逃走の果ての真実 02
四季崎より少し遅れて入ってきた伊勢は、エントランスで、きれいな女性に説教を行けている光景を目の当たりにして、全く状況が理解できず、一瞬だけ固まってしまった。
「……普段から私が温厚に接しているからと言って……あら?後ろの子は誰ですか?」
扉の開くで視線をそちらに向けると、扉の近くで固まっている、伊勢に気づいた。イリーネは一旦説教を止め、伊勢に注意を向けた。伊勢は、一瞬だけ固まっていたが、すぐに心の底から憤慨した様子で、イリーネに詰め寄っていった。
突然現れた伊勢にイリーネは困惑していると、その間に、伊勢は四季崎をかばうようにイリーネの前に立ちはだかった。
「あなたがどなたか知りませんが、最低と思います!彼を見てわかりませんか?こんなに傷だらけの人を相手に一方的に感情をぶつけるなんて、何を考えているんですか!」
四季崎も初めて見るような、伊勢の激怒に我に返ったかのようにイリーネは一歩下がった。そこで、初めて四季崎の状態を見ると一瞬にして表情が青ざめた。
「し、四季崎さん!顔が真っ青ですよ!どうしたんですか!?それに両肩にも怪我が……今すぐ治癒術士を……。それより四季崎さんがここにいるって事は祭祀場はもっと悲惨に……今すぐ応援を!」
怒りから一転して、動揺が隠せないイリーネはそれでも、状況を理解し、すぐさま受付に駆け込むと、治癒術士宛てに手紙をしたため始めた。その動きを止めるように、四季崎は話しかけた。
「イリーネさん。話を聞いてきれませんか?」
四季崎は自分の心配をさせまいとできるだけ冷静に話しかけた。その声を聞いて、イリーネは手を止めると、小さく咳払いをし姿勢をただした。
「取り乱してすみません。……それで何があったんですか?」
四季崎は祭祀場での出来事と伊勢から聞いた内容を合わせて話した。
「……なので、念の為、祭祀場に通じる街道に熟練の冒険者を派遣して下さい。あと、誰にも聞かれる心配のない部屋もお願いします。あっ!あと二、三お願いしたいことが……」
イリーネは四季崎のお願いを聞くと、少し考える仕草をすると、後ろを向き、棚から小さな金属製の鍵を取りはずした。
「この部屋でお待ち下さい。準備ができたら、私も向かいます」
四季崎は鍵を受け取ると、そこには四と刻印されていた。
(二階の会議室の鍵ですか。伊勢には一度そこで待って頂くとして、私は一度部屋に荷物を取りに行きたい)
鍵を渡すとイリーネは自分の準備のために去ろうとしていた。時期崎はイリーネの背中に向かって、自分は自室の鍵を渡してもらうようにお願いした。イリーネはやれやれといった風にほんの一瞬動きを止めると、ゆっくりと受付に戻ってきた。会議室の書きが掛けられていた場所と同じ場所にあった後ろの壁から鍵を取り外すと机の上に丁寧に置いた。四季崎が受け取ろうと手を伸ばすと、ほんの少しだけ鍵を手前に引いた。
「はい、どうぞ。物はこうやって渡すものですよ?わかりましたか、し・き・ざ・き・さん?」
目だけ笑っていない不完全な笑みを浮かべ、イリーネはそのまま去っていった。その彼女の背中を見つめながら、四季崎は特に反応を見せなかったが、隣にいた伊勢は、その冷たい笑顔が忘れられないかのように思わず全身が震え上がり、両肩をさすった。
(あの人……本当はすごく怖い人?)
「伊勢は先にこの部屋に向かって下さい。場所は……確か、二階の突き当りの右の部屋です。私は一度自分が借りている部屋に戻って取ってくるものがあります」
四季崎は伊勢の様子が変わったことに気づくことなく、彼女とエントランスで別れると四季崎は部屋に戻った。部屋に入るなり、身軽になるように、ポーチを外し、浴室から、綺麗なタオルを取り出し、桶にがお湯を入れ、慎重に伊勢が待つ会議室に向かった。
部屋に入るとそこには正方形の小さな木製の机のそれを囲むように椅子が四脚用意されていた。他には一切の装飾はなく、唯一あるのが部屋を照らすために天井から吊るされた光の魔鉱石のシャンデリアだけだった。
伊勢は部屋に一人になったことで、気が緩み疲れが一気に込み上げているようだった。彼女は椅子に座りながら、少し眠たげに虚ろな目をしており、それでも意識を頑張って保とうとしていた。四季崎の扉を閉める音に反応するように視線を四季崎に向けると立ち上がった。
「これで身体を清めてください。このままでは、落ち着かないでしょう」
四季崎は机の上に桶を置くと、きれいなタオルを少し湿らせると片手で全体を濡らすと伊勢に渡した。嬉しそうに受け取った。伊勢は四季崎の目を気にする様子もなく、腕や顔を拭き始めた。四季崎は念の為伊勢に背中を向けると、自分の体を拭き始めた。その際に、服の上から傷の様子を確認した。
(神楽の手当のおかげだな。手当した後にあれだけの事があったのに傷があまりひどくなっていない。しかし、早めに治癒術士に直してもらった方がよさそうだ)
二人が身体を拭き終え、四季崎が桶を片付けようとした時、準備を終えたイリーネが部屋に入ってきた。仕方なく、四季崎は扉の近くの床に桶を置くと、机の近くに戻った。
「すみません。お待たせしました。……それにしても珍しいですね。四季崎さんが他人のために気を利かせるなんて……」
イリーネは誰に聞かせるでもなく「私にはしなかったのに……」とつぶやきながら、扉を閉めると、その扉に小さな張り紙をした。
四季崎は気になってそれを覗いてみると、そこには黒や緑色のインクで書かれた幾何学模様と、黄と水色で書かれた見たこともない複雑な文字がびっしりと張り紙に書かれていた。
イリーネが張り終えると、文字が魔力を帯びたように光を放ち、広がっていった。それは張り紙に収まらず、扉全体に広がっていき、最後には部屋全体を覆ったかと思いと消えてなくなった。
(なんだ、今のは?見たことのない術式が書かれていた……魔道具と言うより、もっと別の何か……?)
四季崎は癖でその術式について考えに夢中だったため、イリーネが近づいていることに気づかず、四季崎はイリーネに頬を突かれた。
「早く済ませませんか?四季崎さんの怪我、放って置くと取り返しがつかなくなるかも知れませんよ」
イリーネの言葉に現実へ引き戻されかけたが、未知の術式への興味がそれを上回った。
「イリーネさん。さっきの……魔法ではなく、魔術ですか?……はなんですか?」
イリーネは四季崎の洞察力にほんの一瞬だけ目を見開き驚きと、とすぐに可愛い女性らしく頬を赤らめた。
「四季崎さんはその……乙女の秘密を暴きたい。そんな悪人だったんですか?」
普段見せない表情と可愛らしい声に四季崎は狼狽えてしまった。それに反応するように伊勢は「駄目ですよ」とイリーネの味方をした。気づくとイリーネの表情はいつもの通りで、まるで何かに化かされたような感じを受けた。
「四季崎さんを安心させるために答えますが、空間を遮断し、認識を阻害する略式型の戦術魔法です」
そう説明したイリーネはこれ以上語らないとばかりに部屋の中央まで移動した。四季崎は名残惜しそうに見つめながら、机に向かった。
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