歌精と霊舞を決める大会本選一回戦 02
四季崎は大会予選に仮面をつけて参加し、熱気あふれる会場で多彩な参加者たちの中に身を置く。
実力者たちの滑らかな「清流の型」とは異なり、彼は激しい「瀑布の型」を選び、迫力ある舞で観客を魅了。
審査員の厳しい視線の中、ギリギリで予選通過を果たし安堵する。
予選後、修練を続ける四季崎は、怪しい男「冬兎」と再び遭遇。
男は冷ややかな態度で四季崎を警戒させるが、すぐに姿を消す。
冬兎の正体に疑念を抱きつつ、四季崎は警戒を強める。
ギルドに戻ると疲れ果てた伊勢と元気なイリーネの対比が印象的で、冬兎の謎は深まるばかりであった。
霊煙は楽し気な笑みを浮かべながら、片方の短剣を真上に軽く回転させながら投げた。私が無意識にそちらの短剣に意識を向けると、囁くような詠唱を唱えた。
『煙あるところに我あり。されどそれは我に非ず。揺らめく煙の中から我を探し出せ』
視線を霊煙に戻すと投げた短剣を元の手で受け取ると片方の腕を前に伸ばした。私は新しい展開に期待を高めるように少し頬は緩んだ。
《蒸気纏いし幻影》
魔法名を唱えると同時に、霊煙の足元から勢いよく蒸気が噴き出た。蒸気は一瞬のうちに彼の全身を包んいき、最後には見えなくなった。
少しすると、蒸気の中から現れるかのように中から歩いてでてきた。蒸気はそのまま彼の後ろに留まり、彼の纏うオーラのように空気中に揺らめいていた。
(今度はどんな魔法だ?蒸気ということはまた回避か……?まあ、どんな魔法か暴きましょう)
最初の行動を思わせるように、一気に距離を詰めてきた。蒸気を纏った横一閃に木製の短剣を振るってきた。すぐに後ろに引いて躱したときには交わした時よりもさらに踏み込んできて、もう片方の木製の短剣で縦一閃に振り下ろしていた。霊煙は躱したそばから次の一閃を放ってくることにとってこちらに反撃の隙を与えないつもりのようだ。
蒸気を纏った短剣の攻撃を躱しながら、彼の攻撃を観察しが、蒸気のヴェールをまとった短剣の連撃以外に新たな変化は見られなかった。
(附加型の魔法ではない?先ほどの魔法と同様、回避に特化したものかもしれない)
霊煙の動きを見極めるため、私は彼の隙――あるいはわざと作ったスキを見逃さず、袈裟斬りに木製の棍を振り下ろした。
棍が霊煙の身体に触れた瞬間、その実体はまるで幻影のようにふっと消え失せた。代わりに白く淡い蒸気が辺りに立ち込め、まるで彼の身体が一瞬にして霧へと溶け込んでいくかのようだった。蒸気は舞台の床を這うようにゆらゆらと揺れた。
一方、私の手に残った棍は、空気を切り裂く鋭い音を響かせながら、制御しきれずに勢い余って硬い舞台の石畳にコッンと木材同士の響く音を立てて激しくぶつかった。衝撃が手首を伝い、微かな振動が指先に走る。
霊煙はその絶好のチャンスを見逃すはずもなく、両手を交差させて木製の短剣で首を挟み込もうと急接近してきた。
短剣が首に迫る直前、相手の懐に飛び込むように前に転がり込み、霊煙に体当たりをした。だが、彼の身体が再び蒸気に変化し、蒸気の中に飛び込むかたちとなり、蒸気の中に留まるのは危険と判断し、すぐさま飛び出すようにして蒸気の中を突っ切り、私は即座に距離を取ると立ち上がる。
(やはり、あの魔法は自身の身体を蒸気に変える回避型の魔法だろう……)
霊煙との距離を保ちながら、私は冷静に攻略法を探る。
(……一回目の回避から二回目の回避まで、間隔がほとんどない……)
霊煙は私の思考を断ち切るかのように、再び攻撃を仕掛けてきた。
(魔法に制限時間でもあるのか?)
