冤罪の烙印と聖女の偽死 02
一階に降りていくと、先程まで話していたイリーネがまるでなにかに追われるように、受付で書類を流すような勢いで処理していた。
四季崎に気づくと、イリーネは手を止め、机の隅にあった紙を四季崎の手前に置いた。近づいて確認してみると、そこには色々手直しがされた痕跡のある予定表が書いてあった。
「お待ちしてました。汚くてすみません。書き直す暇がなかったもので……。こちら私が考えたこの先の予定表です」
そこにはモルフェア大陸に伊勢と二人で向かい、霊王に会うことが書かれていた。
「私も一緒に向かうのですか?」
それに対してイリーネは肯定するように頷いた。
「当初は依頼する形で人員を探そうと思ったのですが、四季崎さんが水面下で指名手配されていると分かった以上、このままエセルニア大陸にいるのは危険ですから。それに四季崎さんなら適任です」
(それは私に依頼と言う形同行してほしいってことだろうか?)
四季崎は詳しく聞こうと口を開きかけたが、イリーネが不意に立ち上がり「失礼」と言って受付の奥に入っていってしまった。一人になると四季崎は受付から離れ、エントランスをあてもなく歩き始めた。すると、誰か扉を開けて中に入ってきた。
四季崎は何気なくそちらに視線を向けると、そこには迷彩の外套のフードを深く被り、濡れた外套から滴り落ちる水で、エントランスの赤い絨毯を濡らしながら、後ろ手に扉を閉めると、そのまま佇んでいた。四季崎はその人物が誰かすぐにわかり、近づいていった。
「部屋に行く手間が省けた。四季崎、お前に聞きたいことがある」
鬱陶しそうにフードをめくった銀鏡は、近づく四季崎に合わせるように、ゆっくりと近づいていった。しかし、そこには親しい友人の印象はなく、疑いの目を向けていた。
「血相を変えてどうした?何があったんですか?」
四季崎の質問に答えようとはせず、逆に質問を返してきた。
「今回の襲撃にお前は関与しているのか?」
(何を言ってるんだ?もしかして、あの情報紙のことか?イリーネさんは出回っていないと言っていたが、手遅れだったのか?)
四季崎が考え込むと銀鏡はもどかしそうに奥歯を噛み締め、部屋に響き渡るように「答えろ!!」と叫んだ。その異様さに四季崎は足を止めると、銀鏡も四季崎の少し手前で足を止めた。
「情報紙のことなら、明らかな嘘だとお前も分かっているだろう?」
銀鏡は四四季崎の話した内容とは関係なかったのか、情報紙については反応を示さなかった。
「お前が何のことを言っているのか分からないが、俺が聞きたいのは司祭と最後何を話してたか……だ」
「司祭と話した最後の話?」
「そうだ。森の中からお前が司祭と話している姿を見た。その時お前の頭を掴んで必死で何かを話していたな?それに何か奪っていた」
(神楽は何か誤解している。しかし、内容を話していいのか?)
四季崎は回答を渋るように沈黙すると、「今のお前程度なら俺でも勝てるぞ?」と脅すように言い放ち、ローブの内側からナイフを取り出し、喉元に突きつけてきた。
「かぐ……いや、銀鏡。なんのつもりだ。冗談じゃ済まされないぞ」
「冗談でこんなことをするはずがないだろ?もし、今回の事件に四季崎が関与しているなら、誘った俺の責任だ。俺の手で片をつける」
銀鏡が近づくたびに四季崎もゆっくりと下がっていった。不意に後ろの階段から誰かが駆け降りてくる音が聞こえた。
「四季崎さん!何か、大きな声が……えっ……」
それは上の階から駆け降りてきた伊勢の声だった。銀鏡が彼女に意識を向けた瞬間、四季崎は銀鏡の手にあったナイフを蹴り飛ばした。手から蹴り落とされたナイフは音を立てて地面に落ちると、銀鏡は蹴られた方の腕を抑えながら、地面に落ちたナイフを拾おうと素早くしゃがみ込んだ。
四季崎は取らせまいと地面に落ちたナイフを横に蹴り飛ばした。舌打ちをしながら、ナイフの方に移動するように横に飛びながらナイフを拾い上げた。
「先ほどから騒々しいですが、なにか……」
受付の奥の部屋から出てきたイリーネは、四季崎と銀鏡が争う光景を目の当たりにした。その直後、銀鏡が四季崎にナイフを素早く投げつけたのだ。四季崎は咄嗟にそれを避けたが、自身の背後にイリーネがいることには思い至らない。イリーネは迫り来るナイフを冷静に見据え、回避する素振りを見せなかった。
ナイフはイリーネの顔の横を通過していき、後ろ髪を何本か切り落として、柱に突き刺さった。イリーネは後ろを振り返り、柱に刺さったナイフを一瞥すると、無表情のまま銀鏡と四季崎の間に割って入っていった。その間、イリーネの無言の圧力に二人はしゃべることができなかった。
「お二人は何をしているんですか?」
二人の間に入るとイリーネはまずは四季崎の方を向くと話しかけた。
「私は急に銀鏡に襲われただけで、事情は彼に聞いてください」
承諾するように小さく頷くと、今度は反対を向き、地面に伏せたままの銀鏡に視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「それでは銀鏡さん。お二人は何をしているんですか?」
イリーネは四季崎にした質問を銀鏡にも繰り返した。銀鏡は先ほど四季崎に問いただした内容と同じことを彼女に話すと、一言「なるほど」と呟き、立ち上がると手を差し出し、銀鏡が立ち上がるのを手助けした。
「銀鏡さんの仰ることは分かりました。ただ、この件については、現在ギルド上層部からの情報規制が敷かれており、詳しくお伝えすることができないのです。申し訳ありませんが、今は信じていただくしかありません」
イリーネは今度は四季崎の方に向き直ると、細長い紙を渡した。そこにはモルフェア大陸への乗船券と書かれていた。
「こちら、乗船券になります。それと先ほどギルドの魔術の専門家と連絡が取れました。司祭様から託された手紙ですが、『特定の魔力に反応して文字が現れるものではないか』というのが専門家の見解です」
後ろで聞いていた銀鏡は「……託された」と呟いていた。騒動が収まると、伊勢は新しく着替えた藍色のロングケープを揺らしながら、四季崎に近づいてくると、不安そうに見上げた。
「時間がありませんので、手短に話します。お二人には現霊王様に謁見するために、モルフェア大陸に向かってもらいます。それまでにこちらもできる限り、司祭様が残した遺言にあった霊王様が現在の霊王様なのか、それとも元の霊王様なのかを調べておきます。それまでは現在の霊王様と仮定して動くことにします」
その話を横で聞いていた銀鏡は自分が間違った仮説で動いていたことを知り、少し後悔に苛まれていた。
私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。




