表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝福の魔導公 ―転生した天才は魔法で世界を導く―  作者: branche_noir
第2章 才と理、魔法への門出
15/33

第14話 理の門を叩く日

春の終わり、陽光がやわらかく差し込む日の夕刻。

風は穏やかで、空にはかすかに桜の花びらが舞っていた。


私は、ソフィアの部屋の前にいた。

扉の向こうから、彼女の笑い声と、メイドのクラリッサの優しい返事が聞こえる。


妹の魔素は、日ごとに柔らかく、けれど確かに強くなっている。

だが、それ以上に――私は思い知っていた。


あの日。

“風と遊んだ”あの日。

私はようやく、魔法とは“優しさ”だけではないのだと気づかされた。


風の力を借りて、ソフィアの笑顔を守れた。

だが、もし、あれがただの遊びでなかったら?


もし、風が、敵意と共に牙を剥いていたとしたら――

私は、妹を、守れていただろうか。


「……今の私では、まだ“誰かを守る強さ”が足りない」


私は魔素に想いを込め、小さく自問する。


「ただ優しく魔素を撫でるだけでは、“敵意”には抗えない」


だから――

私は決めた。


戦う魔法を、学ぶ。

妹を、家族を、大切なものを守るために。


私は、父ジークフリートの執務室の扉を叩いた。


__________


重厚な書斎に父の静かな声が響く。


「入れ」


私は扉を開き、躊躇わず進み出た。


「父上。私に、“本当の魔法”を教えてほしい」


ジークフリートの瞳がわずかに細められる。


「本当の魔法、か……。その言葉の意味、わかっているのか?」


「ええ。私は今まで、魔素の繊細な触れ方や心象の投影など、“語る魔法”ばかり学んできました。でも、それだけじゃ――守れない」


私は、ソフィアの笑顔を思い浮かべた。


「誰かを“守り抜く力”がほしい。そのための、戦う魔法を」


ジークフリートは、長い沈黙ののち、ゆっくりと立ち上がる。


「……よかろう。ならば、お前に“理”を教えるにふさわしい者がいる」


彼は机の横に立てかけてあった鐘を小さく鳴らした。


数分後、重厚な扉の向こうから、杖をついた男が姿を現した。


「お呼びかの、ジーク坊――いや、今や公爵閣下か」


しわがれた声、深い紺色のローブに身を包んだ痩身の男。


「紹介しよう。アルヴィス、お前の魔導師範となる――クラヴィス・メレインだ」


クラヴィスは細い目をすぼめ、私を見下ろした。


「ふむ……これが、噂の“祝福の子”かの」


「……よろしく、クラヴィス」


私は、頭を下げた。


「ほう、礼儀も心得ておるとは。見た目ばかりでなく、中身も磨かれておるようじゃ」


彼の声は老人らしく枯れてはいたが、決して衰えてはいなかった。

むしろ、全身から放たれる魔素の“濃度”が、空間を一瞬揺らがせる。


「さて――おぬしは、魔法とは何かを学びたいのじゃな?」


私は頷く。


「よかろう。まずは、魔法体系を頭に叩き込むところから始めよう」


クラヴィスは、執務室の奥の黒板に手をかざし、魔素で属性図を描き出した。


__________


「魔法は、まず“八つの基礎属性”からなる」


クラヴィスの指が空間に描かれた魔法円をなぞる。


「炎、水、風、地、光、闇、雷、氷。これらが自然魔素じゃ」


私は頷きながら、それぞれの性質を口にした。


「炎は破壊と浄化、水は癒しと流動、風は伝達と速度、地は封印と構造……」


「そのとおりじゃ」


クラヴィスの指が、円の外側にさらに複雑な文様を描く。


「そして、精神、空間、時間、創造。これらが高位属性じゃ。

 精神は心、空間は座標、時間は因果、創造は理そのもの――神話級の力ともいえる」


私は、思わず息を呑んだ。


「創造……それは、物質を作り出すのですか?」


「いや。“意味”を再構築する。存在そのものに、定義を与えるのじゃ」


その概念の奥深さに、私は震えた。


クラヴィスはさらに続ける。


「次に、魔法の“階梯”じゃ」


彼の杖が次々と文字を描き出す。


第1〜3階梯:初級魔法(生活・照明・簡易治癒)


第4〜6階梯:中級魔法(戦術・防御・回復)


第7〜9階梯:上級魔法(領域支配・広域制圧)


第10〜12階梯:超級魔法(理を操る・超広域制圧)


第13〜14階梯:禁呪(魂や時空への干渉・環境への甚大な影響)


第15階梯:神呪(体系外・創造魔法)


「おぬしの魔素量なら、第12階梯まで既に“見通して”おる。

 あとは、“選ぶ”ことじゃ。どの魔法を使うか、ではなく、何を守るために使うのか」


私は、はっきりと口にした。


「ソフィアを。家族を。……そして、私自身の“信念”を」


クラヴィスは、目を細めて笑った。


「それがあれば、いつかおぬしは“神呪”にも届くやもしれんな」


__________


その夜、私は書斎で筆を取り、初めて魔術式の構築図を描いた。


“炎の渦”――第4階梯の戦闘魔法を再構築し、制御式と結界式を重ねたもの。


「これが……私の、戦う魔法の始まり」


魔素が筆先に沿って流れ、小さな紙に淡い赤の術式が刻まれた。


私は、書き終えた図式を見つめながら誓った。


優しさだけでは、守れないものがある。

ならば私は、“力”を得る。


けれど、それを誇るためではない。


――誰かの笑顔を、壊させないために。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

もし面白いと思ったら、評価とフォローをしてくれると、作者のモチベーションがとても上がります!!

感想やレビューなどもしてくれると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