歌精と霊舞を決める大会 一日目 02
四季崎と伊勢は、美歌と踊りが響く幻想の都アンディールに到着。街は水面に浮かぶ石造りの建物と賑やかな橋が織りなす華やかな光景で、人々は歌と踊りを愛していた。そんな中、誰でも参加できる歌と踊りの大会《歌精と霊舞を決める大会》が開催され、二人は新たな挑戦と街の楽しさに胸を躍らせる。
一層の広場まで降りてくると、昨日の比ではないほどの熱気に包まれていた。
昨日見た舞台が飾りつけられ、まるで戦士たちの舞を待ちわびるかのように、静かにその時を待っていた。
多くの観客の目に触れる前に仮面を手に取り、深呼吸をしてからそっと顔に当てた。
最初は視界が少し狭まると思っていたが、思ったよりも視界はしっかりと確保されていた。これなら問題ないだろう。仮面越しに受付の女性に声をかけると、彼女は一瞬目を細め、怪訝そうにこちらを見つめた。
「お忙しいところ恐れ入ります。本日、参加者として登録しております、夏季です」
声は仮面に遮られ、いつもより少しこもって聞こえた。受付の女性は名簿を確認しながら、仮面姿の私に対して少し戸惑いを隠せない様子だった。
「仮面をつけたままでの受付は、少々珍しいですね……」
そう言いながらも、名簿に名前があるのを確認すると、事務的な笑顔を浮かべて奥へと案内してくれた。彼女の表情には、仮面をつけたままの対応に対する不安と警戒が混じっているのが感じられた。
「番号はこちらです。呼ばれたら舞台に上がって下さい」
それだけ言うと木札を渡して立ち去ってしまった。
(57番か……まだまだ先だな)
待合室室に奥にある椅子に腰をかけると部屋を見渡した
(実際、参加者を見ると分かるが、こんな大会に『レガリア』とは何を考えているんだ?)
待合室の奥にある椅子に腰を下ろし、部屋を見渡す。そこには様々な参加者が集まっていた。
若者たちは軽い気持ちで参加している者が多く、和服姿で傘を片手に居眠りをする観光客もいる。だが、その中にはギルド関係者やゴルゴナの実力者と思しき数名の人物も混じっており、それぞれが思い思いに時間を過ごしていた。
時が経つにつれ、参加者たちの数は増していった。番号が呼ばれると、一人また一人と壇上へと上がっていく。観客席からは熱い視線と期待の声援が飛び交い、会場の熱気はさらに高まっていった。
しかし、舞台に立つ者たちの戦舞はどれもまだ拙く、洗練されているとは言い難かった。若者たちの中にはただ目立ちたいだけの者や、自分の実力を誇示しようとする者もいる。観光客は戦舞の意味も知らず、ただ踊るだけの者や、自分の店を宣伝する商人のような者もいた。
だが、ギルド関係者や実力者たちは違った。彼らの踊りはまるで清流の水が柔らかく流れるかのように滑らかで、指先から腕、身体全体が流麗に連動し、しなやかな動きで空間を切り裂いていた。
『清流の型』と呼ばれるその舞は、静かな水面にさざ波が広がるように、観客の視線を自然と惹きつけ、会場全体を穏やかな興奮と感嘆で満たしていた。
(彼らは明日の本選に備え、体力を温存しているのだろうか……だが、私が同じことをしても勝てる見込みはない)
やがて、参加者がまばらになり始めた頃、私の番号が呼ばれた。言われた通り舞台に上がり、会場を見渡す。驚いたことに、参加者の質に反して、多くの観客が戦舞を心から楽しんでいるのが伝わってきた。
最前列に座る審査員らしき人物が「ではお願いします」と合図を送り、戦舞が始まった。
(本選を本気で狙う者たちは皆、『清流の型』を選んでいる。ならば、私がこの中で勝ち残るには、同じやり方ではだめだ)
私はあえて体の動きが激しい『瀑布の型』を選んだ。
踊りはまるで滝が上から勢いよく流れ落ちる様子を立体的に表現するかのようで、腕や脚を大きく振り下ろし、全身を使って水の奔流が岩を打ち砕く荒々しさを体現している。身体の動きは上下に激しく揺れ動き、時には空中で跳ね上がるような跳躍を交えながら、滝の轟音が聞こえてくるかのような迫力を観客に伝えた。
まるで滝壺に落ちる水しぶきが舞台上に飛び散るように、激しい動きが空間を満たし、観る者の心を揺さぶった。
息を切らし、全身から汗が噴き出すのを感じながら、戦舞を終えた。その瞬間、会場は水を打ったように静まり返った。まるで時が止まったかのような静寂が数秒間続いた後、突如として爆発的な歓声と嵐のような喝采が巻き起こった。観客たちは総立ちとなり、私の健闘を称えるかのように、惜しみない拍手を送ってくれた。
(ふう、たまにはこういう緊張感も悪くないかもしれない)
審査員たちの表情は一様に険しく、腕を組みながら真剣な眼差しで舞台を見つめている。
一人は顎に手を当てて深く考え込み、別の審査員は何か言いかけたものの言葉を飲み込み、首を横に振った。彼らの間では、異国からの参加者である私を本選に上げるべきかどうか、激しい議論が交わされているのが見て取れた。
顔を見合わせて小声で囁き合う様子からは、実力は認めつつも慎重な判断を迫られていることが伝わってきた。
喝采に包まれたことで、意外にも高揚感で満たされた。
舞台を降りる際、次の参加者とすれ違った瞬間、肌が粟立つような威圧感を覚えた。その人物から放たれるオーラは凄まじく、まるで研ぎ澄まされた刃のように鋭利で、彼が紛れもない実力者であることを物語っていた。言葉を交わすまでもなく、彼がこの大会の優勝候補筆頭であることは、疑いようもなかった。
舞台を降りきる前、司会者が振り返りながら紹介した。
「最後に我がゴルゴナの誇る最強の戦士による戦舞で締めくくらせて頂きます」
男は一礼し、会場は静まり返った。私は途中で足を止めてしまったが、スタッフに促されて先を見届けることはできなかった。
私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。




