四季崎と伊勢の模擬防衛戦 03
四季崎是空と仲間たちは、神秘的な内海へと足を踏み入れる。
内海は美しく穏やかな水面の下に魔獣が潜む危険な場所であり、マーメイド族の糸島泡沫の防御魔法『水霊の抱擁』に守られながら進む。
彼らは浮島を渡りながら、内海の不安定な地形と魔獣の脅威に警戒を怠らない。
野営の準備をし、伊勢は糸島の指導で魔法の扱いを学び成長していく。
翌朝、四季崎の冷静な指揮のもと、模擬戦が提案され、伊勢と糸島が防御役、四季崎が攻撃役として実戦訓練を開始。糸島の水の魔法が繰り出され、戦闘の緊張感が高まる中、仲間たちは互いの信頼と絆を深めていく。
内海の美しさと危険が交錯する中、彼らの旅は続き、過去の誤解や偏見を乗り越え、真実の歴史を正すための戦いが幕を開ける。
❐四季崎視点
吹き飛ばされ、危うく海に落ちそうになったが、咄嗟に『蛍火』を地面に突き立て、ぎりぎりのところで踏みとどまった。
(なんだ。今の力は……?)
視線を伊勢に向けると、彼女はまるで気を失ったかのようにぐったりと横たわっていた。
『蛍火』を解除し、『四季』を収めると、急ぎ伊勢に駆け寄った。
その時にはすでに糸島が介抱しており、口元に魔力水を流し込んでいた。
「過剰な魔力消失による、一時的な意識消失だね」
思った通りで、胸を撫で下ろす。
「少しやりすぎたようだな……」
糸島は呆れるように「本当だ」と返した。
私たちは伊勢を小屋に寝かせ、焚き火を囲んだ。
「しかし、君も大変な役目を背負ったものだね」
「何のことだ?」
「伊勢くんだね。彼女は『聖女』なんだろう?」
驚きで糸島を見つめる。そういえば、伊勢が詠唱中に自分を『聖女』と呼んでいたことを思い出した。
「周囲に人がいなくて助かった」
安堵の表情を浮かべると、糸島は笑みをこぼした。
「心配するな。マーメイド族でウィプス聖教を進める者は珍しい。実際、オラも『聖女』がどれほどの力かは知らぬが、ただの噂だと思っている」
(糸島は嘘をついてはいない。しかし、だからといって油断はできない。次は同じことが起きぬようにしなければ……)
「さすがに今回は疲れた。もう休もう」
糸島がテントへ向かうのを見送り、「見張りは任せてくれ」と告げると、テントの中から「三時間後に起こしてくれ」と返事が聞こえた。
(最後の魔法の瞬間、明らかに別の人格が現れた。あれから意識が戻っていないが、本当に大丈夫なのか……)
不安を胸に見張りを続け、四時間が過ぎると糸島が自ら目を覚まし、「交代だな」と言ってテントを明け渡し、そのまま眠りについた。
⬠(伊勢視点)
翌朝
目を覚ますと、見慣れた小屋の中だった。
(あれ?昨日は確か……四季さんと模擬戦をして、最後に……精霊様に……うう、思い出せない)
起き上がると、まだ昨日の服のままだと気づき、慌てて脱ぎ捨てた。濡れた体を清め、新しい服に袖を通すと、外へ飛び出した。
今日は珍しく早く起きられたらしく、四季さんはまだ眠っており、糸島さんが朝食の準備をしていた。
「おはようございます。それと、ごめんなさい。昨日のこと、あまり覚えていなくて、迷惑をかけたかもしれません……」
糸島さんは手を動かしながら「何もなかったよ」と笑い、鞄から薬味を取り出すように頼んだ。
ボクは糸島さんの料理を手伝いながら、昨日の模擬戦の話を聞いた。
どうやら、ボクが無意識に放った《ルミリア》が、四季さんの攻撃を弾き返すことに成功したらしい。その代償で魔力が尽き、気を失ってしまったという。記憶がないのもそのせいらしい。
朝食の支度が整うと、四季さんがテントから現れ、みんなで一緒に食事をした。
四季さんは今日の予定を告げた。
「朝食後すぐに出発の準備をして、首都へ向かう。到着は夕方になるだろう」