斬撃の切れ味は増す一方で、攻撃の隙を探る余裕は次第に失われていった。霊煙の動きはますます鋭くなり、回避のタイミングを掴むことが困難になっていく。ついに私は回避が間に合わず、頸部を狙った横一線の斬撃に対し、棍を縦に構えて防御態勢を取った。
だが、攻撃が迫るその瞬間、霊煙の腕はまるで煙のようにふわりと霧散し、刹那の間を置いてから、私の棍を握る手を狙う別の横一線の斬撃が襲いかかってきた。
そのわずかな遅れを見逃すことなく、私は棍の位置をわずかにずらし、ぎりぎりのところで霊煙の短剣を受け止めることに成功した。
(なるほど、攻撃を躱すことに特化したものではなく、自身を蒸気に置き換える魔法か……)
一度その能力を見せた以上、霊煙は出し惜しみをせず、蒸気を巧みに操ったフェイントを織り交ぜて攻撃のバリエーションを増やしていく。攻撃の軌道は多彩になり、回避だけでは防ぎきれず、防御に回る回数が増していった。
「はぁ……はぁ……厄介な魔法です」
息を荒げながらも、私は霊煙の背後に漂う蒸気の量が、最初より明らかに減っていることに気づいた。
(攻撃は蒸気の幻覚ではなく、必ず蒸気の中から遅れて飛んでくるか、攻撃箇所がずれている……)
私は霊煙から距離を大きく取ると、足元が舞台の段差を感じ取ると、自分が舞台の端まで追い詰められていることに気づいた。危うく場外へ落ちそうになり、冷静に呼吸を整える。
(魔法は自身を蒸気に変え、攻撃は必ず蒸気の中から放たれる。そして蒸気を消耗している……よし、ここからが勝負だ)
私は頭の中で作戦を組み立てると、棍の端をしっかり握り、長剣のように構えた。
「さて、これから講義を始めようか」
言葉と共に両者とも攻勢に転じる。
長剣のように振るわれる棍は、鋭い切っ先こそないものの、その重みと勢いが相まって一撃一撃に確かな威力を感じさせた。スピードでは霊煙の軽やかな短剣に劣るが、力強い一振りは防御の隙を突き、相手の動きを確実に制限していく。かつてのように防御で受け止められることはなく、霊煙は巧みに身をかわしながらも、攻撃の軌道を読み切れずに次々と回避を強いられていた。
足元への対処がおろそなになった隙を逃さず、地面をへばりつく様にして低く体勢を落とし、足を払うような鋭い横薙ぎを繰り出した。棍の先端が地面すれすれを滑り、空気を切り裂く音が辺りに響く。
だが、霊煙は遅い棍の攻撃を見逃さなかった。彼は瞬時に身体を跳ね上げ、高く舞い上がると、両手に握った短剣を投擲の構えに変えた。鋭い眼差しが私を捉え、次の攻撃の意思を強く示している。
(ここだ!)
飛んでくる短剣が視界の隅をかすめる。私は瞬時に身体をひねり、鋭く横薙ぎを放ったその勢いを利用して、一回転の動作に移行する。回転しながら、視線は霊煙の動きを捉え続ける。
回転の遠心力を最大限に活かし、棍をしっかりと握り直すと、そのまま勢いよく霊煙に向かってぶん投げた。棍は空気を切り裂き、一直線の軌道を描きながら霊のいる蒸気の中へと飛び込んでいく。
その動きはまるで剣舞の一幕のように滑らかで、攻撃の意志と力強さを同時に伝えていた。
木製の棍は蒸気の渦を切り裂くように勢いよく飛び出した。まるで霊煙ごと吹き飛ばすかのような力強さで、彼のいる方向へと一直線に突き進む。
棍が霊煙にぶつかる直前に身体が蒸気に変化して、そのまま変蒸気の中に突入すると、一瞬、白い霧が激しく揺らいた。だが、その姿はすぐに棍の衝撃をまともに受けて、まるで水面に石を投げ込んだ時の波紋のように大きく乱れた。
しかし、蒸気の奥底に潜んでいた霊煙の実体は、棍の重みと勢いをまともに腹部に受け止め、激しい衝撃で宙を舞い、無防備に吹き飛ばされた。
その瞬間、舞台の床に響く鈍い音と共に、霊煙の身体が激しく弾み、周囲の蒸気が一斉に舞い上がった。彼の息遣いが荒くなり、戦況が一気に動いたことを告げていた。
「驚いたな……一回の魔法で見破られるとは思わなかったぜ。……だが、これで終わりじゃない!ここからが真の勝負。もっと熱く、もっと楽しくなるぜ!」
「残念……そこは場外だ」
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