事件の結末 01
* * *
石舞台では激しい戦闘音が鳴り止み、頭目の魔力の薄れていくのを感じた盗賊たちは頭目が敗れたと知ったのだった。その答えに言い表せない驚きと隠しきれない動揺が現れていた。
それに対して敵の頭目の敗北により聖騎士達は自分たちの勝利を確信し、四季崎に続き勝利を収めようと士気を高めていくのだった。
「あの人がやられた?」
「ありえないだろ。あの人だぜ?」
盗賊の二人は一度聖騎士から距離を取ると、仲間同士短いやり取りを交わし、互いに見つめ合った。そして、一つの答えにたどり着いた。
「「あの方なら、任務を優先する」」
盗賊たちは、それまでの戦いがまるで遊びだったかのように、聖騎士たちに猛攻を仕掛けてきた。聖騎士たちは彼らの突然の変貌ぶりに対応しきれず、ただただ自分の身を守ることで精一杯だった。
そして、戦況はすぐに変わった。司祭からの強化魔法が最初に切れた聖騎士から劣勢に陥っていった。
その瞬間に盗賊に嬲り殺しにされるように追い詰められた。聖騎士は致命傷を避けるように防いではいたが、ほとんど意味をなさず、最後には大きく袈裟斬りに斬られると膝から崩れるように倒れ座った状態で動かなくなった。
残された聖騎士は仲間が動かなくなったことに動揺し、絶望と恐怖で叫び声を上げながら、がむしゃらに剣を振るい、一人の盗賊と戦うのがやっとだった。
森のどこかから銀鏡の叫び声が響いた。
* * *
「是空!まだだ!」
その言葉に四季崎の意識は今一度、戦場に引き戻された。石舞台でまだ戦闘が行われている事を思い出すように視線を石舞台の方に向けた。石舞台からは聖騎士の、無我夢中で叫ぶ声だけが聞こえてきた。
(一人だけ?もう一人はどうした?)
四季崎は頭目の戦いで疲弊し切った身体を引きずるようにして立ち上がると、石舞台へと足を向けた。
すぐに石舞台に到着すると、そこは今まさに、二人の盗賊が残された一人の聖騎士に剣を突き刺し、彼の口からは、悲鳴とも呻きともつかない泡のようなものがせり上がり、殺害しているところだった。
盗賊は剣を抜き取ると、邪魔になった聖騎士の死体を無下に蹴とばし、視線を司祭に向けた。
「この子を君たちに渡すわけにはいかない。そうすれば彼女は……」
その言葉に盗賊たちはただ笑い、「命が惜しけりゃ逃げな?」と叫んだ。司祭はその言葉に屈することなく、両腕を大きく広げ伊勢の盾になろうとしていた。
盗賊は「それが答えか……」と呟くとゆっくりと司祭の元に近づいていった。盗賊たちはまだ、四季崎に気づいていない。
(このままでは……)
四季崎はこのままの足取りでは間に合わないと判断すると、走り出そうとした。しかし、頭目との闘いに疲労し切った身体はそれについていけず、限界を超えた負荷に足がもつれるとその場で派手に転んでしまった。
その音に盗賊たちが四季崎の存在に気づくと、彼の無様な姿にバカにするように笑うと司祭まであと一歩というところまで迫っていった。
四季崎は『蛍火』を逆手に持ち替えると、持てる力全て使って剣を投げつけた。
同時に事態を打開すべく、森の中から銀鏡は矢を盗賊に向けて放っていた。
まるで示し合わせたかのように同時だった。
両者の攻撃は確実に盗賊を仕留めることができた。剣は盗賊の胸に深々と刺さり、銀鏡の矢は盗賊の側頭部を確実に射抜いていた。しかし……
最悪なことに、その致命的な攻撃は、たった一人の盗賊に集中してしまったのだ。
致命傷を二か所に受けた盗賊は身体がぐらつくと糸の切れた人形のように地面に倒れると、地面に血の水たまりを作った。
幸運にも攻撃を一切受けなかった盗賊は自分の命があることに歓喜するように高笑いをすると目の前の司祭に向けて剣を振り上げた。
司祭は震えながらも、自らの命に代えてでも伊勢を守ろうと恐怖に震えながらも必死で壁になり続けた。しかし、盗賊はそんな司祭に向けて無慈悲にも剣を振り下ろし、斬り伏せた。
司祭は斬られた傷から血を飛び散らせながら、そのまま後ろに倒れ込んだ。盗賊はそのまま伊勢を連れ去ろうと歩みを進めようとしたが、そこで自分の身体に違和感があることに気づいた。視線を腹部に向けると、そこには剣が腹部を貫通していた。盗賊はその持ち主を確かめるように、ゆっくりと視線を後ろに向けた。
そこには最初に盗賊に嬲り殺しにあい、袈裟斬りにされた聖騎士がいた。今にも死にそうな聖騎士が最後の力を振り絞って剣を突き立てており、盗賊は口から血を吐き出し、崩れ落ちると、最後の力を使い果たしたように、聖騎士もその場に崩れ落ちた。
四季崎は何とか立ち上がると、司祭の元に向かった。
(教会にもこのような崇高な志を持った者がいたのか!このような人物をここで死なせてはいけない!)
四季崎は司祭の様子を確かめるように傷を確かめた。剣は幸いにも心臓までは届いていなかったが、肋骨は砕け、片方の肺は斬られたことでつぶれていた。
(ひどい……。だが、今すぐに、カルマティアまで連れて行けばまだ望みはある!)
四季崎が司祭を担ごうとした時だった。司祭は弱々しい手で四季崎の首を掴み取ると、その指先には死を目前にした者のとは思えぬほどの執念が宿り、彼の頭を引き寄せた。
「……」
四季崎は司祭の言葉に驚愕し、その手から離れようとしたが、その弱々しい腕からはなぜか抜け出すことができず、司祭は魂を絞り出すように、途方もない真実を語り続けた。その一言一言が、四季崎の心臓を直接掴むかのようだった。
「……」
四季崎はその想像を絶する、あまりにも過酷な事実に言葉を失い、どうすべきか苦悩した。彼が信じてきた全ての常識が、音を立てて崩れていくような感覚に襲われたのだ。
「そんな事、私に言われても困る!そのような重大なこと、ご自身の口で、直接!」
しかし、司祭はもう耳が聞こえていないのか、最後に微笑みながら、四季崎を掴んだ反対の腕に握られた血に塗れた羊皮紙を額に当てると、淡く光り輝いた。その羊皮紙を四季崎に渡すと、「お願いします」とつぶやいて、命を落とした。
その死に顔はどこか、安らかにも見えた。その横には司祭が最後まで守り抜いた伊勢が気絶しているのか、浅い息をして眠っていた。
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