逃走の果ての真実 05
四季崎はイリーネの肩を借りながら、一階の食堂まで連れてきてもらえた。食堂には一人の中年男性で、清潔感のある白いローブをまとった穏やかそうな中年男性の治癒術士が、椅子に座り、患者を待つように食事を取っていた。
「今回はイリーネさんに頼ってばかりで申し訳ありません。ここまで来れば、後は一人でいけます。イリーネさんは早く、伊勢の元に戻ってください」
最後にお礼を言うと、イリーネの腕から逃れるように離れると、壁伝いに食堂へ向かっていた。最初は不安そうに見守っていたが、問題なく、歩けている四季崎を見ると、イリーネは三階に向かっていった。
食堂に近づいてくる四季崎の足音に気づき、治癒術士がゆっくりと振り返ると、そこにいた傷だらけの四季崎を見て、ポカーンと口を開き、持っていた箸を地面に落とした。
「君!今すぐ治療に取り掛かります!座りなさい!」
治癒術士は、有無を言わさず、四季崎を近くの椅子に座らせると、傷の状態を確認するために、服を脱がした。治癒術士は肩を見ると、更に愕然とした。すると言葉通り、すぐに治療に取り掛かった。
「四季崎くんだったか?君はこの傷の状態で動き続けていたのかい?なぜ、早く治療に来なかった?見た感じだと、最初の応急処置は的確に行われているのに、そのまましていたのだろ?……」
(今日は誰かに小言を言われることが多いな……)
その後も続く治癒術士の小言を、今日の出来事を振り返りながら、聞き続けた。
しばらくすると、やり切ったように、額の汗を拭うと、治癒術士の魔力はほとんど使ったのか、フラフラとい椅子に座り込むと、食堂の店員にお酒を注文していた。四季崎は改めて、傷を見てみると、彼の腕は素晴らしいもので、深く抉れていた傷は綺麗に塞がっていた。
「君の傷は治ったが、失った血が戻った訳じゃない。栄養をしっかりと取って、安静にすること。あと、数日は腕を固定して動かさないように」
治癒術士は最後に四季崎の腕を固定すると、店員が持ってきたお酒を一気に飲み干した。満足したように大きく息を吐くと、代金を置いて立ち去ろうとした。四季崎は慌てて治癒術士を呼び止めた。
「治療費の方?」
「心配しなくとも、ギルドの方に請求しておくよ」
去り際に、念押しとばかりに安静にするよう言って去っていった。
一人になった、四季崎は、治癒術士の言う通り、栄養を取ろうと、店員に料理を注文にした。注文した料理を待っていると、上の階からイリーネが降りてきた。
「無事に治療が終わったみたいですね」
四季崎が固定された腕を見ると、イリーネは満足そうにしていた。
「イリーネさんは今からどこに?」
「伊勢さんの服を揃えに行くところです。あのままでは目立ってしまいますので、一度目立たない服に着替えてもらいます。今度の予定については伊勢さんには先にお話ししましたが、明日改めて四季崎さんにもお話します。今日は休息を最優先してください」
ギルドを後にしようとするイリーネに、自分の食事を見て、伊勢もお腹を空かせていたことを思い出、そのことを彼女に伝えた。イリーネは、解りましたとだけ答えるとすぐに出て行ってしまった。
四季崎は一日ぶりの食事を堪能すると、自室に戻り、身体の汚れを洗い流すと、倒れるようにしてベッドに寝転がった。
* * *
翌日の朝
深い眠りに沈んでいた四季崎は、荒々しくゴン!ゴン!と叩かれる扉の音で叩き起こされた。何ごとかと目を擦りながら、ベッドから身体を起こした。
まだ体の芯は重かった。しかし、昨日の激しい戦いによる肉体的な疲れは、治癒魔法と休息のおかげで回復しており、完全ではないものの、日常生活に支障がない程度にはなっていた。
四季崎が扉の向こうの人物に少し待つように伝えると、「至急の件です」とイリーネの声が扉越しにくぐもって聞こえた。
(イリーネさんがわざわざ部屋まで来るなんて珍しい。何かあったのか?)
四季崎は寝間着のまま扉を開けると、いつもの冷静沈着さが嘘のように、いつになく焦燥と切羽詰まった、ただならぬ表情のイリーネが立っていた。「失礼します」と一言だけ言うと、四季崎が止めるのも聞かず、問答無用で中に入ってきた。
イリーネは部屋の一番奥の窓に背中を向けると、開口一番、丸められた紙の束を四季崎に突き出してきた。
「とにかくこれを! 説明は後回しです! 今すぐ見てください!」
珍しく上ずった焦った声で話すと、四季崎は彼女が開け放った扉を丁寧に閉めてから、彼女の元まで近づき、突き出された紙の束を受け取った。
「このような事態になるとは想定外でした。教会は何を考えているんでしょうか。これではギルドと全面的に対立すると言っているようなものです!その件によほど自信があるのか……。それとも、利害を無視した行動なのか……全く理解ができません!」
四季崎が内容を確認する前に、イリーネ自身の感情を吐き出すように怒りを露にしていた。彼女のただならぬ様子に、四季崎は恐ろしさを感じながら手元の紙の束に視線を落とした。
イリーネに手渡されたのは、『セントナーレ聖教徒速報』という教会が発行している情報紙だった。四季崎が見た一面には霊王が今モルフェア大陸に上陸し、教会への巡礼を始めたことが大きく書かれていた。イリーネは怒りで震える声で裏面を見るように言われ、彼は恐る恐る裏面に視線を向けた。
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