歌精と霊舞を決める大会本選一回戦 01
四季崎は大会予選に仮面をつけて参加し、熱気あふれる会場で多彩な参加者たちの中に身を置く。
実力者たちの滑らかな「清流の型」とは異なり、彼は激しい「瀑布の型」を選び、迫力ある舞で観客を魅了。
審査員の厳しい視線の中、ギリギリで予選通過を果たし安堵する。
予選後、修練を続ける四季崎は、怪しい男「冬兎」と再び遭遇。
男は冷ややかな態度で四季崎を警戒させるが、すぐに姿を消す。
冬兎の正体に疑念を抱きつつ、四季崎は警戒を強める。
ギルドに戻ると疲れ果てた伊勢と元気なイリーネの対比が印象的で、冬兎の謎は深まるばかりであった。
❐ 四季崎の視点
昨日と同じ一層目の会場に着くと、会場の盛り上がりが最高潮に達しており、司会の話の内容から丁度前の試合が終わったタイミングであること伺えた。
私が受付に声をかけると昨日は戸惑っていたが、今回はすんなりと通してくれた。控室に通されると会場の清掃が終わるまで待つように言われた。
その間、持ってきた木製の棍を最後の手入れを行うことにした。
少しすると、会場の方から司会の楽し気のな話し声が聞こえてきた。
「お待たせしました!歌精と霊舞を決める大会、戦舞の第四試合を始めていきましょう!」
司会に掛け声とともに、会場は待っていましたと言わんばかりに歓声がより一層高まった。
「いやー、しかし第三試合は本当に素晴らしかったですね。漣選手の華麗な剣捌きはまるで優雅な舞踏のようで、観客を魅了しました」
「そうですね。しかも相手も負けじと攻め続けて、手に汗握る攻防戦でした」
「しかし、優勝候補の二人が初戦でぶつかってしまうとは、運命の皮肉としか言いようがありません」
「まったくです。あの試合が終わった時、会場全体が息を呑みましたよね」
「だからこそ、今回の第四試合には特別な期待がかかります。新たな風が吹き込まれる予感がしますよ」
「といいますと?」
「ええ、次の試合はなんと初出場ながら予選を突破し、本戦入りを果たした異国の選手の登場ですからね」
「それは驚きです!しかし、相手も手強いですよね?一回戦目の相手はあの選手ですから」
「異国の男にとっては、これ以上ない挑戦。彼の戦いぶりがこの大会の流れを変えるかもしれません」
司会の二人が一瞬の静寂を作り出し、会場の期待感を一層高める。
「では、第四試合!選手の入場を入場で!」
私は言われるがまま控室から立ち上がり、緊張を胸に外へと踏み出した。
「まずは!今大会初出場にして、予選を鮮やかに突破した謎多き選手!その出身地も素性も一切不明、まるで影のように現れた男!その名は《夏季》!!」
紹介とともに壇上に躍り出ると、会場の歓声はさらに大きくなり、慣れない私は思わず身体がぎこちなくなった。
なんとか試合のステージに到着すると、次に対戦相手の紹介へと移る。
「対するは、ディータが誇る内海の守護者、霊煙!数多の魔獣が潜む死角を見逃さず、人々を守り続ける勇猛果敢な英雄だ。鋭い感覚と確かな技術で、謎多き刺客《夏季》に立ち向かう!」
灰色がかった青色の長めの髪に、黒を基調とした甚平を身にまとった男が、堂々と壇上に現れた。彼は慣れた様子で一礼し、観客の視線を一身に集める。
彼は慣れた様に壇上に現れると丁寧に一礼してみせた。
「勝敗は相手が降参または急所への一撃を加えるか、舞台から落ちることで決定します。時間は無制限。両者とも武器を構えてください」
私が木製の棍を中段で構えると、霊煙は浴衣の袖から手をスッと出し、二本の木製の短剣を握っていた。
「では、双方悔いのないように!始め!!」
始まりの合図と共に、霊煙は両手を肩幅に開き、木製の短剣を持った手を地面につけると同時に膝を深く曲げた。静寂の中、澄んだ声が会場の空気を一変させる。
『海の狩人よ、我にその鋭敏なる動きを与えよ』
霊煙の出方を探るため、詠唱を妨害せず、魔法に最大限注意を払いつつ冷静な視線を向けた。
《水霊の滑走術》
詠唱が終わると、霊煙の両足に淡い青色の光が凝縮し、まるで透明な靴を履いたかのように輝いた。
(――速度を上げる強化魔法か?)
