表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
異端者の烙印、聖女の覚醒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/312

冤罪の烙印と聖女の偽死 03

 時間が差し迫っている中、イリーネと伊勢が出発の準備に取り掛かっていた。その傍らに四季崎は近づいていき、周りに聞こえないように小さな声で話した。


「さっきの話。わざと、銀鏡に聞かせたんですか?」


 イリーネもそれに合わせるように小さな声で早口で答えてくれた。


「さぁ?私はギルドから『話すな!』と言われましたが、『聞かれるな』と命令された覚えはありません。なので、場所を選ばなかっただけですよ」


 手を叩いて、みんなの注目を集めると、出発することを告げた。四季崎と伊勢が扉から出ようと歩みを進めると、すぐに銀鏡が呼び止めた。


「そのまま行くのか?外には聖騎士が普段より厳重に巡回してるぞ」


 それを初めて聞くイリーネは暗い顔をしていると、銀鏡は背中の鞄から小さな黄緑色の宝石を取り出すと四季崎に投げて渡した。四季崎は左手で器用に受け取った。


 四季崎は魔法式が刻まれた黄緑色の宝石を見つめていると、銀鏡は「通信用の魔道具です」と教えてくれた。


「私が上から誘導します。少しでも是空を疑ってしまった俺にできる唯一の償いだ」


「そんなことで、私が神楽を軽蔑するわけないでしょう」


 銀鏡が少し俯きながら話すと、四季崎は銀鏡の肩に手を置き、答えた。銀鏡は顔を上げると、二人は強く抱き合った。そんな二人を見ると、イリーネはクスリと笑った。


「男性の絆って、なんだか素敵ですね」


 二人が離れると、銀鏡は一人、階段を上がっていった。イリーネは気持ちを切り替えた。


「船の時間はまで時間がありません。急いで出ましょう」


 四季崎が伊勢に手を差し伸べると、彼女はその手を強く握り、外へと続く扉に向かっていった。



 ギルドの扉を開けると、外は霧雨のようにしっとりと肌を濡らす冷たい雨が静かに降っていた。ひんやりとした空気は冷たく湿っている。


 こんな雨にも関わらず、セントナーレの街には意外と多くの人が、厚手の外套を羽織ったり、深くフードを被ったりして、足早に道を急いで歩いていた。雨音が、街の喧騒を少しだけ和らげている。


 そして、人々を監視するように、街の辻々や広場の入り口など要所要所を見回る聖騎士の姿が、普段よりも明らかに多めに配備され、巡回しているのが見て取れた。


 彼らの兜の奥から覗く鋭い視線は、雨に濡れる道行く全ての人々を、まるで罪人でも探すかのように、執拗に注がれている。


(銀鏡の言う通り。巡回がいつも以上だ……)


『聞こえるか?聞こえたら、魔道具を一回叩いてくれ』


 どういう原理か、握っている魔道具を通して銀鏡の声が直接四季崎の頭の中に響いてきた。四季崎は言われた通り、一度宝石を爪で叩くと、『確認した』と聞こえてきた。


『これからは一方的に話す。反応はするな。こちらの情報を使うか使わないかは是空次第だ』


(いつもの神楽に戻ったな。頼もしい限りだ!)


 四季崎と伊勢の二人は、フードを深く被った。ギルド前の通りを巡回していた聖騎士の二人組が、一旦角を曲がって姿を消す。そのタイミングを見計らい、彼らは雨音に紛れながら、影のようにスッとギルド本部から滑り出た。


  彼らは決して怪しまれないよう、平静を装い、焦る気持ちを抑え込んだ。そして、可能な限りの早歩きで、人通りの多い北通りへ。雑踏に紛れながら港方面へと進んでいった。


 時折、魔道具から人ごみに隠れて見えない聖騎士の配置情報が届いてきた。その情報を頼りに、できるだけ聖騎士や他の通行人の注意を引かないように、二人は常に俯きながら、雨で視界が悪い雑踏の間を縫うように、巧みに身をかわしながら進んでいた。


 時折、後ろを振り返ると、四季崎の腕を固く握りしめ、必死に食らいついてくる伊勢の姿があった。普段の彼女からは想像できないほど、慣れない隠密行動に苦心しながらも、彼女は一歩たりとも離れまいと、四季崎の動きに必死に倣っていた。


 北通りの中頃を過ぎたあたりまではスムーズに進むことができた。二人は半分まで来たことで、少し安心感を覚えていると、運悪く周囲の注目を集める事態が発生した。雨の中、軒先で露店の商品を眺めていた親子連れが、些細なことから言い争いを始めたのだ。


「やだー! ママ、あれがほしい!」


 幼い子供が、ある玩具を指さし、大声で地団駄を踏みながらねだっていた。


「もう! またダダを捏ねるんじゃないの! 今日はもうおしまい!」


 それに対して、疲れ切った表情の母親が声を荒げて強く叱る。すると、叱られた子供は火が付いたように泣き出し、その声は雨音に負けじと一層大きくなり、足を止めた周囲の通行人や店主たちはやれやれと迷惑そうに、注目していた。


 その視線と気まずい事態に、母親は顔を赤くし、申し訳なく、周囲の通行人に「すみません、すみません…」と何度も頭を下げながら必死に子供をあやした。


 しかし、子供は余計に反発して泣き喚き、もはや手が付けられず収拾がつかなくなっていた。


(これで周囲の視線があの親子に向く。その隙に港まで向かおう)


 四季崎が先に進もうとしたが、掴まれているはずの伊勢の手が一向に動こうとしなかった。


 不思議に思った四季崎が後ろを振り返ると、そこには、泣き叫ぶ子供の姿に心を痛め、何かを強くこらえている様子の伊勢がいた。四季崎の腕を掴んでいない方の手は、まるでその衝動を抑え込むように、苦しげに胸元のロングケープを固く握りしめ、その瞳には深い葛藤と、それでも抑えきれない決意が揺らめいていた。


(伊勢?何をしているんだ?……まさか!)


 伊勢が何をしようとしているのか、瞬時に察した四季崎は、咄嗟にその腕を掴もうとした。だが、伊勢は四季崎の腕を掴んでいた手を、まるで苦しい選択を迫られたかのようにゆっくりと、しかし確実に離した。彼女の顔には、泣き叫ぶ子供への痛ましさと、それを前にして動かずにはいられないという、抗いがたい衝動が交錯していた。


「ごめんなさい…」


 そう呟いた声は、四季崎への謝罪と、自らの決意を固める響きを帯びており、彼女は迷うことなく、その場から離れていった。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