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時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
異端者の烙印、聖女の覚醒

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事件の結末 02

 四季崎は司祭の死を悔やみながら、最後まで守り抜いた伊勢に視線を向けた。


 白地に金の炎の柄の刺繍が施された巫女装束に身を包んだ伊勢は、仰向けで深い眠りについているようで、静かな寝息を立てていた。激しい戦闘の跡が残る石舞台に横たわる彼女の装束は、泥や血で痛々しく汚れ、その白い裾には赤黒い染みが広がっていた。奇跡的に無傷に見えるその無垢な寝顔にも、司祭の返り血らしき赤黒い染みが一筋、頬に付着していた。


 無事を確認すると、近くに倒れている盗賊に刺さっている自分の愛用の武器『蛍火』を抜き取った。刀身を消し、『四季』に嵌め込んだ『可変機構』を取り出すとポーチにしまい込んだ。


 その頃には周辺の確認を済ませたのか、銀鏡が合流した。銀鏡は四季崎の隣で寝る伊勢に視線を向けると「彼女が?」と短く尋ねた。


 銀鏡は石舞台の階段に四季崎を座らせると肩の怪我を見せてもらった。戦闘で無理が祟ったのか、最初に巻いた包帯は血に染まっていた。


 四季崎は応急処置を受けながら、ここまで来る船で伊勢と会った時の事を詳細に話した。


「なるほどな。船でそんな事がそれは不運だったな?」


 銀鏡は自前の薬を塗り、丁寧に布を当てながら、しっかりと包帯を巻いていった。


「えぇ……まぁ。そうですね。ただ、あれは彼女の正義感の強さからくるものなので、彼女を責める事はできませんよ」


  四季崎はどこか心ここにあらずといった様子で、その応答も普段より一拍遅れるように感じられた。銀鏡はそんな彼の異変に、漠然とした違和感を覚えた。周囲を警戒する際、視界の端で彼が司祭と何か話している姿を思い出していたから尚更だった。


「そう言えば、最後に司祭と話していたよな?」


 その言葉に四季崎は少し動揺を見せると、脳裏に遺言の文字がちらつくのか、何か考えるように言葉を詰まらせた。


「あーそうですね……司祭は最後に伊勢を無事に届けてほしいっと頼まれたんです」


 視線を合わせない四季崎に不審感を抱き始めた。友人である四季崎の明らかに不自然な態度に、困惑と同時に心配が募っていく。銀鏡はちょっとしたイタズラ心からか肩の応急処置の最後に強く縛ると四季崎は「痛ってぇ!」と悲鳴のように叫んだ。


「痛みがあるなら、まー大丈夫だろ?」


 四季崎は銀鏡を恨めしそうに睨みながらも、お礼を言うと立ち上がった。彼は腕が多少動くのを確認すると、わずかな安堵の表情を浮かべた。


「あとは高位の治癒術士に任せるしかありませんが……高くつきそうです」


 四季崎は頭の中でかかる費用を計算すると目を背けたくなった。


 銀鏡は四季崎の応急処置用の道具を片付けると、立ち上がり周囲を見渡した。


「念の為、矢の回収とついでに何か教会の関与を示す証拠がないか調べてみる」


 そう言って、最後に倒した盗賊に死体まで歩いて言った。


 銀鏡が四季崎に背を向け視線が死体に向いたのを確認すると、四季崎は銀鏡に隠すように持っていた司祭に最後に渡された血に塗れた羊皮紙を見つめた。血が固まりつつある羊皮紙を慎重に開き、内容を確かめようとした。


 しかし、そこには()()()()()()()()()、ただ血で汚れたただの羊皮紙の様だった。 


(何か魔法で念写している様に見えたが、気のせいだったか?でも、これを()()()に渡す意味があるのか?)


 四季崎が羊皮紙に何か魔法的な仕掛けがないのか、集中するように視線を下げていると、いつの間にか戻ってきた銀鏡が眼の前に立っており、声をかけられた。


「それはどうしたんだ?」


 四季崎は咄嗟に羊皮紙を雑に折り畳むと、ポーチに押し込んだ。


「大したものじゃないですよ?上着に入れていた物が自分の血で汚れてしまったんです」


 四季崎は銀鏡から離れるように伊勢の元へ向かおうとした。司祭が死んでからの四季崎の怪しい態度に、流石の銀鏡も無視できなくなったのだろう。彼は四季崎が何か隠していると確信し、たまらず四季崎の右肩を掴んだ。不意に右肩を捕まれた四季崎は激痛に襲われ身体を強張らせると、振り返った。


「すまん!つい……」


 すぐに手を離した銀鏡は謝った。四季崎は対して怒っている様子はなく「気をつけてくれ」と一言伝えた。


「ここに長居は無用です。さっさと()()()()()()へ向かいましょう」


 そう言って四季崎は伊勢を背中に背負った。


「なぜ、セントナーレなんだ?彼女はカルマティアから来たはずだ」


 その疑問に少し考える銀鏡に背中を向けて街道へ続く道へと向かっていった。


「私がカルマティアに近づけないことは知っているでしょう?……教会が絡んでいる以上はそちらにつれていくのは得策じゃない」


 鏡にはそれが正論に聞こえたが、四季崎の不審な態度から言い訳にも聞こえた。


 二人は無言で石階段下っていくと一角隊長たちが戦っていた広場に出た。


 そこはあの戦いの悲惨さを物語るようにそこら中に血痕が残されていたが、魔獣の死体だけは消えていた。


「神楽、魔獣の死体を回収したのか?」


 銀鏡もこの状況は予想外だったらしく、目を疑っているようだった。


「いや、、そんな暇はなかった。それに俺は祭祀場に向かうのに、カルマティア近くから森を突っ切ってきたから、ここは通っていない」


 四季崎は広場を観察しながら「それで予想より早かったのか……」と呟くと銀鏡の方を見た。


「私はこのまま街道まで抜けます。その間、神楽は森に入ってきた周辺の警戒、頼みます」


 そう伝えると先ほどより早足で街道に向かっていき、銀鏡は仕方なく森に入っていった。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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