表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
始まりの旅路、導きの歌と宿命の抗争

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/312

戦いの余韻と迫る影 02

四季崎は大会予選に仮面をつけて参加し、熱気あふれる会場で多彩な参加者たちの中に身を置く。

実力者たちの滑らかな「清流の型」とは異なり、彼は激しい「瀑布の型」を選び、迫力ある舞で観客を魅了。

審査員の厳しい視線の中、ギリギリで予選通過を果たし安堵する。

予選後、修練を続ける四季崎は、怪しい男「冬兎」と再び遭遇。

男は冷ややかな態度で四季崎を警戒させるが、すぐに姿を消す。

冬兎の正体に疑念を抱きつつ、四季崎は警戒を強める。

ギルドに戻ると疲れ果てた伊勢と元気なイリーネの対比が印象的で、冬兎の謎は深まるばかりであった。

 一昨日と昨日、突然現れた「冬兎」と名乗る男のことが頭から離れず、私は夜中に目を覚ました。


(あの男とはできるだけ関わりたくない……だが、無視するにはあまりにも危険すぎる存在だ)


 重いまぶたをこすりながら身だしなみを整え、いつもの愛用の武器《四季》に手を伸ばしかけたが、何となく気が進まず、代わりに練習用の木製棍を手に取った。硬く冷たい木の感触が、妙に心を落ち着かせてくれた。


 どこへ向かうべきか迷ったが、あの男はどこにいても現れる気がして、昨日と同じ広場へ足を運んだ。


 広場の中央には、既に冬兎が立っていた。いつもとは違う、静かにこちらを見据えるその姿に、ぞくりと背筋が凍るような不気味さを感じた。


「こんばんは、夏季さん」


 彼の声は普段よりも低く、どこか冷たく響いた。まるで何かを企んでいるかのような含みを持った挨拶だった。


「今回は不意打ちではなく、きちんと姿を見せたんですね」


 私は警戒心を強め、いつでも武器を扱えるように全身に力を込めた。


 冬兎はわざとらしく頬をさすりながら、にやりと笑う。


「昨日は危うく殴られるところでしたからね。少しは反省しましたよ」


 その言葉に思わず眉をひそめる。どの口がそんなことを言うのか、と心の中で呟いた。


「実は今日は、君に残念なお知らせがあって、ずっと待っていたんだ」


 私が黙っていると、彼は話を続けた。


「実は明日から仕事が忙しくなりそうで、今日が会える最後の日になります。とても残念です」


「そうですか……それは残念ですね。ところで、お仕事は何をされているんですか?」


 私は相手の正体を探るため、慎重に問いかけた。冬兎は一瞬だけ微笑みを浮かべ、低く静かな声で答えた。


「おや?私に興味を持っていただけるとは、嬉しいことです。そうですね……私は運送業を営んでいます。明後日には、非常に重要な荷物が届く予定で、その準備をしているところです」


「どのような荷物ですか?」


「夏季さんもギルド?の一員であれば、依頼人に関する情報の機密性がどれほど厳重か、よくご存じでしょう?」


 私は言葉を選びながら答えた。


「ええ、そうですね。ただ……大会の最中に荷物を運び込むとは、まるで警備が手薄になる瞬間を狙っているように思えます。もしかして、大会の出場者が標的だったりとか?」


 その言葉を口にした瞬間、冬兎の瞳が鋭く細まり、周囲の空気が一変したのを感じた。まるで刃物が空気を切り裂くような冷たさが辺りを包み込む。


「やめてください。詮索は野暮というものです」


 彼はゆっくりと人差し指を口元に当て、声を潜めて続けた。


「仕方がありませんね……今回の荷物は、秘密なんですが……。実は『アーティファクト』の運搬なんです」


「あーてぃふぁくと?」


 聞き覚えのない言葉に困惑していると、冬兎は知らなくて当然とばかりに言い換えてくれた。


「あぁそうでした遺物ですよ、い・ぶ・つ。最近、内海で発見されたものを適切な機関に運ぶ重要な仕事なんですよ。これ以上話すとさすがに私の首が飛んでしまいます」


 その言葉が終わると同時に、冬兎はこれ以上の詮索を拒むかのように口をつぐんだ。


「そうですか。頑張ってください」


 私がそう言うと、冬兎はふっと笑みを浮かべたかと思うと、いつものように私のすぐ横に現れ、耳元で低く囁いた。


「あなたも……」


 その声が消えた瞬間、彼の姿は一瞬にして消え失せ、立っていた場所には白い湯気がうっすらと立ち上っていた。だが、その湯気もすぐに風に流され、跡形もなく消えていった。


(一瞬のうちに距離を詰められた……魔法によるものか?)




 ギルドに戻ると、いつもの光景がそこにあった。イリーネと倒れて寝ている伊勢だ。


「イリーネさん。今日も冬兎が現れました。今日が今日が最後だそうです」


 私は静かに報告した。イリーネはホットミルクの入ったマグカップを両手で包み込み、目を細めながらもどこか興味なさそうに尋ねた。


「何か、特別なことを言っていましたか?」


 私は冬兎が話した遺物の運搬の話を伝えると、彼女はホットミルクを啜りながら少し考え込むように呟いた。


「そんな情報はないのですが……」


 しかし、次の一言がイリーネの関心を強く引いたようだった。


「それと気になる事をいてました。確か……《あーてぃふぁくと》と」


 その言葉と同時に、イリーネの手から力が抜けたように、持っていたホットミルクのカップが手から滑り落ち、机の上を伝って反対側で眠っていた伊勢の方へとこぼれ落ちた。白い液体が頬にかかり、伊勢は目を擦りながらゆっくりと起き上がった。


「ふぅん……なに?」


 伊勢はまだ眠そうな目でぼんやりと呟いた。


 イリーネは普段通りの冷静な調子で、「ごめんなさい、こぼしちゃいました」と軽く謝り、すぐに伊勢に促した。


「伊勢、部屋に戻りなさい。今日はもう休んだほうがいいわ」


 伊勢は一度大きく身体を伸ばし、少し不満げな表情を見せながらも、言われるままに自分の足で部屋へと戻っていった。


「それで、イリーネさん……」と私は続けようとしたが、その時、イリーネは珍しく私の言葉を遮った。


「すみません。用事を思い出しました。これで失礼します。明日、頑張ってくださいね」


 そう言うと、彼女は完璧な一礼をして、受付の奥へと静かに消えていった。


部屋に残された私は、イリーネの言葉とその態度の意味を考え込んだ。


(なんなんだ?《あーてぃふぁくと》って……)


 自分の知識にはないその単語が頭の中でぐるぐると回り、答えの見えない疑問が胸に重くのしかかる。だが、明日の戦いに備えなければと、自室へと足を向けた。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