内海 ディーヌケプシー 02
ゴルゴナ大陸の港町ディーダに到着した四季崎と伊勢は、異国の街並みや活気に触れながらも、追手への警戒を怠らず慎重に行動する。伊勢は好奇心旺盛に街を探索し、歌姫イリーネの路上ライブに魅了される。イリーネはギルド受付嬢でありながら、自由奔放な性格と妖艶な歌声で人々を惹きつける存在だ。二人はイリーネの案内でギルド支部を訪れ、そこで厳格な受付嬢・滝壺と出会う。滝壺は責任感が強く、イリーネの奔放さに手を焼きつつも、ギルドの秩序を守る役割を果たしている。四季崎は伊勢の純粋な善行に自らを重ね、彼女を守ろうと決意を新たにする。ゴルゴナ大陸の港町ディーダに到着した四季崎と伊勢は、歌姫イリーネと出会い、冒険者組合の証明や報告書を受け取る。計画を練り直す中、渡し守の糸島と再会。彼の協力を得て、次なる目的地へ向かう準備を進める。
❐ (四季崎視点)
私たちは内海の関所を通過し、入り口付近で一騒動あったのち、内海の外周を回るように砂浜を歩いていた。
糸島が渡れそうな島を探すためにじっくりと海を観察していると、暇を持て余していたのか伊勢が質問をしてきた。
「内海の島はどれも同じに見えるけど、何が違うの?」
私はどう説明しようか考えていると、海を見ながら糸島が答えた。
「簡単に言うと沈むか沈まないかだね」
「なんでそんな二つがあるの?」
今度は糸島が「それは……」と言葉に詰まったので、そこは私が答えることにした。
「浮島の裏側には魔鉱石が生成されています。水の魔鉱石――アウディロ・クリスタル――は内海の水と反応すると浮力を発生させる性質を持っているんです」
伊勢は「そうなんだ」と感心し、次の質問を投げかけてきた。
「じゃあ、いつも同じ道を通れば首都に行けるってことですね」
しかし、私は首を横に振り、補足説明をした。
「そうとは限らない。浮島は文字通り浮いている。風に流されたりして動くこともある。さらに魔鉱石は定期的に消失し、別の場所に新たに生成される」
それを引き継ぐように、立ち止まって内海をじっと見つめる糸島が答えた。
「それがわかるのがマーメイド族だね。なんでわかるかはよく聞かれるけど、なんとなく分かる」
糸島は近くにあった浮島を軽く足でつつきながら安全を確認すると、私と伊勢を呼んだ。
「ここを起点に先に進めそうだ」
糸島は私たちが近づくと、左手で中指と親指で輪っかを作り、口の前に持ってきた。
『包み込め』
《アウディロバルブレ》
短い詠唱を唱えると、輪っかに向かって思いっきり息を吹きかけた。
すると指の輪っかから薄い水の膜が大きく膨らみ、最後には私たち全員を包み込んだ。糸島は膨らますのをやめて手を下ろした。
(久しぶりに見たな。糸島の『水霊の抱擁』。触れると簡単に割れてしまうが、それと同時に周囲に衝撃波を放って敵を吹き飛ばす。彼の得意魔法)
私は久しぶりに見たそれを眺めた。『水霊の抱擁』は光を受けて七色にキラキラと輝いていた。
糸島は一息つくとこちらを向いて「行こう」と先に浮島に飛び乗った。
私は伊勢を安心させるために、先に飛び乗り手を伸ばした。
「伊勢、私の手に捕まってください」
伊勢は私の腕をつかんだのを確認すると引っ張り上げた。
「なんか、不思議な感じはする。まるで雲の上に乗っているみたい」
確かに足場がしっかりしている割に、少し動いただけでグラグラしてしまう足場にはぴったりの表現だった。
「まずは広い浮島まで急ぎましょう。ここで襲われたら対処しようがない」
私の言葉に応えるように、最初の足場探しが嘘のように、次々と足場を渡っていった。
私と伊勢はそれに遅れないようについて行き、途中の直径が10メートルぐらいの浮島に来ると立ち止まった。
「どうやら、つけられたみたいだね」
