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時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
始まりの旅路、導きの歌と宿命の抗争

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白煙と青海が織りなす街 01

異端者として生きる四季崎是空は、聖都へ向かう船上でトラブルに巻き込まれる。

参加した「成人の儀」で襲撃が発生し、犠牲の中、「聖女」と呼ばれる伊勢巫琴と出会う。

司祭の遺言と手際良い襲撃から、ウィスプ聖教内に内通者存在の疑惑が浮上。

伊勢が聖女の力を確認した四季崎は、仲間の助けを得て、追跡網の中、街から脱出。聖女を保護し、真実を探るため、ゴルゴナ大陸へ向けた二人の旅が始まる。

 そして、今まさに到着しようとしているゴルゴナ大陸は、四大精霊の一柱、水の『ウンディーネ』の守護と恩恵を強く受けると言われる、水と岩が織りなす大陸だった。


ゴルゴナ大陸

 大陸全体が、幾重にも複雑に重なる巨大な層状の断崖岩壁に囲まれている。天空を鋭く切り裂くその威容は、まさに近づくもの全てを拒む自然の巨大要塞だ。切り立った頂は鋭く尖り、容易な上陸を許さない。


 しかし、その岩壁には東と西の二箇所に、大陸への玄関口となる希望の港が開かれている。


 東の港町『ディーダ』は、陽光に輝く白亜の街並みが眩しく、紺碧の青い空とエメラルドグリーンの海のコントラストが訪れる者を魅了する美しい港。


 一方、西の港町『ディーム』は、暖色系の色鮮やかな建物が斜面に密集し、常に多くの船と人々で活気に満ちている。


 そして、岩壁を登ると、外海の喧騒が嘘のように、深い静寂に包まれた透明で巨大な内海が広がっている。海底の白い砂地や色とりどりの珊瑚が見渡せるほど澄んだ水面は、神秘的な精霊の力を秘めている。


 内海の中心には、天を衝く巨大な岩柱が水面からそびえ立つ。夕暮れ時には茜色の空を背景に荘厳なシルエットが美しい。


 水面に映る虚像と眼下の実像が溶け合い、現実と幻想が交錯する光景だ。


 そして、天空の湖から柱を伝って流れ落ちる清らかな水は、内海の中心部に位置する首都『アンディール』を包み、『水の膜』となって都市を守護しているという。


――ゴルゴナ大陸の歩き方 より抜粋




 思い返せば五日前、見知らぬ船に飛び乗った四季崎は伊勢と共に操舵室へ向かい、驚く船長に個別認識証を提示し、事情を簡潔に説明し無断乗船を謝罪した。


 幸い船長もギルド登録者であり、四季崎の認識証と事情を鑑みて事を荒立てなかった。


 渡航費と迷惑料として相場より割増しの料金を支払うと、寛容な船長は「困った時はお互い様だ」と言い、清潔で最低限のプライバシーが確保された客室を二つ用意してくれた。


 後で伊勢に説明した四季崎曰く、「幸運だったな。彼もギルドの仲間一人なので、私たちの事情をある程度は理解してくれたようだ」とのことだった。


 ともあれ、追手を振り切り、ひとまずの安全を確保した四季崎は、この五日間の船旅を、まずは負傷した右肩の療養に当てる事にし、必要最低限の食事以外はほとんど部屋に籠もりっきりだった。


 その反対に、伊勢は、伊勢は慣れない船旅や恐ろしい出来事に沈みがちだったが、2日後には塞ぎ込みをやめ、船内を散策し乗客と仲良くなっており、気づけば、彼女の周りには、いつしか小さな輪ができていた。


 そして、今まさに到着しようとしている、船の向かう先であるゴルゴナ大陸は、四大精霊の一柱、水の『ウンディーネ』の守護と恩恵を強く受けると言われる、水と岩が織りなす大陸だった。


 二人を乗せた巡航船はゴルゴナ大陸東の玄関口、『白煙と青海が織りなす街』と呼ばれる港町『ディーダ』へゆっくり入港していく。




 ❐ (四季崎視点)