一瞬、両足に力を溜めた霊煙が、まるで水面を蹴るかのように爆発的な加速で襲いかかってきた。
(真っ向勝負か……!)
慌てて顔は避け、心臓を狙いすました一突き。だが、棍の先に触れるはずの相手の姿は消え、代わりに背後から冷たい気配が迫る。
(くそっ! 加速ではなく回避性能だったか!)
霊煙は軽やかに跳躍し、私の首元を狙って短剣を横薙ぎに振るう。反射的に体勢を低くし、刃をかわすと同時に、棍で後方へ突きを放った。
だが、その動きすら読まれていた。薙いだ腕とは逆の手で棍を掴み、片手だけで跳躍。まるで空中を舞う水鳥のように高く舞い上がる。
空中から放たれた短剣が私の身体を狙う。とっさに転がりながら回避し、短剣は私の元いた場所の木床に鋭い音を立ててぶつかった。
起き上がる瞬間、霊煙は着地と同時に落ちていた短剣を素早く拾い上げていた。だが、最初に発動した魔法の輝きは既に消え失せている。
(発動時間が短いのか……それとも別の狙いがあるのか?)
互いに一定の距離を保ち、鋭く睨み合う。霊煙が片手を上げ、挑発するように指をこちらへ招いた。
(なるほど、次はお前から来いということか……受けて立とう!)
左手に握る棍を後ろに引き、全身に力を込めながら体勢を低くする。力が溜まりきった瞬間、一気に距離を詰めた。
下から打ち上げるように振り上げた棍が霊煙を襲う。彼は冷静に両手の短剣で防ぐが、完全には防ぎきれず、弾かれた。
身体を素早く回転させ、今度はがら空きの胴体を狙って棍を振るった。霊煙は身体を捻り鋭くかわし、距離を取ろうと後退する。
逃さぬよう一定の距離を保ちつつ追撃し、棍で連撃を放った。最初は鋭い動きでかわされるも、攻撃の鋭さと速さは増し、防御に回る回数が増えていく。
その連撃の中、不意に生まれた霊煙のみぞおちの隙を見逃さず、渾身の一突きを叩き込んだ。
霊煙は無理な姿勢で短剣を合わせて防ぎつつ、バックステップで後退。咳き込みながらも体勢を立て直す。
霊煙が息を整えながら、にやりと笑った。
「あんた、なかなかやるな」
私も疲れを感じながらも、負けじと返す。
「君こそ、あそこまで攻撃を捌ける相手は久しぶりです」
霊煙は軽く肩をすくめて、挑発するように言った。
「最後に一撃食らわせておいて、それはないぜ」
その言葉に、思わず苦笑が漏れる。彼の瞳に真剣さと、どこか楽しげな光が宿っているのを感じた。
(こんなにも優れた相手に、素性も明かさず偽名を名乗らなければならない自分が、少し心苦しい)
そんな思いを抱えていると、霊煙の表情が引き締まり、言葉を続けた。
「それにしても、なぜそんなに冷静なんだ? 戦舞ってものはのっと楽しむものだぜ?」
私は少し間を置いて答えた。
「感情を表に出すことは、時に弱さです。それに……静もまた戦舞の一つの形態では?」
霊煙は少し驚きつつも納得したように頷き、短剣を軽く振った。
「なるほどな。じゃあ、その冷静さを崩れたら、次は何が出てくるのか楽しみだ」
「望むところです」
二人の視線が交差し、次の攻防へと向かう。
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