を沈めた。


一陣の風が吹く。


魔素に私の意志が溶け込む。


“流れて、舞え”


風は即座に応えた。私の足元から滑らかに吹き上がり、

訓練場の空気全体を静かに、しかし確かに揺らした。


「……風属性、反応時間一秒以下。精度、神殿基準を大きく超えております」


背後の記録官が思わず息を呑む声が聞こえた。


だが私は、その声に反応する余裕すらなかった。

すぐに次の属性――地。


私は地面に手をかざし、術式を展開する。


「構築、起動――〈岩盾〉」


瞬時に、私の前に人の背丈ほどの岩の盾が隆起した。


その表面には、歪みもひび割れもない。魔素は密で、計算も正確。


「……次。水を」


クラヴィスの声に、私は深く頷いた。


水。


癒しと再生、そして“包容”の属性。


私は小さな水球を浮かせ、治癒系の初級魔法を模倣する。


その水球は、まるで心臓の拍動に合わせるように、

ふわりと脈打ち、そして柔らかに光を宿した。


「これは……第3階梯の治癒模倣式。だがあの方は、詠唱すらしていないのか……」


誰かがつぶやいたのを、私は聞き逃さなかった。


__________


光、闇、雷、氷。

そして精神属性に触れた時――クラヴィスが、初めて杖を強く地に突いた。


「やめい!」


その声に、魔素が揺れた。


「……いま、魔素が暴れかけたのを感じたかの?」


「……はい。精神属性は、私の“感情”に強く引きずられる……」


「その通りじゃ。精神属性とは、最も“心”を映す高位魔法。

 制御できなければ、他者どころか己をも呑む」


クラヴィスの声は、静かに、だが深く重かった。


「……おぬしの才は、すでに“常軌”ではない。

 だがそれを使う覚悟と制御がなければ、それは“呪い”になる」


私は息を呑み、ただ頷いた。


__________


訓練の終盤。


私は小休止として、中央に戻り、水を口にした。


遠くで見守っていたセシリアが、微笑みながら近づいてくる。


「……わかってはいたけど、あなたの中に、あれほどの強さがあったなんて」


「……強さ、なのかな」


「ええ。“恐れ”を抱かせるほどの強さよ。でも、あなたはそれを振るわなかった。

 だからこそ、私はあなたを誇りに思うわ」


私は少しだけうつむき、息を吐いた。


__________


その後ろから、小さな足音が近づいてくる。


「アル兄!」


ソフィアだった。


彼女は、走り寄ると迷わず私の膝に飛びついてきた。


「すごかった! 風、ばーって! 氷も、ぴかってしてて!」


「ありがとう」


私は、彼女の柔らかい髪に手を乗せる。


その瞬間――

私は、心から安堵していたことに気づいた。


誰かが恐れても。畏れても。

この子だけは、何も変わらずに、私を“兄”として見てくれている。


訓練の片隅で、執事長クラウスが呟く。


「……“才”とは、祝福であると同時に、孤独の兆でもありますな」


老魔導師クラヴィスは、それに答えるようにぼそりと返した。


「それでも、“畏れられる子”が、“愛される子”であり続けるなら――

 その未来は、まだ救い得るのじゃ」


空は高かった。

魔素はまだ私の指先に残っている。

けれど、それはもはや私を焦がす火ではなかった。


それは、確かに――

“誰かのために在るべき才覚”として、輪郭を持ち始めていた。

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