歌精と霊舞を決める大会本戦 二日目 03
歌精と霊舞を決める大会本戦一日目、四季崎は初戦で蒸気を操る霊煙と対戦する。
霊煙のトリッキーな魔法に苦戦するも、冷静な分析と機転で勝利を収め、二回戦進出を決める。
一方、伊勢も歌唱部門でなんとか勝ち進むが、次の対戦相手のレベルの高さをイリーネから指摘され、厳しい特訓を受けることになる。
その夜、四季崎は大会中に現れた謎の男「冬兎」と再び遭遇する。
冬兎は明日から仕事で会えなくなると告げ、自身が「アーティファクト(遺物)」の運送業をしていると明かす。
その言葉に四季崎は警戒心を抱くが、詳細は語られない。
ギルドに戻り、四季崎がイリーネに冬兎の話をすると、「アーティファクト」という言葉にイリーネは動揺し、急に用事を思い出したように立ち去ってしまう。
残された四季崎は「アーティファクト」という言葉の意味を訝しみながらも、明日の二回戦に備える。
私は飛んできた鞭を木製の棍で受け止めた。鞭はしなやかにしなりながら、まるで生き物のように棍に巻きついていく。くるくると素早く回転しながら、鞭の先端が棍の周囲を絡め取るように絡みつき、逃げ場を失った棍が鞭に捕らえられた。
「やっぱり、負けるのが、悔しくなったのかい?男らしくないね!」
両者は互いに力を込めて引っ張り合い、まるで綱引きのような緊迫した状態になった。
「負けを認めた?まさか!私はただ、舞台の端がここまでかっと言いたかっただけですよ?」
木製の棍と鞭が絡み合い、張り詰めた張力が腕や全身に伝わる。漣の身体も鞭とともに揺れ動き、私も踏ん張りを利かせながら一歩も引かずに対峙した。
「それなら、今ここでアタイが引導を渡してあげるよ!」
漣は鞭を自分の方へ手繰り寄せ、全身の力を込めて強く引きつけた。その瞬間、私は迷わず木製の棍を手から離した。絡みついていた鞭は急激に引っ張られ、棍は勢いよく宙を舞う。棍の回転する動きに引きずられるように、鞭は絡まりを解き、一気にほどけていった。
急に力が抜けた漣は、バランスを崩して後ろによろめいた。焦りの色が浮かんだその表情のまま、無意識に武器を握る手が緩み、武器を手放してしまった。慌てて踏ん張ろうとしたものの、体勢は不安定で、必死に倒れまいと足を踏みしめていた。
私は咄嗟に駆けだした。視線の先にあった一番近くの武器に狙いを定め、手を大きく伸ばす。指先が武器の柄に触れそうになる瞬間、対する漣も素早く反応し、同じく近くにあった武器へと駆け寄った。彼女の動きは俊敏で、私とほぼ同時に武器を掴み取る。互いの動作が交錯し、まるで一瞬の勝負を繰り広げているかのようだった。
私と漣は、互いにすれ違うようにしてすばやく通り過ぎた。ほんの一瞬、背中がかすめ合うほどの距離だ。通り過ぎた直後、私は反射的に振り返り、手にした武器を構える。漣も同時に振り返り、その鋭い眼差しと共に武器を構えた。
私は手にした鞭を手元で輪っか状丸めた。
対する漣は、木製の棍を確かめるように見つめた。
「お互い、ついてないねぇ。まさかこんな形で武器が入れ替わるなんて、運命の悪戯ってやつかな?」
漣は軽く笑みを浮かべながら、手慣れた動作で棍を指先でつまみ上げると、滑らかにくるくると回し始めた。棍は彼女の手の中でまるで生きているかのように自在に舞い、回転するたびに軽やかな空気を切る音が響いた。
「そもそもこれが狙いではなかったんですか?」
くるくると回していた木製の棍をゆっくりと止め、鋭い眼差しでこちらを見据えた。たとえ本当の狙いを言い当てられたとしても、その表情には揺るがぬ余裕が漂っていた。
「気づいてたのかい?人が悪いね」
「鞭はそもそも扱いが難しく、殺傷能力も低いため、使い手が少ないはずです。そんな中で、なぜあえて鞭を選んでいるのか、不思議で仕方なかったんですよ」
鞭を手に取り、まるで確かめるかのようにゆっくりと引っ張ったりしながら、軽やかな口調で答えた。
「じれったいね。それだけじゃないんだろ?」
鞭の確認を終えると、ここからが本番とばかりに鞭を構えた。
「最初はこちらの武器が棍だったことを考慮して、武器を変えた可能性も考えました。しかし、あなたは戦闘開始から一度も鞭で武器を弾き落としたりせず、一貫して心理戦を仕掛け、長期戦を挑んできましたね」
「それのなにがなんだい?」
漣は意味が分からないとでも言うように首をかしげた。
「相手に合わせて武器を変える利点は、不利な状況に相手が順応する前に決着をつけることにあります。逆に心理戦を行うということは、戦いで勝つ意思が薄いとも言えます」
「その目的がこれってわけかい?」
漣は自分が持っている武器を示した言った。私はそれに答えるように頷いた。
「あんたの読みは正しいよ。アタイの狙いは武器の交換さ。でも、あんたは鞭なんて使えるのかい?」
漣は煽るような笑みを浮かべ、挑発してきた。
私は挑発に応えるように、先ほど漣が扱っていたような美しい鞭さばきを披露した。その動きに、漣は予想外の驚きを隠せなかった。
「私は棍と同等に鞭も……大抵の武器は師匠に叩き込まれているので、問題ありません」
漣は一瞬だけ目を細め、わずかに肩をすくめるようにして自嘲気味に笑みを浮かべた。その笑いには悔しさと認めざるを得ない諦めが混じり合い、自信満々な態度とは違う、一瞬の弱さが垣間見えた。
「どうやら、あんたを見くびっていたみたいだね。名前は?」
(こんな時に偽名を名乗らなければならないのは、胸が痛む……)
一瞬、本名を名乗りそうになるのをグッと堪えると、慌てて偽名を名乗った。
「夏季ですけどね、試合前に紹介があったはずなんですけど、覚えてますか?」
「覚えてるさ。でも、興味のない名前はすぐ忘れるのが礼儀ってもんだろ?さあ、ここからが後半戦だ!」
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