戦いの余韻と迫る影 02
四季崎は大会予選に仮面をつけて参加し、熱気あふれる会場で多彩な参加者たちの中に身を置く。
実力者たちの滑らかな「清流の型」とは異なり、彼は激しい「瀑布の型」を選び、迫力ある舞で観客を魅了。
審査員の厳しい視線の中、ギリギリで予選通過を果たし安堵する。
予選後、修練を続ける四季崎は、怪しい男「冬兎」と再び遭遇。
男は冷ややかな態度で四季崎を警戒させるが、すぐに姿を消す。
冬兎の正体に疑念を抱きつつ、四季崎は警戒を強める。
ギルドに戻ると疲れ果てた伊勢と元気なイリーネの対比が印象的で、冬兎の謎は深まるばかりであった。
一昨日と昨日、突然現れた「冬兎」と名乗る男のことが頭から離れず、私は夜中に目を覚ました。
(あの男とはできるだけ関わりたくない……だが、無視するにはあまりにも危険すぎる存在だ)
重いまぶたをこすりながら身だしなみを整え、いつもの愛用の武器《四季》に手を伸ばしかけたが、何となく気が進まず、代わりに練習用の木製棍を手に取った。硬く冷たい木の感触が、妙に心を落ち着かせてくれた。
どこへ向かうべきか迷ったが、あの男はどこにいても現れる気がして、昨日と同じ広場へ足を運んだ。
広場の中央には、既に冬兎が立っていた。いつもとは違う、静かにこちらを見据えるその姿に、ぞくりと背筋が凍るような不気味さを感じた。
「こんばんは、夏季さん」
彼の声は普段よりも低く、どこか冷たく響いた。まるで何かを企んでいるかのような含みを持った挨拶だった。
「今回は不意打ちではなく、きちんと姿を見せたんですね」
私は警戒心を強め、いつでも武器を扱えるように全身に力を込めた。
冬兎はわざとらしく頬をさすりながら、にやりと笑う。
「昨日は危うく殴られるところでしたからね。少しは反省しましたよ」
その言葉に思わず眉をひそめる。どの口がそんなことを言うのか、と心の中で呟いた。
「実は今日は、君に残念なお知らせがあって、ずっと待っていたんだ」
私が黙っていると、彼は話を続けた。
「実は明日から仕事が忙しくなりそうで、今日が会える最後の日になります。とても残念です」
「そうですか……それは残念ですね。ところで、お仕事は何をされているんですか?」
私は相手の正体を探るため、慎重に問いかけた。冬兎は一瞬だけ微笑みを浮かべ、低く静かな声で答えた。
「おや?私に興味を持っていただけるとは、嬉しいことです。そうですね……私は運送業を営んでいます。明後日には、非常に重要な荷物が届く予定で、その準備をしているところです」
「どのような荷物ですか?」
「夏季さんもギルド?の一員であれば、依頼人に関する情報の機密性がどれほど厳重か、よくご存じでしょう?」
私は言葉を選びながら答えた。
「ええ、そうですね。ただ……大会の最中に荷物を運び込むとは、まるで警備が手薄になる瞬間を狙っているように思えます。もしかして、大会の出場者が標的だったりとか?」
その言葉を口にした瞬間、冬兎の瞳が鋭く細まり、周囲の空気が一変したのを感じた。まるで刃物が空気を切り裂くような冷たさが辺りを包み込む。
「やめてください。詮索は野暮というものです」
彼はゆっくりと人差し指を口元に当て、声を潜めて続けた。
「仕方がありませんね……今回の荷物は、秘密なんですが……。実は『アーティファクト』の運搬なんです」
「あーてぃふぁくと?」
聞き覚えのない言葉に困惑していると、冬兎は知らなくて当然とばかりに言い換えてくれた。
「あぁそうでした遺物ですよ、い・ぶ・つ。最近、内海で発見されたものを適切な機関に運ぶ重要な仕事なんですよ。これ以上話すとさすがに私の首が飛んでしまいます」
その言葉が終わると同時に、冬兎はこれ以上の詮索を拒むかのように口をつぐんだ。
「そうですか。頑張ってください」
私がそう言うと、冬兎はふっと笑みを浮かべたかと思うと、いつものように私のすぐ横に現れ、耳元で低く囁いた。
「あなたも……」
その声が消えた瞬間、彼の姿は一瞬にして消え失せ、立っていた場所には白い湯気がうっすらと立ち上っていた。だが、その湯気もすぐに風に流され、跡形もなく消えていった。
(一瞬のうちに距離を詰められた……魔法によるものか?)
ギルドに戻ると、いつもの光景がそこにあった。イリーネと倒れて寝ている伊勢だ。
「イリーネさん。今日も冬兎が現れました。今日が今日が最後だそうです」
私は静かに報告した。イリーネはホットミルクの入ったマグカップを両手で包み込み、目を細めながらもどこか興味なさそうに尋ねた。
「何か、特別なことを言っていましたか?」
私は冬兎が話した遺物の運搬の話を伝えると、彼女はホットミルクを啜りながら少し考え込むように呟いた。
「そんな情報はないのですが……」
しかし、次の一言がイリーネの関心を強く引いたようだった。
「それと気になる事をいてました。確か……《あーてぃふぁくと》と」
その言葉と同時に、イリーネの手から力が抜けたように、持っていたホットミルクのカップが手から滑り落ち、机の上を伝って反対側で眠っていた伊勢の方へとこぼれ落ちた。白い液体が頬にかかり、伊勢は目を擦りながらゆっくりと起き上がった。
「ふぅん……なに?」
伊勢はまだ眠そうな目でぼんやりと呟いた。
イリーネは普段通りの冷静な調子で、「ごめんなさい、こぼしちゃいました」と軽く謝り、すぐに伊勢に促した。
「伊勢、部屋に戻りなさい。今日はもう休んだほうがいいわ」
伊勢は一度大きく身体を伸ばし、少し不満げな表情を見せながらも、言われるままに自分の足で部屋へと戻っていった。
「それで、イリーネさん……」と私は続けようとしたが、その時、イリーネは珍しく私の言葉を遮った。
「すみません。用事を思い出しました。これで失礼します。明日、頑張ってくださいね」
そう言うと、彼女は完璧な一礼をして、受付の奥へと静かに消えていった。
部屋に残された私は、イリーネの言葉とその態度の意味を考え込んだ。
(なんなんだ?《あーてぃふぁくと》って……)
自分の知識にはないその単語が頭の中でぐるぐると回り、答えの見えない疑問が胸に重くのしかかる。だが、明日の戦いに備えなければと、自室へと足を向けた。
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