下水路潜入 03
四季崎は早くギルドに着くため、歩みを進める足を速めながら、伊勢の質問について考えていた。『魔法とは何か』その質問の答えをどう返すのが分かりやすいのか、彼は悩んでいた。
ふと、視線を上げると、目の前に大きな分岐路が現れた。
(ここにきて、初めて大きな分岐路にぶつかりましたね。西に向かう道と南に向かう道……ギルドはもっと南西に位置するから南側の道で大丈夫でしょう)
四季崎は伊勢に道を指し示し、南の下水路に進んでいった。その後ろ姿を不安げな眼差しで伊勢は見つめ続けた。
(四季崎さんなかなか、答えてくれない。さっき、傷が痛んだ様子で蹲ってたからもうそんな余裕もないのかな?)
もう教えてもらえないかもしれないという悲しさと四季崎の傷への不安で、伊勢の頭はいっぱいになっており、前に意識が向いておらず、不意に立ち止まった四季崎の背中にぶつかり、小さく「いたっ!」と叫んでしまった。
「すみません。急に立ち止まってしまって、先ほどはどこまで話しましたか?」
伊勢は話してもらえるという喜びそうになったが、四季崎に無理をさせてしまっているという罪悪感に襲われ、できるだけ平然を装いながら、「まだ何も……」と答えた。
「あれ?そうでした。えぇっと……魔法には正確には二種類あります。一つが精霊の恩恵を受けていれば誰でも使える魔法。正式名称は『精霊魔法』です。もう一つは、原理をすべて理解し、自身ですべて構築することで精霊を介さない魔法。『魔術』と呼ばれるものがあります」
伊勢は自分の発動させた精霊の燈火を見つめながら、「これは精霊魔法?」と尋ねると、四季崎は肯定するように頷いた。
「精霊魔法の特徴は想像力が重要ということです」
「想像力?」
「祈りとも言い換えてもいいでしょう。『精霊魔法』は精霊に自分が何をしたいのか、どうなってほしいのかという明確な想像を持って、それを精霊に対して強く念じるように伝えます。すると精霊がそれに応えるように力を貸してくれて、魔法が発動する。これが『精霊魔法』です」
四季崎の先生のような丁寧な説明は今まで当たり前に使っていた一般魔法の仕組みを知れたことに伊勢は感心しながら、今まで以上に精霊に感謝する気持ちになった。
「でも、どうして、祈り?想像?があれば魔法が使えるなら、詠唱は何のために?」
四季崎は左手で軽く肩を押えると休憩するように立ち止まった。彼は下水路に背中を預けるように座り込むと、ポーチから水筒を取り出しゴクゴクと喉を潤した。羨ましそうに見つめる伊勢にも勧めると、嬉しそうにお礼を言いながら受け取り、元気よく飲み始めた。
「いい質問です。それには、まず詠唱とは何かを説明する必要がありますね。詠唱とはあくまで想像をより具体的に、そして現象を確実なものにするためのもので、要するに集中を高める補助手段にすぎません」
伊勢は四季崎に水筒を返しながら、その意味を理解しようとした。が……
「よくわかりません……」
その素直な姿勢に小さく笑うと、四季崎は水筒をポーチにもどした。
「分かりにくいですよね?……そうですね。例えるなら……そう!料理です。最初にどんな料理を作るか考えます。仮に煮込み料理としましょう。その時に、その味や香り、見た目も含めた完成形をしっかりと想像します。この工程が、想像や祈りの部分です」
伊勢は実際に試すように目を閉じると、「おいしい煮込み料理……」と小さく囁いた。
「次にその作りたいという想像を元に、魔力。この場合は食材ですね。食材を使って、料理人に料理を作ってもらいます。この工程が、精霊に魔力を譲渡する部分です」
伊勢はどんな想像をしているのか、四季崎の言葉を聞きながら、なにか呟きながら、頬が緩み切っていた。
「それだけでも魔法……料理は完成しますが、それを理想に近づけるために詠唱という名の料理方法が必要なんです。詠唱を口に出して明確に伝えれば、それを受け取る精霊も伊勢の想像通りの魔法をより間違いなく発動させてくれるようになります」
四季崎はさらに「同じ食材でも、料理法が違うと別の物できてしまうのと同じです」と説明してくれた。
最後まで説明を聞いた伊勢は目を開けると「何となく想像できました」と嬉しそうに喜ぶと、どこからかお腹がぐぅーとなる音が聞こえた。四季崎が音のする方を見上げると、自分のお腹をさする伊勢の姿があった。
「朝から何も食べていないんです。さすがお腹が空いちゃいましたね」
少し照れくさそうにしている伊勢を四季崎は少し笑いながら、「ギルドで何か食べましょう」と言ってから、身体を起こしながら、進むのを再開した。
伊勢が発動した精霊の燈火を頼りに暗い下水路を進んでいくと、途中に何度か、分岐にぶつかった。その度に立ち止まり、地上との位置関係と比較しながら、慎重に進んでいった。
先に進むにつれて、暗さが増していき、湿気でじめじめした感じが増していった。四季崎は下水路の現在位置と、地上のギルド本部の位置がだいたい一致していることを頭の中で確認すると、周囲を見渡した。
「この辺りに地上に続き場所があると思うんですが……」
しかし、精霊の燈火は遠くまで光が届かず、通路の全てが見渡せずにいた。伊勢は四季崎の言葉を聞いて、耳を澄ますように両手を耳に添えた。
「……あっちの方角に、人の足音……かな?コツンコツンって微かな音がするかも?」
伊勢が指をさした方角には真っ暗な空間が広がっていた。
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