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時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
始まりの旅路、導きの歌と宿命の抗争

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歌精と霊舞を決める大会本戦 二日目 04

歌精と霊舞を決める大会本戦一日目、四季崎は初戦で蒸気を操る霊煙と対戦する。

霊煙のトリッキーな魔法に苦戦するも、冷静な分析と機転で勝利を収め、二回戦進出を決める。

一方、伊勢も歌唱部門でなんとか勝ち進むが、次の対戦相手のレベルの高さをイリーネから指摘され、厳しい特訓を受けることになる。


その夜、四季崎は大会中に現れた謎の男「冬兎」と再び遭遇する。

冬兎は明日から仕事で会えなくなると告げ、自身が「アーティファクト(遺物)」の運送業をしていると明かす。

その言葉に四季崎は警戒心を抱くが、詳細は語られない。

ギルドに戻り、四季崎がイリーネに冬兎の話をすると、「アーティファクト」という言葉にイリーネは動揺し、急に用事を思い出したように立ち去ってしまう。

残された四季崎は「アーティファクト」という言葉の意味を訝しみながらも、明日の二回戦に備える。

 漣は素早く木製の棍を背中に回し、しっかりと構え直すと、鋭い眼差しをこちらに向けた。そのまま一気に間合いを詰め、地面を蹴って勢いよく突っ込んできた。


 私は迎え撃つように、両手で鞭を長めに握りしめた。漣はその体勢が自分が知らない未知の動きであるかのように、不思議そうな表情を浮かべながらも間合いに踏み込む。


 すると漣は、身体を巧みに使って素早く回転し、木製の棍を勢いよく横薙ぎに振り抜いた。棍が風を切る音と共に鋭く横へと走り、その一撃はまるで刃物のような威圧感を放っていた。


 私はピンと張った鞭で漣の木製の棍を受け止めた。鞭が棍の勢いを一瞬だけ止めると、素早く鞭を巻きつける動作に移る。鞭が棍に絡みつくと同時に、私は力を込めて横へと強く引っ張った。


 漣はその不意の抵抗に体勢を崩し、バランスを崩してよろめく。彼女の眉間に一瞬の驚きが走り、次の動きを探るように目を細めた。


 予期せぬ行動に前のめりになった漣を横目に、私は鞭を持った片手を離した。そのまま勢いよく半回転し、腹部めがけて鋭く蹴り上げた。


 蹴りを放った勢いをそのまま活かし、続けてもう半回転。身体の回転力を鞭に乗せて、漣のわき腹を狙い追加の一撃をお見舞いした。鞭がしなやかにしなり、風を切る音と共に鋭い痛みが彼女の身体を襲った。


攻撃を受けながらも、漣は猫のようなしなやかな身のこなしで両足をしっかりと着地させた。蹴られた腹部を押さえながら、軽く咳き込む。その表情には痛みがにじんでいたが、弱々しいながらも確かな意志を込めて、ゆっくりと木製の棍を構え直した。


「そんな使い方があるなんて、全然考えもしなかったよ」


 私は再び両手で鞭をしっかりとつまみ、漣に対して身体を斜めに構えた。鞭はピンと張り、まるで今にも放たれそうな緊迫感を漂わせている。


「あなたがやったこととの違いはありませんよ。ただ、相手との距離が近いか遠いかの違いに過ぎません」


 今度は、まるで剣を鞘から抜き放つかのような鋭い勢いで鞭を振るった。鞭が空気を切り裂く音が響き渡り、そのしなやかな鞭先が鋭く伸びていく。


 漣はその一撃の射程を慎重に見極め、わずかに身体を後ろへ反らせ、攻撃の届く範囲を冷静に測りつつ、次の動きに備えて身構えようとしていた。


 漣はこれで攻撃が当たらないと判断したようだったが、予想よりも鞭の射程が長かったのか、左肩に鋭く直撃した。思わず顔をしかめ、身体が大きく後ろへ揺らぎ、バランスを崩してふらついた。


「慣れている武器ほど、射程感覚が鈍ってしまうことがありますからね」


 鞭の攻撃に対する恐怖心が漣の胸にじわりと湧き上がり、彼女は無意識のうちに後ろへと足を引いた。しかし、気がつくと今度は自分が舞台の縁の上に追い詰められていることに気づいた。


 背後にはもう逃げ場はなく、冷たい汗が額を伝い落ちる。


「まさかと思うけど、こちらの攻撃が通っていたのは、そのせいかい?」


 私は肩をすくめるだけで、肯定も否定もしなかった。


(単純に躱しきれなかったとはいえないな……)


 そこからは、漣が舞台の縁で身動きの取れない劣勢を強いられる状況が続いた。最初のうちは鞭の嵐に翻弄されていた彼女も、時間が経つにつれて私の攻撃パターンや間合いを掴み始めたのか、次第に攻撃が当たる回数も減ってきた。鞭が空を切る音が何度も響き、彼女の紙一重の回避が続く。しかし、その表情には徐々に疲労の色が見え始めていた。


(そろそろ、決着をつけます。お願いだから、今回はどうか当たらないでいてくれ……)


 そう心の中で静かに呟くと、先程と同じように居合抜きの姿勢を取った。


腕の力だけで、漣の頭部――特に両目を狙うように、視界を覆い隠す勢いで鞭を振るった。彼女の瞳には一瞬、鋭い警戒の色が走り、さすがの漣もその危険を察知した。足元を軽く跳ねさせるようにして後退し、これまで以上に確実に距離を取ろうと身を引き、攻撃範囲の外へと身を逃がした。


(これで漣のこちらへの意識は完全に逸れた!)


 足に意識を集中させ、地面を強く蹴り出して最速で距離を詰めた。漣がこちらの存在に気づくよりも早く、素早く彼女の右手首を鞭で絡め取り、動きを封じる。鞭の締め付けに抵抗する彼女の腕を押さえつつ、そのまま背後へと回り込み、勢いよく膝裏を蹴り飛ばし、彼女は堪えきれずに跪く。躊躇なく、素早く鞭を首に巻き付け、締め上げて動きを完全に封じた。


「早めに降参をお勧めのしますよ」


 漣は首に巻きついた鞭の締め付けで呼吸が浅くなり、喉の奥が締めつけられるような痛みをこらえながら、苦しそうに眉をひそめた。顔は赤みを帯び、唇はわずかに震えている。それでも、いたずらっぽく口元を吊り上げ、必死に絞り出すように言葉を紡いだ。喉の奥で詰まるような息遣いを漏らしながらも、その瞳にはどこか挑発的な光が宿っていた。


「女を鞭で縛るなんて、なかなかいい趣味をしてるね。気を失った私に、いったい何をするつもりだい?」


漣は甘く囁くような声で、唇の端に少し挑発的な笑みを浮かべていた。その瞳は艶めかしく、まるでこちらを誘うかのように揺れている。


 だが、私は首をかしげながら、まるで何も感じていないかのように冷静に「何もしないさ」と答えた。彼女の誘いをまったく意に介さないその反応に、漣は一瞬戸惑いの色を浮かべた。やがて諦めたように呟くように「この鈍感……」と言い残し、力なく意識を失った。


 最後まで反撃の機会を伺っていた腕から、木製の棍が静かに滑り落ちていった。念の為、落ちた棍を遠くに蹴り飛ばしておいた。


(最後の一言、いったい何が言いたかったんだ?)


 その疑問を抱えたまま、試合終了の合図が告げられた。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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