聖魔大戦とゴルゴナ大陸の悲劇
異端者として生きる四季崎是空は、聖都へ向かう船上でトラブルに巻き込まれる。
参加した「成人の儀」で襲撃が発生し、犠牲の中、「聖女」と呼ばれる伊勢巫琴と出会う。
司祭の遺言と手際良い襲撃から、ウィスプ聖教内に内通者存在の疑惑が浮上。
伊勢が聖女の力を確認した四季崎は、仲間の助けを得て、追跡網の中、街から脱出。聖女を保護し、真実を探るため、ゴルゴナ大陸へ向けた二人の旅が始まる。
かつて世界を揺るがした『聖魔大戦』。魔王軍による世界侵略が始まったとき、エセリニア中央大陸を中心に北のゴルゴナ大陸、東のモルフェア大陸、南のエルフィコス大陸、西のナノス大陸の内、不幸にも最初の標的となったのは、豊かな海に抱かれたゴルゴナ大陸だった。
平和な日々を送っていたマーメイド族は、突如として押し寄せた圧倒的な侵攻にただ戸惑い、なすすべもなく魔王軍の暴虐にさらされ、多くの命が無残に奪われていった。
伝承によれば、その犠牲者は当時のマーメイド族人口の九割に及んだという。
水の大精霊ウンディーネは、愛する眷属が受けた悲劇を到底受け入れられず、深い悲しみと怒りに身を焦がしながら、『戦終魔法』を発動した。その力は、ゴルゴナ大陸を地殻ごと海底から天高く隆起させ、まるで世界から切り離すかのような奇跡をもたらした。
さらに、大陸中央部の内海には天を衝く巨大な石柱が現れ、その頂の『天空の湖』からは絶え間なく清らかな水が流れ落ち、首都アンディールを守る難攻不落の『水の結界』を生み出す仕組みが築かれた。
この流れ落ちる膨大な水が生み出したのが、『天空の湖』から溢れ出た聖なる水によって生まれた内海――ゴルゴナ大陸の『ディーヌケプシー』である。
この内海にも、結界と同じく清浄で神聖なウンディーネの力が満ちていると伝えられている。
こうしてウンディーネの絶対的な守護――隆起した大陸と水の結界――のもと、生き残ったマーメイド族の眷属たちは、外の世界が聖魔大戦の戦禍にあえぐ中でも、その内側で比較的平穏な暮らしを続けることができたのだった。
さらにウンディーネは、自らの加護が及ばぬ時のため、眷属の中で最も力ある者――初代の長に、結界の力の一部を純粋な魔力の結晶として凝縮し、特別な『レガリア』(王権の冠)を託した。そのレガリアを持つ者こそが、マーメイド族の新たな長として、一族をまとめ導く役目を担うこととなった。
ウンディーネから託されたレガリアは、その神秘的な輝きと力ゆえに、『原初の水』『純粋な泡沫』『無形の水球』など、時代や見る者によって様々な名で呼ばれ、マーメイド族だけでなく、ウンディーネを信仰する者たちにとっても、神聖な力の象徴とされた。
聖魔大戦のさなか、マーメイド族はウンディーネの意向により、一族の『長』のみがレガリアの力を振るい、眷属の代表として戦いに参加した。それ以外の者たちは、大陸の守りの中で外部への関与を禁じられていた。
ウンディーネが自らの力を分け与え、眷属に未来を託すという発想――レガリアの創造は、他の三柱の大精霊たちの心も動かし、彼らもまた、それぞれの眷属を守り導くため、独自のレガリアを作り出したと伝えられている。
――聖教徒聖典第一章より抜粋
やがて時は流れ、聖魔大戦が終結した後も、他の種族ではレガリアは多くの場合、一族の指導者や優れた血筋の者に厳かに受け継がれていった。
しかしマーメイド族は、束縛を嫌い、変化と自由を愛する冒険心と、堅苦しい儀式や『真面目』を苦手とする陽気な気質が相まって、レガリアの継承すらも独自で特異な形式へと変えていった。
本来は厳粛なはずの長の選定儀式とは別に、レガリアの継承はやがて『美歌と戦舞の祭典』と呼ばれる華やかな歌と踊りの祝祭で、その年の優勝者に与えられる『最高の栄誉』となった。
祭典への参加は現職の長に義務付けられてはいなかったが、実際にはその実力やカリスマ性から長が連続優勝することが多く、他の者が優勝しても結局は有力な一族の者が受け継ぐことがほとんどだった。
こうして長い年月が過ぎるうち、マーメイド族以外が祭典で水のレガリアを手にすることはなくなり、祭典自体の『レガリア継承儀式』としての意味は次第に薄れていった。
代わりに、その華やかさと楽しさが評判となり、祭典はやがて世界各地の多様な種族にも門戸を開き、誰もがゴルゴナの文化に触れたり、自らの芸を競う場として参加できるようになったのである。
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