 船が桟橋に着き、タラップがゆっくりと下ろされると、私たちは他の観光客や商人に紛れ込み、新たな大陸の土を踏みしめた。


 私はすぐに気を緩めることなく、港とその先に広がる街の様子を鋭い視線で注意深く見回し、追手の気配を探り警戒を怠らなかった。


(ふぅ……ここまでは聖騎士団の追手は来ていないようだ。待ち伏せの気配も感じられない)


 異国の街にひとまず安全に降り立てたことに、私は安堵の息を深く吐いた。その隣では、すっかり元気を取り戻した伊勢が、初めて目にする異国の港街に大きな瞳をキラキラと輝かせ、興味津々の様子で、目を離せば一人でどこかへ駆け出してしまいそうな勢いだった。


(まあ、無理もない。エセルニア大陸での出来事は彼女にとって過酷だったし、見知らぬ大陸へ行くことに戸惑っているのだろう。これが彼女の初めての本格的な旅になるはずだ。聖教側の情報統制がうまくいっていれば、ここで捕まる可能性は低い。少しは自由にさせてやるべきだろう)


 そう考えた私は、伊勢に注意を促した。


「おい、あまり離れるなよ」


 その声に伊勢は慌てて振り返り、「あ、ごめんなさい!」と小走りで私の元へ戻ってきた。


「わぁ…! 四季崎さん、見てください! 街のあちこちから白い湯気が立ち上っていますよ!」


 伊勢は好奇心いっぱいの瞳で、街中にもうもうと立ち上る湯気の柱をじっと見つめ、不思議そうに私に呟いた。


 私も伊勢の指さす方へ視線を送り、共に街のあちこちから立ち上る白い湯気を見つめた。


「ああ、あれのことか。あれはこのゴルゴナ大陸の東隣にある『モルフェア大陸』の地下にある巨大な地熱源が、海底を通ってこのディーダ近くまで延びている影響だ。


実際、この辺りの海水温度は大陸の他の地域と比べて常に一、二度高いと言われている。そのため海水が温められて蒸発しやすく、地熱を利用した温泉も多く存在する。だから街の至る所から湯気が立ち上っているのだ…」


 ディーダに説明を始めると同時に、私は内心で、自分の悪い癖で、永い話を始めてしまったことに気づきながらも話をやめることはなかった。


「……というわけで、この豊富な地熱がディーダの名産の一つであり、観光資源となっているのです。……あ、いや、すみません、長々と話してしまいました。興味のない話で迷惑でしたか?」


 少し早口になった説明を反省しつつ話し終えると、私は伊勢が目をぱちくりさせてじっとこちらを見つめているのに気づいた。


(しまった、聞かれてもいないのに退屈させてしまったか? ……)


 私は申し訳ない気持ちになったが、その心配は杞憂だったようだ。


「いいえ、全然です! すごく面白かったです! 四季崎さんは本当に何でも詳しいですね!」


 伊勢は目を輝かせてそう言い、その素直な反応に私は心から安堵した。


(そうか、彼女はこうした知識にも純粋に興味を示すのか。なら、この先も教えられることは多そうだ……それに、これから最終的に法皇聖下に会うまで、行動を共にするのだ。いつまでも他人行儀では動きにくい。お互いにもっと呼びやすい方がいいだろう)


「…伊勢、四季崎は長いだろう。これからは『四季』と呼んでくれて構わない」


 四季崎は少し照れくさそうに提案した。


「はい! 分かりました、四季さん!」


 伊勢は待ってましたとばかりに元気よく嬉しそうに答え、再び街の方、活気ある商店街を指さした。


「では、四季さん! 少しはこのディーダの街を見て回れそうですか? きれいなものがいっぱいありそう!」


「…やれやれ、仕方ないですね。大丈夫でしょう。ただし時間はあまりありません。絶対に離れないこと、そして目立つ行動は避けるように気をつけてください。」


 伊勢は「はいっ!」と小さくも力強く頷き早速、私の二歩先をわくわくした様子で歩き始めた。


(…まあ、街の観光で少しでも彼女の気持ちに余裕が生まれると良いのだがな)


 私はそんな彼女の後ろ姿を苦笑しながら見守り、ゆっくりと歩き出した。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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