糸島は周囲を警戒するように背中に手を回した。
「できれば避けたいが無理そうか?」
「うーん……無理そうだね。完全に狙われたみたいだね」
私は「そうか」と一言答えると、背中の愛用の武器――『四季』――を掴み、捻って1.5メートルまで伸ばした。
「伊勢。島の中央までさがりなさい」
伊勢は少し頷くと、彼女自身の腰の 魔法の杖をたどたどしく構えた。
(やはり、糸島に今回会えることが出来たのは幸運だったかもしれないな)
私は伊勢の姿を見ると、糸島にお願いしたことが正しかったのだと実感した。
と、突然、パチンと何か泡がはじけるような音が小さく響いた。それを聞いた糸島は左側に視線を向けた。
「北西方向に敵が二匹。水中にいる」
それを聞いた私は同じように左側に視線を向けて武器を構えた。
少しすると、海面が爆ぜるように赤褐色で斑点模様の鱗に包まれた魚の頭をした魔獣が数メートルほど飛び跳ねた。
跳躍の頂点に達すると、狙いを定めたかのように、私と糸島を目掛けて、鋭く無数の牙が並ぶ大きな口をこれでもかと開き、急襲してきた。
糸島は魔獣から目を離さず、右手で背中のスリングショットを取り出し、左手で腰の巾着から小さな鉄球を取り出すと、慣れた手つきで球を装填し、狙いを定めて一拍置いて放った。
球は大きな口の中に吸い込まれるように飛び込み、鮮血を散らしながら力なく浮島の縁に落ちた。もがくようにピチピチ跳ねて動かなくなり、そのまま水面に吸い込まれるように沈んでいった。
私は渾身の一撃を魔獣の頭部に叩き込もうと、力を込めて構えた。
あと少しで魔獣に『四季』を叩き込むところだったが、後ろから奏でるような詠唱が響いた。
『ボクが領域を侵すものよ ボクの聖域から出ていけ!』
私は咄嗟に振り向き、伊勢に詠唱を止めるよう口を開こうとしたが、それよりも早く詠唱が完成してしまった。
《ルミリア!!》
彼女が魔法の杖を突きつけた瞬間、私の背後に巨大な光の壁が立ち上った。
ルミリアの防壁は魔獣の進行を確かに阻んだ。
しかし魔獣は後ろヒレを使い、器用に壁の縁に着地すると、次の標的である伊勢へ跳躍を始めた。
伊勢は「えっ!」と驚きながら呆然と立ち尽くしていた。
私はすぐに向きを変え、伊勢をかばうように覆いかぶさった。私の動きに合わせて動いていた糸島が、魔獣が私に食らいつく直前に鉄球を魔獣の側頭部へ叩き込み、魔獣を吹き飛ばした。
私はすぐに立ち上がり、魔獣の腹部を蹴り上げて海に突き落とした。
『包み込め』
糸島は先ほどと同じように構えると
《アウディロバルブレ》
再び水の膜を作り出した。
少しすると糸島が「逃げたみたいだね」と報告した。
私は安堵しながら『四季』をしまい、伊勢に近づいた。
伊勢は怒られると思ったのか、少し縮こまりながら俯いていた。
(あれは彼女なりの精一杯の努力だったんだろう)
そう思うと、優しそうな笑みを浮かべて頭に手を置いた。
「伊勢は私を守ろうとしてくれたんでしょう。ありがとう」
その言葉聞き、視線を上に向けた。
「しかし、君はまだ未熟だ。できれば後ろで守られていてほしい」
その言葉は彼女にとって受け入れにくかったらしく、また俯いてしまい、街での元気な姿は感じられなかった。
「最初の魔獣の血でほかの魔獣が寄ってきそうだね。早く移動しよう」
糸島が空気を変えるためか、先を促した。
私と伊勢は糸島の先導に従い先へ進んだ。移動しながら糸島は、
「お疲れ様。海小屋までもう少しだね。踏ん張っていこう」
その後も何度か魔獣の襲撃があったが、最初のことがあってか伊勢は何もせずじっとしていた。
三人は糸島の先導のもと、海小屋に着いたのは夕方だった。
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