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時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
異端者の烙印、聖女の覚醒

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事件の結末 03

 広場から入り口までの石階段の道のりは、幸いなことに魔獣にも盗賊にも襲われることなく、通り抜けることができた。


(もしかしたら、森の中で人知れず神楽が対処してくれたのかも知れないな……)


 四季崎はそんな感想を抱きながら、街道に出ると、外はすでに夕方になりかけていた。


 日が傾きかけ、陰りを見せ始めた岩肌と巨石群を見つめた。


(ここさえ抜ければ、広い街道の一本道だ。そんな場所で襲撃される可能性は少ないだろう。ここは正念場だ)


 四季崎は気合を入れるように今一度伊勢を背負い直すと、少し進んだところで、彼はいい表しようのない悪寒を感じた。まるで絶対の強者に今にも命を握られたような……。


 四季崎は全身に嫌な汗を掻きながら、気配のする方へ視線を向けた。


 そこには巨石の影が重なり合い、暗闇だけがそこにあった。その暗闇から生まれ落ちるように黒いマントで前進を隠した人がゆっくりと現れた。


 黒いマントは四季崎を視界に捉えると、明らかにやる気のなさそうな感じで項垂れた。先程まで感じた圧倒的な気配は、そこにはどこにもなくなっていた。


(さっきの気配はコイツではないのか?)


「何が『ここにいるだけでいいです』だ。普通に取り逃がしてんじゃん」


 四季崎は、先程の気配がその人物からが本当にこの黒マントから発せられたのを疑いたくなるほど、やる気がなさそうだった。四季崎は黒いマントがいつ動き出すか予想がつかず、いつでも逃げられるように、できるだけセントナーレの方へ身体を動かしていった。


「どうしよー。見なかったことにして、寝るか……でも、そんな事したら、また怒られるよなー」


 黒マントは器用にフードが脱げないように空を見上げながら身体をフラフラさせていた。すると、突然動きを止めた。


「待てよ?考え方を変えたらコイツ殺しても誰にも咎められねぇじゃん!」


 視線だけこちらに向けるとその目は、まるで猫がネズミを見つけたような捕食者のものだった。


(クソ!コイツの考えが予測できない。今はとにかく伊勢を逃がすために逃げるしか無い)


 黒マントが動き出す前に四季崎は踵を返すように背中を向けると一気に走り出した。


 それを合図とばかりに黒マントも動き出した。マントの袖から腕を出すとそこには猫の爪のような鋭利な金属製の暗器ーー猫爪が鈍く光っていた。


「逃げんなよ!殺しにくいだろが?」


 黒いマントは足に力を入れると、一瞬のうちにその場に砂煙だけを残し消え、周囲の巨石からダッ!ダッ!と蹴るような音が聞こえたかと思うとすでに四季崎の前まで現れていた。


黒マントは巨石を蹴った勢いで横切ったのか、宙に浮いた状態で四季崎の目を斬り裂くかのように腕を振るっていた。


(もうここまで!)


 四季崎は伊勢を落とさないように注意しながら急停止すると同時に、少し上半身を反らせることで、ギリギリ黒マントの攻撃を躱した。


 黒マントはそのまま過ぎ去ると今度は巨石を登り切ると上から伊勢の首を狙うように落下してきた。


 黒マントの読めない動きに対処が遅れた四季崎は、咄嗟に身体を回転させ、伊勢だけを守った。


 落下と同時に四季崎の左肩を引っ掻くと血が飛び散った。


(傷は浅そうだ……。しかし、コイツの狙いは何なんだ?教会の仲間ならなぜ今、伊勢を殺そうとした?方針が違うのか?)


 地面に降り立つと、黒マントは今度は突然呆然と立ち尽くした。


「あぁーそう言えば誰を殺しちゃ駄目なんだっけ?」


 立ったまま悩むようにして四季崎の行き先を塞ぎ続けた。その後自分でも答えが出なかったが、黒マントは四季崎に視線を向けた。


「ねぇ?誰だっけ?」


 四季崎が唖然としていると黒マントは考えるのをやめたようだった。


「みんな半殺しにすれば、いいだけじゃない!」


 再びやる気に満ちた黒マントは、一気に身体を低い姿勢にすると、そのまま高速で迫ってきた。


(伊勢を背負いながらでは躱せない!)


 相手の読めない動きに常に後手に回ってしまう四季崎が回避することができそうになかった。


「エルフィコス流剣術『風車』」


 最早躱しきれないと覚悟した四季崎の視界に、突如、空中から舞い降りる人影が映った。振り下ろされた剣を紙一重で攻撃を逸らすと、四季崎は息を飲んだ。信じられないものを見るかのように、その場に固まった。乱入者へ気怠そうに目をやると、へ垂れ込んだ。


「もー。面倒が増えてく一方だ!」


 黒い燕尾服の白髪の老人が、スーッと立ち上がった。


「それは申し訳ありません。坊ちゃまの命で彼らを守らなければいけませんので。どうか、ご容赦を」


 きれいな一礼を見せたのは船で出会った風運の執事長の相模だった。彼は抜いた剣を鞘に納めると横目で四季崎を見た。


「随分とやられましたね。相手は相当な手練れだったようですね」


 相模は四季崎の状態を確認すると、黒マントに視線を戻すと、行き先を尋ねた。四季崎は祭祀場で話した内容と同じ事を相模にも話すと納得するように身構えた。


「分かりました。では、ここは私が引き受けます。四季崎殿は心配せず先に向かって下さい。道は切り開きます」


 相模は四季崎の意志を確認すると、一気に飛び出し、黒マントの行動を抑え込んだ。相模の背中に確かな信頼を感じながら、「今の内に」と相模に促されるように、四季崎はセントナーレへと走り出した。


「邪魔だ爺!」


 黒マントは相模の不意を突いて剣筋を逸らすと、四季崎が背負っている伊勢に掴みかかろうとしたが、その目の前に一本の矢が地面に突き刺さった。


 不意の攻撃に動きを止められた黒マントは、姿を隠してさらに魔法を使ってまで隠蔽している銀鏡の場所を的確に睨んだ。


 銀鏡はその目に宿る突き刺すような殺気を感じながらも、迷いなく四季崎に向かって叫んだ。


「ここは任せろ!行け!()()()!」


私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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