白煙と青海が織りなす街 04
異端者として生きる四季崎是空は、聖都へ向かう船上でトラブルに巻き込まれる。
参加した「成人の儀」で襲撃が発生し、犠牲の中、「聖女」と呼ばれる伊勢巫琴と出会う。
司祭の遺言と手際良い襲撃から、ウィスプ聖教内に内通者存在の疑惑が浮上。
伊勢が聖女の力を確認した四季崎は、仲間の助けを得て、追跡網の中、街から脱出。聖女を保護し、真実を探るため、ゴルゴナ大陸へ向けた二人の旅が始まる。
応接間はやや広めの部屋で、高価そうなターコイズブルーの地に金の模様が織り込まれた絨毯が敷かれていた。その上には高級感あふれる机が置かれ、机を挟んで向かい合うように革張りのソファが並んでいる。部屋の奥には大きなガラス窓があり、昼の柔らかな日差しが室内を明るく照らしていた。扉のある手前には大きな棚が設置され、さまざまな品物が整然と収められている。
四季崎と伊勢は、イリーネの促すまま手前のソファに腰を下ろした。イリーネはその向かい側に座る。
「お姉様から伺いましたが、エセルニア大陸では大変なことがあったそうですね。」
「お姉様って、もしかしてイリーネさんですか?」
「そうですわ。紹介がまだでしたね。私はイリーネ ホム トロワ。ホゼお姉様の妹です。でも、イリーネって呼んでいただいけ結構ですわ?」
伊勢は疑問に思ったことを口にした。
「でも、四季さんはトロワさんって・・・?」
「ああ、それですわね。何度言っても直さないんですよ……か・れ・は!」
四季崎はどこ吹く風といった様子で答えた。
「私には君たち姉妹の区別がつかないからね。せめて名前くらいは覚えようと思って。」
女性陣二人は呆然とし、一瞬言葉を失ったが、
「どこがですか!」
「どこがよ!」
と声を揃えた。
「いや、顔も全く同じでしょう。それに皆同じ気配を纏っていて、区別がつきにくいんだ。」
伊勢はまったく理解できていなかったが、イリーネは一瞬驚きを見せたのち、うつむいて髪を弄り始めた。
「私たち姉妹それぞれ個性を出そうと一生懸命努力をしているのですが、四季崎さんからすれば私たちなんて動物のように気配だけで捉えられるどうでもいい存在なんですね……」
やがてイリーネの瞳に涙がにじみ始めた。
「四季さん……」
その様子を見て、伊勢が四季崎に冷たい視線を向けると、彼はため息をつきながら頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。今後は気をつけます。」
それを聞いたイリーネは顔を上げ、涙を拭いながら真剣な表情を作り出した。
「お遊びはこの辺にして本題に入りましょうか。」
四季崎はいつものように気持ちを切り替えたが、伊勢だけは「えっ!冗談だったんですか!」と困惑していた。
イリーネは大きな革張りの鞄を机に置くと、おもむろに開け、中のものをざっと放り出すように散らかし始めた。
「ええっと、まずは伊勢さんに渡すものが……」
鞄の中身をあちこちに出し始めた。最初は小物入れや書類の入った封筒に始まり、魔道具の拡張器や飴玉の袋に続き、最後にはよくわからない置物や可愛いぬいぐるみが出てくる始末だった。
伊勢は私服が見えたあたりで気を遣って隣に座る四季崎の目で手で隠した。四季崎は呆れた様子で、
「相変わらずの散らかしようですね?」
「……えーっと……これでもな……そうでも……ないですわ。しっかりと整頓されて……。ありました。」
しばらくして、渡すべきものが見つかったらしく、イリーネは鞄から引っ張り出し、意外にも綺麗な包装袋に包まれたそれを伊勢の前に置いた。
開けるよう促され、伊勢は慎重に袋を開けると、中から本部で見た黒曜石のように黒く光る板と簡素な杖が現れた。
「お姉様に頼まれて用意しました。これが今後の身分証明になります。念のため、所属先も当組合に登録してあります。あと、戦闘の際に役に立つだろうと、ギルドの支給用ですが、準備しましたわ。」
伊勢は本部で見た通り、一度板に触れると自分の情報が表示された。そこには「所属:ギルドカレッジ-冒険者ギルド所属 10等級」と記されていた。
「今後は触れる際に、表示したい内容を思い浮かべながら触ると、必要な情報だけが表示されます。何か質問はありますか?」
「の冒険者ギルドって、どんな組織なんですか?」
「それはギルドの中で、どの専門にも属さず、自由に仕事を請け負えるものです。隣の四季崎さんも今は同じ冒険者ギルドですよ。」
それに合わせるように、四季崎も自分の個人認識証を伊勢に見せた。そこには確かに『冒険者ギルド 所属 5等級』と書かれていた。
「じゃあ、この等級って何ですか?」
「わかりやすく言えば熟練度のようなものです。各専門ごとに等級があり、等級が1に近いほど熟練者ということになります。」
伊勢は気になっていたことを聞き終えると、個人識別証を服の出しやすい場所にしまい、次に一緒に出てきた杖を手に取った。
「そちらは、ギルド支給の魔法の杖になります。凡庸性に優れており、誰でも簡単に扱うことが出来る代物です。」
初めて触る自分専用の武器に大事そうに抱えると服のベルトに止めた。
「では、次は四季崎さんですね。」
今度はイリーネが机の上にさらに物を散らかしながら、A4サイズの茶封筒を渡した。四季崎が袋を開けようとしたところで、イリーネが制止した。
