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時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
異端者の烙印、聖女の覚醒

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下水路潜入 04

 四季崎は伊勢が指をさした方に自分を照らしていた精霊の燈火を動かしていくと、確かに小さなわき道が存在した。


「街道での時も思いましたが、伊勢は五感が鋭いんですね」


 伊勢は嬉しそうに自分で自分の頭を撫でながら謙遜をしていた。四季崎は伊勢が示した場所に進もうと足を踏み出した時、わき道の先に魔獣の気配を感じた。彼はすぐに足音を立てないよう慎重にそのわき道に近づいていくと、奥をじっと見つめた。


「ファウルラットですか……。音を立てないようにしてください」


 体長50センチの赤褐色の体毛に包まれた大型のネズミのような魔獣だった。それは十数匹塊になって身を寄せ合っていた。彼らはキーキーと神経質そうな低い鳴き声を漏らし、仲間同士で話し合っているように聞こえた。


 伊勢も四季崎の真似をするように奥を覗き込むと、ファウルラットに視線を向けた。


「モルフェア大陸では、見たことないですけど、ファウルラットってどんな魔獣なんですか?」


 魔獣を刺激しないように小さな声で四季崎に質問を投げかけた。


「ファウルラットは、暗くて湿った場所を好む魔獣です。ですので、モルフェア大陸には基本的には住んでいません。彼らは地上と繋がる場所から落ちてきた食べ残しなどを狙ってここまで来たのでしょう。外も今頃は夕方もくれてきた頃合いです。夜行性の彼らにとってはここからが活動時間でしょうね」


 四季崎はわき道を観察すると、そこには地上に続く少し古ぼけた木製の梯子が設置されていた。彼はファウルラットと地上に繋がる梯子の位置関係を見ながら、安全に上がる方法を考えた。


「でも、四季崎さんがあんなに大量の魔獣と戦っても大丈夫なんですか?」


 伊勢は四季崎の右肩の傷を見ながら、心配そうに尋ねた。


「それに関しては問題ないでしょう。彼らは臆病な性格で基本的には襲ってくることはありません。しかし、聴覚が優れているので、小さな音にも敏感に反応するので、静かに移動しましょう」


 伊勢は小さく頷くと、精霊の燈火を解除した。辺りは一瞬で真っ暗なったが、幸いなことに梯子の近くには魔石灯があり、場所を見失うことはなかった。伊勢は先に進む四季崎のコートの背中部分を掴むとはぐれないように注意した。


(地上への梯子までの距離は遠くはないですが、注意は必要でしょう)


 四季崎はそう念じながら、二人は真っ暗な中、梯子がある壁伝いに奥へと進んでいき、ファウルラットを刺激しないように慎重に音を立てないように進んでいった。


 無事、梯子までたどり着くと、四季崎が先に登って梯子の安全を確かめるように登っていった。途中で手をかけた横桟に力を入れて登ろうとした。その時!!


 ミシミシと音を立てるとすぐにバキッと掴んだ横桟がへし折れた。


 途中まで昇っていた四季崎はどうすることもできず、そのまま背中から下水路の地面に叩き落とされ、バシャッ!と大きな音を立てて激突した。


 その大きな音に警戒するようにファウルラットの赤い小さな瞳をこちらに一斉に向けて見つめてきた。


 逃げ出すように、その場でうねる様に動き回ると、この小さなわき道は行き止まりなのか、そのままこちらに一斉に向かってきた。


 四季崎は恨めしそうに舌打ちを漏らしながら、起き上がろうとしたが、落ちた衝撃と右肩の痛みでうまく起き上がることが出来なかった。


「伊勢!逃げて!」


 四季崎は下水路に響きわたるような大声で叫ぶと、彼女をわき道から逃がそうとした。


(ここで逃げたら、四季崎さんが襲われちゃう!でも、私にできる事なんで何も……)


 伊勢は四季崎に従って逃げようとする気持ちと彼を助けるために留まりたいという心がせめぎ合い、その場に縫い留められたかのように動くことができなかった。


 動揺して動けないように見える伊勢を見て、四季崎は自分を囮にするために左手で腰にある『四季』に手を伸ばした。


(私がここで囮になれば、少しは時間を稼げるかもしれない……)


 四季崎は口と左手を使って乱暴に『四季』を伸ばすと、ファウルラットを向かい打とうとした。


(ダメ!そんなの事したら、本当に四季崎さんが!!)


伊勢の中のせめぎ合う感情の中で、四季崎を守りたいという心が勝り、彼女は大きく一歩を踏み出し、必死に彼に向かって震える手を、力の限り必死に伸ばした。


 そして、彼女が強く願った……


 彼を助けた……っと


 その時……








 まるで世界が動くのを止め、自分だけ取り残されたように、伊勢以外の全ての時間が止まった。周囲の薄暗い景色の色がモノクロームのように褪せ、迫りくる魔獣の突撃も、目の前で四季崎が見せる焦りの表情も、下水路を流れる水の音さえも、全ての動きと音が、絵の中に迷い込んでしまったかのような印象を与えた。


「……え?」


 一瞬遅れて、止まった世界を認識した伊勢は、ただ何が起きているのか理解できず、ただ茫然と立ち尽くす事しかできなかった。


 止まった世界を眺めるように視線を彷徨わせると視界の端に、どこからともなく、大きな蛍の光を凝縮したのような、温かく淡い黄金色の燐光が現れた。


 それは伊勢が自分の存在に気づいたことを理解すると、喜ぶように伊勢の視界を飛び回った。その後、なにかを伝えるように鈴の音のような心地よい音を発しながら、自身を点滅させたが、伊勢はそれを聞き取ることが出来なかった。


「ご、ごめんなさい。ボクには何を言っているか分からないよ……」


 そのことは伝わったのか、燐光が組み変わるように形を変えた後、すぐに元の形に戻った。すると今度は音ではなく、直接、彼女の頭の中に、複数の声が重なったような不思議な声が響いた。


『カレ、タスケ……ル?』


 それは、複数の声――幼い子供の声、若い女性の声、壮年の男性の声、そして老婆の声――が同時に重なったような、それでいて調和のとれた、老若男女、あるいは人間ではない何かのどれとでも取れる不思議な声だった。


「助けたいよ……でも、私には力が……」


『チカラ……イル?ホシイ?』


「どういう…こと? 」


『ネガッテ……セイ……に……ソウスレバ……』


「あなたは精霊様……ウィプス様なんですか?」


『ハヤク……。ジカ……ンが…ナイ』


 そこまで、話すと、まるでロウソクの火が切れるようにフゥーと姿を消してしまい、そこには初めから何も存在していないように思えるほどだった。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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