内海 ディーヌケプシー 04
ゴルゴナ大陸の港町ディーダに到着した四季崎と伊勢は、異国の街並みや活気に触れながらも、追手への警戒を怠らず慎重に行動する。伊勢は好奇心旺盛に街を探索し、歌姫イリーネの路上ライブに魅了される。イリーネはギルド受付嬢でありながら、自由奔放な性格と妖艶な歌声で人々を惹きつける存在だ。二人はイリーネの案内でギルド支部を訪れ、そこで厳格な受付嬢・滝壺と出会う。滝壺は責任感が強く、イリーネの奔放さに手を焼きつつも、ギルドの秩序を守る役割を果たしている。四季崎は伊勢の純粋な善行に自らを重ね、彼女を守ろうと決意を新たにする。ゴルゴナ大陸の港町ディーダに到着した四季崎と伊勢は、歌姫イリーネと出会い、冒険者組合の証明や報告書を受け取る。計画を練り直す中、渡し守の糸島と再会。彼の協力を得て、次なる目的地へ向かう準備を進める。
❐ (四季崎視点)
翌日の朝
昨夜、最後の見張りを糸島に任せた私は、テントで短い休息を取っていた。
すると、閉めたはずのテントの入り口が開け放たれた。
陽気な日差しが閉じた瞼を照らし、私の眠りを妨げた。どうやら、犯人は糸島らしい。
「相変わらず、朝は弱いようだね。四季」
私は大きなあくびをしながら、テントの中で服を手早く着替え、外に出た。
外はまだ朝になったばかりなのか、涼しさが残る心地よい気温だった。
「朝食の準備はしておいたよ」
言葉通り、朝食には既に昨日と同じ下処理を完璧にされた焼きメバーの丸焼きと、海で取れた貝と持参した薬味を加えて作った温かいスープがいい香りを漂わせていた。
「相変わらず、糸島の料理はおいしそうだ」
私は用意された椅子に座ると、表面の皮がバリっと焼けているメバーをつまみ取り、糸島がスープをよそってくれた。
私は喉を潤すようにスープを流し込み、口いっぱいに貝の旨味と磯の香りが広がった。続けて、メバーの丸焼きにかぶりつくと、程よく焼けた皮のパリッとした食感と同時に、ふっくらとした身の触感が素晴らしかった。
私が黙々と食事を取っていると、小屋の扉が開き、ぼさぼさの髪をした伊勢が顔を出した。
「おはよう、伊勢。珍しいね、君が身だしなみを気にしないのは」
その言葉聞いた伊勢はハッと髪を触り、すごい勢いで小屋に戻った。少ししてから、髪を整えた寝間着姿の伊勢は出てきた。
「お、おはようございます……あっ!もう朝食が準備してある!言ってくれれば手伝ったのに!」
伊勢はどこか焦った感じで言うと、糸島は「いいよ。オラの趣味だから」と言い、伊勢にも食べるように勧めた。
伊勢はどこか納得のいっていない様子で食事に手を伸ばし、口にすると、昨日と同じように目を輝かせながら食べ進めていった。
みんなが食事を食べ終え、食後の休憩をし始めた。
(そろそろ、今日の予定を話した方がよさそうかな?)
「えーっと。じゃあ、今日の予定なんだけども。伊勢」
私が彼女の名前を呼んだことでびっくりさせてしまったようで、肩が跳ねた。
「実は昨日糸島と話したんだが、今日は一日ここに残ることになった」
それを聞いた伊勢はポカーンとしながら私を見た。
「昨日はボクを……じゃなくて!ボクたち今追われてるのに大丈夫なの?」
(最初小声で何か言ったか?)
「それは心配ない。彼らがここに到着するまでに日数はある。それよりも君が少しでも戦えるようにすることが大事だと考えている」
「たたかえる?」
「そう。今はまだ覚えたての魔法に振り回されているだけだ。現に昨日は使った魔法はうまく機能せずさらに魔力を相当消費しだんじゃないかな?」
伊勢は首をかしげながら悩み込んでしまった。私はそのまま話を進めることにした。
「昨日の戦闘で何度も見ていると思うが、糸島は防御魔法を得意とする魔法使いだ」
「防御魔法?……あの……泡のような?」
伊勢は何かを思い出すように視線を上に向けた。
「そう。そんな彼から色々と教わるといい」
そう言って、あとは糸島に任せるように肩を叩いて離れることにした。
(これでもし、昨日のように不測の事態になっても、自分で対処できるようになるだろう)
私はそんな二人の姿を見て自分の出番がないことに少し残念に思いながら武器の手入れを始めた。
糸島は半日かけて伊勢に魔法の扱いについて懇切丁寧に教えていった。最初は困惑気味だった伊勢も自分のためになると思ったのか、真剣な表情で伊勢の会話をしていった。
二人の話が終わりそうなところで、小屋の周りにあるテントや焚き火を片付け始めた。
私たちは昼食を取り終えると、予定よりも早く次の提案をしてきた。
「午後は模擬戦でもどうだね?正直、彼女の呑み込みの速さはすごい!」
私は口元に手を添えながら考え込んだ。
(予定では夕方より少し前にやる予定だったが、彼が言うなら問題ないだろう。そうだ。私が相手をすることで彼女を別の角度から観察できるかもしれない)
私は大きく頷くと「わかった。私が相手をしよう」と言った。
「オラが相手を務める予定だったけど……はいいか。じゃあ、準備を始めようか」
意外な展開に伊勢はあたふたしていると糸島がなにか話しているので、私が準備をすることにした。
小屋から何か台になりそうなものを持ってくると、その上に私のポーチを置いた。
説明を終えたのか、伊勢は何か決意に満ちた眼をしながらこちらを見ていた。
「この台の上に置いた私の鞄を伊勢と糸島が守り抜くのを模擬戦としよう。私が一方的に攻撃に出るので、二人は守り抜くこと。」
私は島の縁の近くに印をつけるように足で線を描いた。
「私をここまで後退させたら終了とする。何か質問は?」
伊勢が勢いよく手を上げた。
「ボクが攻撃する手段を持っていませんよ」
それを聞いて糸島が「そこはオラが担当する」と言うと手を上空にかざした。
『舞い泳げ』
詠唱を終えると糸島の周りにこぶし大の水球が無数に生み出まれ、水面を弾くような軽やかな水音が辺りに響き渡った。
《アウディーロ クアーディン》
次の瞬間、水球が魚の形に代わった。水面を切る風のような冷たい空気を纏いながら、水の魚は戯れるように糸島を中心に渦を巻くように泳ぎ始めた。
「これで十分だね?」
伊勢は「きれー」と見惚れていたので、私が一度大きく咳をして注意をこちらに向けた。
「ほかに質問はなさそうだ。では、二人が準備できたら教えてください」
私はそう言い残すと、二人から離れていった。
私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。




