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祝福の魔導公 ―転生した天才は魔法で世界を導く―  作者: branche_noir
第2章 才と理、魔法への門出
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第13話 妹と風の遊戯

<カクヨムで先行配信してます>

春の陽が高く昇り、エルンスト本邸の中庭に柔らかな風が吹いていた。


その風に舞うのは、白い花弁と……子どもたちの笑い声だった。


「ふわっ……! また飛んだ!」


ソフィアが歓声を上げて、両手を空に伸ばす。

彼女の小さな掌の上で、淡い風の渦がくるりと花を持ち上げた。


「風が、ソフィにやさしくしてくれてる……!」


「うん、ソフィアの魔素が“ありがとう”って伝えてるからだよ」


私は微笑んで、彼女の背に回った風の流れを、そっと補助する。


魔素の循環はまだ不安定だけど、感情の純度が高い分、自然との調和はとてもスムーズだった。


「すごいよソフィ。前よりずっと長く風を保ててる」


「ほんと? アル兄が手伝ってくれたからだよ!」


「違うよ。僕は“風の心”を少しだけ手伝っただけ。動かしてるのは、君」


彼女の頬がぽっと赤らむ。

誇らしげに胸を張るその姿は、まるで小さな女騎士のようだった。


__________


公爵家での密会があった日から数日たったある日、

私はソフィアを連れて、屋敷裏手の“風の丘”に向かっていた。


高台にあるその一角は、古くから「風の試練場」と呼ばれ、騎士団や魔法の訓練に使われていた場所だ。


だが今日は、ただの遊び。

妹と一緒に、“風と遊ぶ”ための時間だった。


「ここ、空が近いね!」


ソフィアが無邪気に笑う。


「そうだね。魔素の流れも澄んでる。

 風を感じるには、ちょうどいい場所だよ」


私は地面に軽く手をかざし、風素を喚び出す。


「じゃあ、今日は“風の踊り”を教えるよ」


「風が踊るの?」


「うん。魔素の波をリズムで揺らして、自然の音に合わせて踊らせる。

 音と魔法、両方使うんだ」


私は指先で軽く弾くように風を呼び、それに合わせて低く詠唱した。


――ひゅるる、と風が鳴った。


まるで笛のような高音が丘に響き、同時に花弁が宙を舞った。


ソフィアが目を輝かせる。


「アル兄、それもう一回やって!」


「じゃあ、次は一緒に。君は“気持ち”を風にのせて」


ソフィアは目を閉じ、静かに両手を広げた。


「……楽しい。アル兄と一緒、うれしい。風さん、いっしょに遊ぼう……!」


その瞬間、風が彼女のまわりを包み、白い花弁が舞い上がった。


ただの風じゃない。

彼女自身の感情が、確かに“形”となって揺れていた。



騎士団長のレオナールが、遠くからその様子を見守っていた。


「……あれが、坊ちゃまと妹君の魔法か」


「ええ。何度見ても、不思議な光景です」


そう言ったのはクラリッサだった。

彼女は温かな眼差しで、二人の姿を眺めていた。


「まるで、“言葉を持たない詩”のようだと思いませんか?」


レオナールは黙って頷いた。


__________


風の遊びを終えた私たちは、丘の上に並んで座った。


「ソフィア、疲れてない?」


「ぜんぜん! 風さんがね、“もっと遊ぼう”って言ってる気がした」


「うん。風は正直だからね。楽しいって伝えたら、必ず応えてくれる」


「じゃあ……アル兄の風は、なんて言ってるの?」


私は少しだけ考えてから、答えた。


「“守りたい”って、言ってるよ」


ソフィアがきょとんとした。


「……ソフィを?」


「うん。君は僕の妹だから。大切だから。

 もし風が、君を傷つけそうになったら、僕が止める」


ソフィアは少し黙ってから、ぎゅっと私の手を握った。


「そしたら、ソフィも守る。アル兄が泣いたら、ぜったい泣き止むまでそばにいる」


私は苦笑しつつ、その手を握り返した。


「ありがとう。君がいると、僕の魔素もやわらかくなるよ」


__________


その夜。


夕食を終えたジークフリートと私は、久々にふたりきりの時間を持っていた。


「今日は、妹と“風と遊んだ”そうだな」


「うん。ソフィア、すごく魔素が伸びてきてる」


「お前は、妹が“魔法を持っている”ことに、どんな意味を感じる?」


「“共に歩ける”ってことかな。孤独じゃないって思える」


ジークは少しだけ、目を細めた。


「それは強さだ。だが同時に、脆さでもある。

 “誰かと歩く”ことには、常に責任がつきまとう」


「……僕、ソフィアを守るよ」


「ならば、まず“自分の心”を守れ。お前が倒れれば、誰も守れない」


私はその言葉を胸に刻んだ。


__________


夜。


私は自室の窓から、風に揺れる木々を見ていた。


風は形を持たない。けれど、そこには確かな“意志”がある。


その風を、私は今日、ソフィアと共に操った。

言葉では伝えきれない何かを、確かに分かち合った。


兄妹という絆。

魔法という言語。

そして、感情という力。


そのすべてが、私の中で静かに――しかし、確実に育っていた。


私はそっと目を閉じた。


明日もまた、風が吹く。

そして私は――その風を、誰かのために編んでゆくだろう。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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