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時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
異端者の烙印、聖女の覚醒

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祭祀場襲撃事件 02

四季崎是空は、異端者としての過去を持ちながらもギルドの一員として成人の儀の警備任務に参加することになる。

会議で仲間たちと打ち解け、現地調査のため夜の街道を訪れた彼は、迷子の少女・小暮涙と出会い、優しさと責任感から彼女をカルマティアの城門まで送り届ける。

少女との別れと贈り物の交換を経て、四季崎はギルドへ戻り、深い眠りに就く。

翌朝、寝過ごしたことに気づき焦るが、親友の銀鏡に励まされ、共に祭祀場へ急ぐ。

穏やかな草原を抜ける中、二人は周囲の異変に気づき、戦闘の予感とともに警戒を強めて現場へ向かう。

 四季崎は新人の身体をしっかりと抱え上げたまま、素早く周囲に視線を走らせた。岩場には風が通り過ぎる音だけが響くだけで魔物の気配は、今のところ感じられない。安堵と同時に、ほんのわずかな緊張が四季崎の背筋を走る。


 彼は慎重に新人を抱き上げ、近くの大きな岩陰まで運んだ。岩の影は外敵から身を隠すには十分で、そっと新人を寝かせると、四季崎はすぐさま彼の全身の状態を確認し始めた。


(全身の擦過傷と打撲に加え、両腕の裂傷に咬傷……。そして、致命傷は背中に受けた魔物の爪によるものか……。この傷では、並の回復薬では焼け石に水。自己の自然治癒力を高めたところで彼は助からないだろう……いや、それでは間に合わない)


 四季崎は焦燥感を胸に、ポーチから回復薬を取り出しかけたが、ふと動きを止めた。手に取りかけた小瓶をゆっくりとポーチに戻すと、新人の顔を見つめた。


「大丈夫だ!すぐに助けが来る!もう少しの辛抱だ!」


 四季崎の声に反応するように、新人はゆっくりと、まるで重い瞼を持ち上げるかのように目を開けた。その瞳には、まだかすかな光が宿っていた。


「四季崎さん……俺、やりましたよ……。これで俺も四季崎さんみたいに……強くなれるかな?」


 途切れ途切れに言葉を紡ぐたび、胸の深い傷口からごぽりと音を立てて血が流れ落ちる。それでも新人は、かすかな笑みを浮かべようと口元を歪めた。


「大丈夫です。君なら、いずれ私なんかを追い抜いて、もっと強くなれますよ。だから、今はゆっくり休んでください」


 四季崎は震える声でそう絞り出した。新人は、その言葉に安堵したようにうっすらと笑うと、「やった……今度はみんなを助けに行かないと……」そう呟いた。祭祀場の方向へと力なく腕を伸ばしたが、すぐに重力に逆らえず落ち、そして、ぴくりとも動かなくなった。


 四季崎は、半開きになった新人の瞼をそっと下ろし、その頬の汚れを拭ってやった。冷たくなっていく肌の感触が、彼の心を締め付けた。


(まだ若いのにこんなところで命を落とす羽目になるとは……私が現場に来るのが遅れていななければ、このような事態にはならなかったはずだ!)


 四季崎は、苦渋に満ちた表情を浮かべながら立ち上がった。その時、周囲の警戒と、もう一人の冒険者の容態を確認していた銀鏡が、ひっそりと戻ってきた。


「周囲に魔獣の気配は、もうない。だが…木野は、即死だった。背後からの奇襲。幸運にも、一撃で息の根を止められたようだ。痛みを感じる間もなかっただろう…。それで、小島の方はどうだった?」


(この子は小島というのか……。私は彼らの名前も知らないというのに……)


 一人で駆け出そうとする四季崎の腕を、銀鏡が確かな力で掴んだ。四季崎は、少しばかりの苛立ちを込めて彼に視線を向けた。


「襲撃者は祭祀場に向かったそうです。いますぐ向かいましょう」


 一人向かおうとする四季崎の腕をつかんだ銀鏡はに対し少し苛立ちを込めた視線を向けた。


「なんですか?」


 それに対し、銀鏡は心配そうな目を向けた。


「焦りは、命を摘む。落ち着け、救える命を、救えなくなるぞ!」


 腕を握る手に力を込められ、鈍い痛みを感じた四季崎は、そこで初めて、自分が珍しく感情的になっていることに気づいた。彼は身体から余分な力を抜くように深く息を吐き出すと、改めて銀鏡を見つめた。その目には、先ほどの苛立ちの影はもうなかった。


「ありがとう。大丈夫です」


 二人は周囲を警戒しながら、祭祀場の入り口へと足を進めた。


 祭祀場へ続く道は、両端を鬱蒼とした森に深く挟まれ、日の光もまばらにしか届いていなかった。その薄暗さが、どこか神秘的ながらも不気味な雰囲気を醸し出している。道は緩やかながらも道幅は広く、初めての若者でも簡単に登っていけるよう整備されていたはずだ。だが、普段はあまり使われていないのか、石段は至る所にひび割れや欠損が見られ、苔に覆われ滑りやすくなっていた。


 二人はいつ奇襲を受けてもいいように最大限の警戒をしながらも、急ぎ足で階段を上っていった。先頭を歩く銀鏡は、周囲の森の奥深くに目を光らせ、わずかな小枝の折れる音や風のざわめきにも神経を尖らせている。 その後ろを、同じように警戒しながら四季崎が続いていた。


「しかし、あの魔獣は何なんだ?エセルニアでは見たことないぞ?」


 銀鏡は情報共有を促すように、低い声で四季崎に話しかけた。


「あれはノクターン・リーヴァー。ナノスに生息する夜行性の魔獣です」


 四季崎は、初めてその魔獣を見た時に頭の片隅から引っ張り出した知識を銀鏡に伝えた。


「なんでそんなのがここに?もしかして、襲撃者が連れてきたのか?」


 銀鏡の問いに、四季崎は冷静に推測を述べる。


「かもしれません。だとすると襲撃者の中には魔獣使いが潜んでいる可能性がありますね」


 銀鏡はあからさまに舌打ちをすると、「厄介そうだ」と呟いた。


 その後、二人は無言のままさらに進んだ。張り詰めた空気が周囲を包む中、突然、銀鏡が腕を横に広げ、静止するよう無言で促した。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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