祭祀場襲撃事件 03
四季崎是空は、異端者としての過去を持ちながらもギルドの一員として成人の儀の警備任務に参加することになる。
会議で仲間たちと打ち解け、現地調査のため夜の街道を訪れた彼は、迷子の少女・小暮涙と出会い、優しさと責任感から彼女をカルマティアの城門まで送り届ける。
少女との別れと贈り物の交換を経て、四季崎はギルドへ戻り、深い眠りに就く。
翌朝、寝過ごしたことに気づき焦るが、親友の銀鏡に励まされ、共に祭祀場へ急ぐ。
穏やかな草原を抜ける中、二人は周囲の異変に気づき、戦闘の予感とともに警戒を強めて現場へ向かう。
銀鏡は耳をそばだてるように意識を集中させた。その表情は、みるみるうちに厳しいものへと変わっていく。
「祭祀場の道の途中にある広場で、誰かが交戦中だ。多分、隊長だろう。……それと相手にしているのは、多数の魔獣だ。あと、どこかは分からないが、森の中に不穏な気配を感じる……どうする、是空?」
四季崎は顎に手を当て、深く考え始めた。彼の脳裏には、先ほどの小島の死がよぎっていた。
(襲撃しているのは魔獣だけ……襲撃者本人の気配はまだないのか。周囲にいる不穏な気配が伏兵と考えて間違いないだろう。この状況で迂闊な動きはできない……だが、隊長が危ない)
「神楽。不穏な気配に気づいていますか?人数は?」
銀鏡はもう一度気配を探ることに集中するように目を閉じた。その顔には、張り詰めた緊張感が走る。
「こっちには……気づいていない、な。広場の方に意識を向けている感じだ。人数は……正確には分からないが、そんなに多くはないだろう。多くて五、六人程度か」
「それは魔獣使いとその護衛の可能性が高いでしょう。こちらに気づいていないなら、神楽が奇襲を叩くのが最適です」
銀鏡は納得したように深く頷くと、懸念していた疑問点を口にした。
「問題は伏兵の場所だ。闇雲に動き回って探せば、それだけで奇襲がバレる可能性が高くなるぞ?」
その点には四季崎も既に気づいていたようで、対策はすでに頭の中で描かれているようだった。
「同時に私が広場の隊長と合流して、陽動をかけます。そうすれば、伏兵も動揺して少しは尻尾を掴ませてくれるでしょう」
二人はその後も、小声で具体的な連携と役割分担を話し合った。張り詰めた空気の中、彼らの言葉には迷いがなかった。最後に、互いの拳を力強くぶつけ、それぞれの武運を祈った。銀鏡は音もなく鬱蒼とした森の中へと姿を消した。その背中は、闇に溶け込むかのように見えた。
「さてと、私も神楽が伏兵を見つけられるように、目一杯、暴れて見せますか」
そう言うと、四季崎は武器の『四季』を慣れた手つきでクルクルと回した。まるで彼自身の決意を映し出すかのようだった。そして、最後に一閃、振り下ろすように『四季』を真下へと向けた。
四季崎は一人、古びた石段を慎重に進んでいった。その視線は、石段を登り切った先に広がる広場の様子を鋭く捉えていた。
普段ならば、陽光が木々の葉を透かし、明るい木漏れ日が降り注ぐ、ほっと息をつけるような穏やかな空間が広がっているはずだった。足元には踏み固められた土の地面が広がり、ところどころに落ち葉が舞い、広場の周囲は高く伸びた木々に囲まれている。その木々の間からは、さらに奥へと続く細い石段が見えていた。しかし、今、その情景は見るも無惨な地獄と化していた。
穏やかだった木漏れ日の下で、数名の冒険者が、儀式の参加者と思しき子供たちを背後に庇うように身構えていた。彼らの顔には、極度の疲労と、それでもなお揺るがない決意が混じり合っていた。体中に無数の傷を負いながらも、彼らは必死に子供たちを守ろうと戦っている。
広場から抜ける道は、ノクターン・リーヴァーの黒い影によって完全に閉ざされ、もはや脱出は不可能に思えた。冒険者たちの顔には、極限の疲労と、それでもなお消えぬ決意が複雑に絡み合っていた。彼らは子供たちを背後に庇い、その小さな背中には、怯えながらも必死に耐え忍ぶ幼い命がしがみついている。狼たちの低い唸り声と、森を切り裂くような威嚇の咆哮が、静寂を食い破り、絶望的な状況をさらに深く印象付けた。
既に数匹のノクターン・リーヴァーの骸が足元に転がっているものの、周囲を取り囲む敵の数は、その何倍にも膨れ上がり、終わりなき悪夢のように彼らを追い詰める。対する冒険者たちも、体中に無数の傷を負い、満身創痍の状態で子供たちを守るために必死に戦っていた。彼らがこの圧倒的な劣勢の中、致命傷を免れているのは、子供たちの中心で毅然と指揮を執る一角隊長の、まさに奇跡的な手腕に他ならなかった。彼は、この暗闇の中で唯一、希望の光を灯し続ける存在だった。
(神楽の奴、どこが多数の魔獣だ。どう見ても、大群じゃないか!私一人で戦況をひっくり返すのは自身はないぞ……)
四季崎は全身にまとわりつく嫌な汗を感じながらも、一度『四季』を強く握り直した。大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。彼は目の前の光景を改めて脳裏に焼き付けた。
(……行くか!)
、四季崎はそこで立ち止まることを良しとしなかった。彼は固く唇を結び、眼光に鋭い光を宿す。わずかに震える膝に力を込め、決意を胸に、石段から大きく、しかし迷いのない一歩を踏み出した。
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