「それは銀鏡さんの個人調査報告書です。見ても大丈夫ですが、四季崎さんが知らない彼の秘密が書かれているかもしれませんよ?」
イリーネは何かを試すように言うと、四季崎は開かずに散らばった机のわずかなスペースに封筒を置いた。
「はあ、そういう悪戯はやめてください。中身は白紙の紙でも入っているのでしょう?」
「いえ、実際の報告書が入っていますよ。でも、開けたら私たちは四季崎さんを軽蔑しますが。結果だけお話すると、銀鏡さんは間違いなく白です。ただ、何らかの脅しを受けていた可能性があります」
茶目っ気たっぷりに軽く舌を出すと、イリーネはすぐに別の同じ大きさの茶封筒を四季崎に渡した。
四季崎は警戒して開けるのを躊躇していると、イリーネが中身の説明を始めた。
「中には今回の祭祀場襲撃事件の警戒報告書が入っています。」
四季崎は安心して封筒の紐を解き、中の報告書に目を通した。一通り読み終えると、明らかな不審点についてイリーネに尋ねた。
「襲撃者の人数が違います。死亡者は3名、拘束者は2名となっていますが、実際は拘束者は3名のはずです。」
イリーネもその点を気にしていたらしく、表情を曇らせながら慎重に話し始めた。
「そうなんですよねー。わたくしも四季崎さんの話と食い違うので何度も確認しましたわ。現場は聖騎士が封鎖していて立ち入りができず、組合の懇意にしている者からの又聞きなので、はっきりとはわかりませんの……。」
(今回拘束したのは魔物使いと最初に襲ってきた二名。そのうちの誰かが逃げたのかもしれませんね。)
四季崎は納得して報告書をしまい、イリーネに返した。イリーネは渡すものを全て渡し終えると、荷物を鞄にしまい込んだ。
「私からは以上です。ちなみに、四季崎さんのことですので、今後の計画はすでに練られているのでしょうか?」
四季崎は顎に手を当てて少し考えた後、口を開いた。
「聖騎士がここに来るまでに、最短でも五日かかります。それまでに反対側のディームへ向かい、そのままナノス大陸を目指す予定です。そこから迂回してエルフィコスを通り、モルフェアへ向かいます。」
四季崎の計画を聞いたイリーネは拍手をして称賛した。
「では、さらに計画を盤石にするために、こちらが調査した法皇聖下の行動についてお伝えしますわね。現在より三十日間モルフェアに滞在され、その後エルフィコスに向かわれるとのことです。ですので、ちょうどエルフィコスで謁見が叶うかと。」
四季崎はその情報をもとに、頭の中で計画をより確実なものに練り直した。
「では、私はこれで失礼します。渡し守については滝壺に頼んでおきますね。」
そう言うと、イリーネは早々に立ち上がり、鞄の中身を全てしまい込むと、鞄を掴んで応接室を出て行った。
イリーネを見送った後、伊勢は四季崎に尋ねた。
「渡し守って何ですか?」
四季崎もソファを立とうとして腰を浮かせかけたが、もう一度腰を下ろした。
「渡し守とは、ゴルゴナ大陸の内海の内側と外側を行き来する際に、道案内をしてくれる人のことだ。」
「なるほど。内海はマーメイドのみが通る聖域だと聖典で読んだことがあります。」
「ええ、だから信用できる人物を紹介してもらいましょう。」
四季崎は今度こそソファから立ち上がり、伊勢に立つよう手を差し出した。伊勢はその手を掴み、腰を浮かせて立った。
二人は応接室を後にし、受付にいた滝壺に声をかけた。
「イリーネ先輩から聞いています。ちょうど良い方がお見えになったので紹介します。」
滝壺は大きな声でその人物の名前を呼ぶと、一人こちらに向かってきた。
ハンティングキャップで顔が隠れてよく見えず、服は大きめのダークオレンジ色のポンチョを羽織り、その隙間からダイバースーツが見え隠れしていた。足元は素足が見えないようシューズを履いている。
男は四季崎を見るなり小走りで近づき、彼の手を取った。
「やあ、四季崎じゃないか。久しぶりだね。元気だったか?」
四季崎も名前を聞いた時は半信半疑だったが、彼の顔を見て笑顔を見せた。
「やはり、糸島だったか。久しぶりだな。最後に会ったのは一年前か?それにしても、また太っていないか?」
「君も家族を持つとわかる日が来るだろうな。」
糸島は自分のお腹を擦りながら笑って答えた。その後、四季崎の隣にいる伊勢に目を向けた。気づいた四季崎は糸島に彼女を紹介した。
「彼女は伊勢だ。そうだな、私の依頼人だ。」
伊勢は「伊勢 巫琴です」と丁寧に頭を下げた。
「これは丁寧にどうも。僕は糸島 泡沫と言います。護衛ギルドに勤めています。今回はよろしくだね。」
糸島は被っていた帽子を脱ぎ、胸の前で合わせて伊勢に丁寧にお辞儀をした後、帽子を被り直した。
「しかし、君が仕事で首都に行くとは珍しいことだね。」
「そうでもない。行く必要がなかっただけさ。それより、君は今回の渡し守ってことかな?」
四季崎が確認すると、糸島は「そうだ」と言いながら手でお腹をバチンと叩いてみせた。
四季崎はそれを聞いて、いいことを思いついたと言わんばかりに喜び、糸島と向かい合った。
「もう一つ君に頼みたい事があるんだ。」
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