歌精と霊舞を決める大会本戦 二日目 - 波乱の幕開け
歌精と霊舞を決める大会本戦一日目、四季崎は初戦で蒸気を操る霊煙と対戦する。
霊煙のトリッキーな魔法に苦戦するも、冷静な分析と機転で勝利を収め、二回戦進出を決める。
一方、伊勢も歌唱部門でなんとか勝ち進むが、次の対戦相手のレベルの高さをイリーネから指摘され、厳しい特訓を受けることになる。
その夜、四季崎は大会中に現れた謎の男「冬兎」と再び遭遇する。
冬兎は明日から仕事で会えなくなると告げ、自身が「アーティファクト(遺物)」の運送業をしていると明かす。
その言葉に四季崎は警戒心を抱くが、詳細は語られない。
ギルドに戻り、四季崎がイリーネに冬兎の話をすると、「アーティファクト」という言葉にイリーネは動揺し、急に用事を思い出したように立ち去ってしまう。
残された四季崎は「アーティファクト」という言葉の意味を訝しみながらも、明日の二回戦に備える。
❐ 四季崎の視点
歌精と霊舞を決める大会本戦 二日目
昨日の《アーティファクト》という言葉を聞いた瞬間のイリーネの動揺した表情が気になり、今日もいるであろうイリーネを再度尋ねようと受付へ向かった。しかし、昨日とは違い、受付で仕事をしていたのは歌川だった。彼女はどこか不機嫌そうに仕事を処理しており、少し近寄りがたかった。
イリーネの所在を確認するしかない私は覚悟を決めて話しかけた。
「おはようございます。イリーネさんは?」
彼女の名前を聞いた瞬間、歌川の動きが一瞬で凍りついた。ゆっくりと動き出すように顔を上げると私をにらみつけた。そこからは普段の冷静な彼女の雰囲気は感じ取れなかった。
「知りませんよ!この一枚、置手紙残して、忽然と!信じられますか!?」
歌川は机に置いてある一枚の羊皮紙を指先で苛立たしげに叩いた。
そこにはこう書かれていた。
『歌川ちゃんへ
わたくし、急用でいなくなるけど、大丈夫。あなたなら問題なくこなせるから。 イリーネより』
きれいな字で書かれた置手紙には最後にサインまで入っていた。歌川曰くこのサインは正式なサインではなく歌姫としてファンに書くサインらしい。
「こんな日に限って仕事量が多いんです。さすがにさばき切れませんよ!先輩が戻ってきたらどうしてらろうか……」
いつもの丁寧な物言いが崩れ、口からはイリーネに対する恨みつらみがこぼれ出ていた。
(緊急の私用だと?昨日のあの「言葉」が、これほどの事態を引き起こしたというのか?)
これ以上歌川に係ると何がとばっちりが飛んできそうに感じ、早々にお礼を言って立ち去ろうとした。食堂に向かいかけた足を止めるかのようにいつもの冷静な言葉遣いに戻った歌川が呼び止めた。
「手紙とは別で伊勢さまの護衛の引継ぎはしておりますので、ご心配なく。ですが、この仕事ですので、大会参加中以外はここにいてもらいます」
それだけ告げると、仕事に戻ってしまった。再び食堂に向かおうとすると、私は歌川と話している間に降りてきたのか、伊勢が食堂で座って食事を待っていた。私はそちらに駆け寄っていくと気づいた伊勢が手を振りながら挨拶をし、それに答えるように手を上げて答える向かいに座った。
「四季さん、今回の試合はいつ頃なのですか?」
今度こそ、観戦に行きたいのか、気合十分な伊勢の姿を見ていると、先ほどの歌川の鬼気迫る表情と相まって少し心が和んだ。
「私は午前中の第二試合ですね。伊勢は?」
「ボクは午後からです!やっと、四季さんの試合が見れます!」
ついに試合の観戦できる喜びに席から勢いよく立つとそのまま跳ねだしそうな勢いで嬉しそうな伊勢を見て、ふと先ほどの歌川の言葉を思い出した。申し訳なさそうにそのことを伝えると、喜びが一気に悲しみに反転して崩れ落ちるようにして椅子に座ると机に突っ伏していしまった。
さすがに見ていられない姿になにかかける言葉を探して、思いついた事をそのまま言葉にした。
「そういえば、私はまだ伊勢の歌声を聞いたことがないですね。私の試合が終わるころにはちょうど伊勢の出番がではないですか?いやー楽しみですね。それだけで私のやる気も上がってきます」
言い終えるとチラリと伊勢の方を見た。伊勢はゆっくりと起き上がりながら、私に対して、大きな瞳をこれでもかと開き、目をランランと輝かせていた。
「四季さんがそんなこと言ってくれるなんて!……うれしい、すごくうれしいです!四季さんが試合に出ている間も練習して、完璧な状態で挑ませていただきます!」
いつも以上になる気になってくれた伊勢を見れて安心した私を食事を取りながら、時間を確認した。
(もうそろそろ時間か)
最後に水を一気に飲み干すと席を立ち、伊勢に「行ってきますね」と告げてギルドをあとにした。
さすがに三度目となると、仮面をつけて受付をしても不審に思うことなく、むしろ羨望の眼差しを向けていた。最後には去り際に「頑張ってください」と励みの事はをもらえるくらいだった。
控室まで行くと、昨日の熱狂が嘘のように静寂に包まれており、まるで今から始まる試合を楽しむために力を蓄えているようだった。控室に着くと持ってきた木製の棍に異常がないか最終確認を行いながら、始まりを待っていた。
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