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時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
始まりの旅路、導きの歌と宿命の抗争

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美歌と麗舞の煌めく幻想郷 アンディール 03

四季崎との模擬戦で、伊勢は糸島の指導を受けながら魔法ルミリアを駆使し、防御と攻撃を試みる。

四季崎の高速移動と強力な斬撃に苦戦しつつも、仲間の励ましで諦めずに立ち向かう。

魔力を使い果たし意識を失うも、精霊の力を借りて結界を顕現させ、四季崎の攻撃を跳ね返す。

戦闘を通じて伊勢は自信と成長を実感し、仲間との絆を深めていく。

 ディーダの応接室と同じ造りだったため、二人は同じように腰を下ろし、イリーネは座らずにソファーの肘掛けに肘をつき、前かがみになった。


「四季崎さんは、実際のところ戦舞についてどれほどご存じですか?」


 イリーネは、四季崎の嘘を見透かすかのように鋭く問いかけた。


「そうですね……師匠に一通り叩き込まれましたが、正直ほとんど覚えていませんよ?」


 四季崎は頭を掻きながら答え、「あの方らしいな」と小さく呟き、体を起こして本棚へと近づき、じっと見つめた。


 本を一冊抜き取り表紙を見ては「違う」と言いながら床に置き、次々と何冊かの本を手に取り「これも……」と呟きながら床に叩きつけるように置いていった。最後に「これですわ」と言いながら一冊の本を手にした。


 四季崎はイリーネから差し出された本を受け取り、表紙を見ると「戦舞が分かる入門書」と記されていた。


「四季崎さんにはこれで十分ですわ。次はみこちゃんの番ですわ」


 イリーネはここからが本題とばかりに、楽しげな笑みを浮かべて伊勢を見つめた。


「みこちゃんは歌がお上手なんですか?」


 伊勢は胸を張り、自信満々に答えた。


「ボクは孤児院で聖歌を歌っています。子供から大人まで大人気です」


「なるほど。では、わたくしが特訓すれば、完璧になりますわ!」


 そう言うと、イリーネは嬉しそうに伊勢に近づき、腕を掴んだ。伊勢が「えっと、ちょっと……」と戸惑う間もなく、そのまま連れ出して部屋を出て行った。


 扉の向こうから


「歌劇場って今空いているよね?」

「そうですが、なにか?」

「じゃあ、借りるね♪」

「はい!?仕事は?」

「あとでやるから大丈夫!」

「ボクの意見は聞かないんですか?」



 扉の向こうから、こんなやり取りが聞こえた。


(イリーネさん、まさにこういうことがしたかったのだな)


 そう思い至ると、四季崎は席を立ち、外へ出ることにした。


 四季崎は忙しそうに働く歌川に近づき、「部屋を借りられますか?」と尋ねた。歌川は手を止めてこちらを見た。


「イリーネ先輩から二部屋押さえるように言われていましたので、大丈夫です。でも、四季崎様はイリーネ先輩に気に入られているんですね?」


「「あれは誰にでもそうすると思いますよ?」


 歌川は「そんなことはありませんよ」と呟き、机の引き出しから鍵を取り出した。四季崎はそれを受け取り、お礼を言って部屋へ向かった。



 部屋に入り、上着とポーチを外すと、早速渡された本を読み始めた。読み終える頃には夜も更けていた。


(一度、読んだ内容を試してみようか)


 そう決めると、一階へ降りた。一階は夕方の喧騒が嘘のように人影がまばらで、静まり返っていた。


 四季崎は鍵を受付に返し、外へ出ようとしたとき、食堂で見知った顔を見かけた。気になり近づくと、伊勢が椅子に仰向けに寝転がっていた。


「伊勢さん?」


 普段はしなさそうな姿に、つい『さん』付けで呼んでしまった。


「じぎざぎさん、どうしたんですか?」


 伊勢の声はつぶれてかすれ、聞き取りにくかった。心配していると、伊勢の向かいに座り、ホットミルクを飲みながら頬を緩めるイリーネが代わりに答えた。


「教え甲斐があって楽しいわ。つい力を入れすぎてしまいました」


 そう言いながら、伊勢を楽しげに見つめ、何か悪戯を企んでいるかのように目を細めていた。


「こんな調子で、明日は大丈夫なんですか?」


 四季崎が心配すると、「巫琴ちゃんだから大丈夫よ」と言い、今度は視線を四季崎に向けた。


「それで、四季崎さんはどうするんですか?」


「本を一通り読んだので、一度試してみようかと思います」


 少し悩んだイリーネは


「中層階にある広場なら人が少ないので、お勧めですわ」


 と答え、すぐに興味を失ったかのように視線を伊勢に戻した。四季崎は一言お礼を言い、外へ出た。



 イリーネの勧めに従い、都市の東側にある二層と一層の間の広場へ向かうと、そこには人影がまったくなかった。


(夜も遅いし、わざわざここに残る者もいないだろう。私も早く切り上げてギルドに戻ろう)


 そう思いながら、四季崎は本に載っていた型を一通り試した。緩急が少なく安定した『清流の型』、多彩な技の変化でバランスの取れた『渓流の型』、激しい動きと立体的な動作が特徴の難易度の高い『瀑布の型』、基本の三つの型をすべて試した。


(ふう、一通り試せたけれど、これだけで十分なのだろうか?それよりも……)


 四季崎はふと背後から冷たい視線を感じ、咄嗟に振り返った。


 しかし、そこに人影はなかった。ただ、夜風に揺れる白銀の髪が、闇の中で一瞬だけ煌めいたように見えた。視線を戻すと、広場の奥、建物と建物の狭間にできた陰の中から、じっとこちらを見据える影があった。


 その存在はまるで闇そのものが形を成したかのように、静かに、そして確かにそこにあった。


「私に何かご用ですか?」


 すると、陰の奥からひときわ冷たい気配を纏い、白銀の髪を揺らす男がゆっくりと姿を現した。その動きは滑るように滑らかで、不気味なほど静かに、しかし確かな存在感を放っていた。


「ふふっ、気づかれるとは思いませんでしたよ。すみません、あなたの美しい舞に見惚れてちょっと様子を見すぎてしまいました」


 白髪で背の低い黒いマントで身体を隠している男は申し訳なさそうに見える演技をしながら姿を現した。


(何者だ?いかにも胡散臭い男だ。もしかして、聖女を狙うウィスプ聖教の刺客か?)


「そうですか。ですが、私はもう帰るところです」


 そう言うと、その場を離れようと背を向けた四季崎に、男は背後から囁くように「明日の舞も楽しみにしていますよ、是空さん」と低い声で告げた。四季崎は僅かに肩を震わせ、振り返らずに歩き去ると、男の気配は先程までの軽薄さとは打って変わり、広場の夜の闇に溶け込むように消え去った。


(一瞬で気配が消えた……本当に何者だったんだ?)


 四季崎がギルドに戻ると、伊勢は既に部屋に戻った後で、受付にはイリーネが心配そうな顔で座っていた。「ある男についてを報告させてください」と四季崎が話し出すと、イリーネはいつもの軽い調子を消し、「詳しく聞かせてください……」と低い声で答えた。


(あとはイリーネの報告を待つだけだ)


 そう思い、四季崎は部屋に戻り休息を取った。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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