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時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
異端者の烙印、聖女の覚醒

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冤罪の烙印と聖女の偽死 04

 伊勢は四季崎から離れていき、周囲の視線も気にせず、人混みをかき分けながら、人だかりができた親子の元へと向かった。途方に暮れて俯く母親の傍らで泣きじゃくる子供に、伊勢はそっとしゃがみ込み、まるで本物の聖母のような、温かく包み込む慈愛に満ちた笑顔で優しく話しかけた。


「キミ? どうしたの? そんなに泣いていたら、可愛いお顔が台無しだよ」


 突然聞こえてきた伊勢の歌うような優しい声に、母親は驚いたように顔を上げた。


「ううぅ……。ぼ、ボクね、あそこのキラキラしたやつ、あれが、あれがほしいのぉ……。でもぉ、ママが『もうおもちゃはたくさんあるでしょ』ってダメだって…ひっく…」


 嗚咽を漏らしながら、まだ肩を震わせる子供が小さな指で露店の棚を指し示した。伊勢が指し示す方を見ると、視線の先には、おそらく木製のような動物の置物が置かれていた。伊勢はその輝きに惹きつけられるように見つめ、「可愛いね」と感嘆の声を上げると、子供の心を汲むように、その置物をじっと見つめ続けた。


「へぇー、本当にきれいな置物だね。分かるよ、その気持ち。でもね、ほら!ママを見てみて?ママがこんなに困ってるよ?」


 伊勢が諭すように言うと、子供が、「だって…」とまた唇を尖らせ、再び少し泣きそうになった。すると、伊勢は変わらぬ柔らかな微笑みを浮かべたまま、その手で子供の頭を包み込むように撫でた。その温かさに、子供の瞳に再び浮かびかけた涙は、いつの間にか止まっていた。


「大丈夫。ウィプス聖教の教えにもあるでしょう? 精霊様はいつも、空の上からみんなを優しく見守ってるって。キミがいい子にして、ママのお手伝いをしたり、我慢することを覚えたりすれば、きっと精霊様が、いつか別の形で、君の素敵な願いを叶えてくれるはずだよ」


 伊勢は子供を勇気づけるように、慈しむような笑顔で「ね?」と両手で小さなガッツポーズを可愛らしくしてみせた。子供は、まだ涙の溜まった大きな目を何度かパチパチさせて、希望の光が宿ったような瞳で彼女を見上げた。


「ほんと? 本当に、精霊様が?」

「そうだよ。だから、キミはこれからもいい子でいられるかな?」

「………うん。……ボク、いい子にする」


 涙を溜めた大きな瞳で、弾けるような満面の笑みを浮かべた。


「うん、えらい! 約束だよ。じゃあ、もうママを困らせないようにしようね。いい子になったご褒美としてボクのとっておき、この特別な飴玉をあげるね」


 伊勢も子供の笑顔に答えるように、輝くような笑みを見せた。伊勢はキュロットにあるポケットから、星屑のようにキラキラとした飴玉を一つ取り出すと、子供の手の平に優しく乗せてあげた。


「わーい!ありがとう、お姉ちゃん!」


 今まで母親を困らせていたのが、嘘のように子供は母親にまるで宝石でも見せるかのように飴玉を自慢していた。ぐずる子供をあやしてくれた伊勢に母親は心の底から感謝するように深くお辞儀をした。


「本当に助かりました、ありがとうございます!」


 今までが幻だったかのように仲良く手を繋ぐと、親子は再び雑踏の中に紛れるように消えていった。


 子供の幸せそうな姿を見送ると、伊勢も自分のことのようにやさしい笑みで見送った。満足したように立ち上がった際に、フードの中の髪が前に垂れてきてしまった。伊勢は無意識に髪を耳にかけようとかき上げた拍子に一緒にフードまで捲ってしまい、伊勢の燃えるような赤い髪があらわになった。


 慌てて駆け寄った四季崎がフードを乱暴に被せると、周囲を見渡した。周囲の人たちは親子がいなくなったことで、人だかりが無くなっていたが、それでも、まだ何人かの通行人はこちらを見ていた。


『是空、バレた。正面突破は無理だ。裏路地で巻くしかない』


 最悪の結果報告が脳に直接響いてきた。


(やはり、私たちの容姿で捜索をしていたか……)


 通行人の隙間から聖騎士がフードをかぶり直した伊勢を見た途端、彼らは、「まさか…!?」とハッとしたように大きく目を見開き、仲間に合図を送っていた。表情を険しいものに変え、一直線にこちらに向かって足早に近づいてきた。


 四季崎は、近づいてくる聖騎士の姿を捉え、苦虫を噛みつぶしたような顔で、「まずい、見つかった! 行くぞ!」と伊勢に囁きながら、まだ状況が飲み込めていない伊勢の腕を強く掴み、周囲の驚く視線も構わず、人混みを強引に搔き分けて、一番近くの細い裏路地へと文字通り強引に引っ張り込んだ。


 そのまま細い道を進んでいき、人気のない場所まで来ると、四季崎は伊勢を家の壁に押し付けるようにして問い詰めた。


「伊勢!君は教会に狙われている自覚はあるのか!このままだと、拘束され、最悪、殺されていたぞ!」


 裏路地の湿った壁に押し付けられていた伊勢は、四季崎の声を潜めながらも、怒りと焦りの滲む厳しい言葉に動揺をしながらも、伊勢は怯むことなく、自分の信じる意志の強さを示すように、しっかりと、潤んだ瞳で彼の目を真っ直ぐに見つめ返した。


「……分かっています! だからと言って、どんな理由があっても、目の前で困っている人を見捨てるための言い訳にはならないよ!」


 伊勢は周囲に響くような大声で叫びながら四季崎に詰め寄り、その両腕を彼の胸に押し当てた。その腕はその腕は、自身の非を認めながらも、譲れない正義を貫こうとする決意の裏にある、深い不安を物語るように震えていた。


 葛藤の中にあってもなお曇らない強い瞳と、自らの正義を貫こうとする揺るぎない言葉に、四季崎は彼女のあまりにも純粋で、しかし危ういほどの信念に、どうすることもできない焦燥を感じ、狼狽えてしまい、返す言葉が、見つからなかった。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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