言われた通り、すぐに出発の準備を終え、小屋の小さな箱に銀貨を数枚入れた。糸島さんは「ここは利用料だよ」と言っていた。
予定通り、夕方には中央の島にある首都に到着した。
四季さんは糸島さんに感謝の言葉を伝え、数枚の金貨を手渡した。
「今回は本当に助かった。これが報酬です」
糸島さんは「お互いさまだね」と言い、四季さんの肩に手を置き、小声で何か囁いた。
それを聞いた四季さんは大きく頷き、糸島さんも頷いた。次に糸島さんはボクの方へ来た。
「今回はいい経験をさせてもらったんだね」
ボクは深く頭を下げて「ありがとうございます」と答えた。糸島さんはじっとボクを見つめ、言った。
「最後にオラから伊勢くんに教えることがある。オラや伊勢くんのような役割に大切なことは何かわかるか?」
ボクは教えられたことを思い返しながら答えた。
「えっと……諦めないことですか?」
糸島さんは頷いたが、まだ続きがあった。
「それと、死なないことだ。自分の命を犠牲にして誰かを守ろうなんて考えはしてはいけない。オラたちが死んだら、あとは誰が仲間を守る?ってことになるからな」
糸島さんは言葉を区切り、少し間を置いた。
「命あっての物種だね。生きていれば、次へ繋げられる。忘れるな。それと……」
糸島さんはボクの耳元に顔を近づけ、小声で囁いた。
「何か誤解しているようだから助言だ。四季崎にはしっかり面と向かって聞くのが一番だ」
そう言うと糸島さんは四季さんの方へ戻り、「このままディーダに戻る」と言って来た道を戻っていった。
ボクは四季さんに近づき「大丈夫ですか?」と尋ねると、四季さんは糸島さんの背中を見つめながら言った。
「彼なら一人で半日もあれば着きますよ」
見えなくなるまで不安そうに見守った。四季さんは振り返り、「では、首都に入りましょうか」と言って歩き出した。
ボクはその背中を追いかけるように、気になっていたことを口にした。
「あの!」
自分でも驚くほど大きな声を出し、四季さんは振り返った。
「四季さんとはここまでなんでしょうか?」
四季さんは眉間にしわを寄せ、意味がわからない様子だった。ボクは続けた。
「初日の夜に偶然聞いてしまったんです。扱いに困るとか……独り立ちさせたいとか……」
四季さんは額に手を当て、思い出すように少し時間を置いた後、平手を打った。
「ああ、あの時か。あれは私には知識しかないから、実際の魔法の扱いは糸島に頼んだんだ。それに、この先は二人旅になるから、少しでも自衛手段を覚えてほしいと話したんだよ」
(ボクを見捨てたわけじゃなかったんだ。よかった……)
安堵すると、今度は呆れたように四季さんが話し始めた。
「そんなことで悩んでいたのか……。仮にそうだとしても、法皇に会うまでは私は聖……君を誘拐した罪人だからね。それまでは一緒に行動するのが一番だ」
「じゃあ!」
「ああ。これからもよろしく頼む」
その言葉にボクは心の底から安心した。四季さんは優しくボクの頭を撫でながら言った。
「よく聞きなさい、伊勢。君という存在は、大人の物差しで測れるほど小さくはない。君自身の衝動や好奇心に従って動くことで、君だけの未来が形作られていく。私たち大人の役目は、君を型にはめることではなく、君が自由にのびのびと成長できるよう安全を守ることだ。だから、恐れることはない。ここで、君だけの未来に向かって、思う存分歩みを進めなさい」
ボクは照れくさそうに頭を押さえ、四季さんを見つめた。四季さんは優しく微笑み、ボクと一緒に笑った。
そんな和やかな空気の中、首都から女性が現れた。
「四季崎さん、遅いです! 実はわたくしを困らせて楽しんでるんじゃないですか!」
現れたのはイリーネで、かなりお怒りのようだった。
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