成人の儀 前夜 09
物語は、主人公の四季崎がギルドで旧知の仲である銀鏡と偶然再会する。
銀鏡に誘われ、隠れ家のような店を訪れた四季崎は、そこで極秘任務である「成人の儀」の護衛を依頼される。
依頼を引き受けた四季崎は、自身の武器である『四季』の性能を拡張する「可変機構」を受け取る。
彼はその夜、来るべき任務に備え、夜通し武器の手入れに没頭してしまった。
翌朝、四季崎はギルドで再び銀鏡と遭遇し、模擬戦を行うことになった。
演習場では、銀鏡が弓矢と体術を組み合わせた巧みな戦術で四季崎を翻弄します。
銀鏡は矢の軌道を隠したり、煙幕で視界を奪ったりと、次々に変化に富んだ攻撃を仕掛けますが、四季崎は卓越した身体能力と冷静な判断力でこれらに対応していきます。
二人は東の空から降り注ぐ陽光を浴びながら、東通りを駆け抜けて外に出た。
昨日の夕方とは違い、晴れ渡る青空の下、穏やかな海が広がり、白い波が海岸線に打ち寄せる様子をきれいに見ることができた。草原は生き生きとしており、風に揺れるたびに生命の歌を奏でているかのようだった。どこか牧歌的な雰囲気が広がり、時が止まったかのような錯覚に陥る。
そんな穏やかな雰囲気に反したコートに裾を翻しながら四季崎と銀鏡は急ぎながら祭祀場に向かっていた。
「それで?どうして午前中に顔を出さなかった?隊長、『これは傑作だ!』っと大笑いしてたぞ」
軽やかな足取りで、しかしその表情には微かなからかいを浮かべながら、銀鏡は四季崎に問いかけた。
四季崎は昨日、見た隊長の厳格ば姿からは想像できない大笑いに一体どこが彼をそこまで笑わせたのか、純粋な好奇心が湧き上がった。
「それについては済まない。どうやら、ここ最近の徹夜続きで疲れが溜まっていたみたいです」
少し肩をすくめ、申し訳なさそうに答える四季崎の目にはまだ疲労の色が感じられた。
「あぁ、なるほどな。『四季』が返却されて浮かれてたのか」
銀鏡の鋭く、しかし温かみのある真意をついた言葉にぐぅの音も出なかった。彼の顔はわずかに赤くなり、図星を指されたことに気まずさを覚えた。
「それで祭祀場の様子だが、午前中は問題なかった。むしろ、穏やかそのものだったぞ。儀式も滞りなく行われた」
銀鏡は報告しながら、「今回は人員がむしろ多すぎたか?」と冗談めかして言った。それほどまでに、祭祀場は平穏だったらしい。彼の言葉からは、午前の任務が予想以上にスムーズに進んだことへの安堵と、わずかな拍子抜けの感情が滲み出ていた。
「では、午後も予定通りということですね?」
「いや。予定を繰り上げるみたいなことを行ってたな……。だとすると、今は丁度エルフィコスの子どもたちが終わっているくらいか?」
(では、私の仕事は殆どないに等しい……。これでは今回誘ってくれた神楽に申し訳が立たない)
四季崎が内心で深く落胆し、彼の心には、せっかくの機会を無駄にしてしまったという後悔と、神楽への申し訳なさが渦巻いていた。彼が少し落ち込んだ表情を浮かべ、視線をわずかに下げるのを見るとそれを鋭く見抜いた銀鏡は呆れたように息を吐いた。
「是空。お前、俺に申し訳ないとか、思ってるだろ?気にすんなって」
銀鏡は親友を諭すように、優しく、しかしきっぱりと言った。彼の声には、四季崎の性格をよく知る者特有の諦めと、それでも彼を思いやる温かさが込められていた。
「しかしだな。お前がよくても他の人達にも、、、」
四季崎はなおも食い下がろうとしたが、それを聞いて銀鏡は声を上げて笑い、笑い声は草原に響き渡り、二人の間の張り詰めた空気を和らげた。
「それこそ大丈夫だ。隊長が笑ってたって言ったろ?あれは新人に抜き打ちの緊急対応学ばせるいい機会だって笑ってたんだ」
そう言いながら、銀鏡はニヤリと笑い、「新人はお前と仕事ができなくて落ち込んでたがな?」と茶目っ気たっぷりに付け加えた。彼の言葉は、四季崎の肩の荷を少しばかり下ろしてくれた。隊長の真意を知り、自分の存在が誰かの迷惑になるわけではないと理解した四季崎は、安堵の息をついた。
二人が草原の緑が薄れ、代わりに赤茶けた小石が散らばる岩肌が目立つようになった辺りから、空気がわずかに重くなり、不穏な気配が漂い始めた。二人は同時に違和感を感じ始め、無言で足を止めた。
「神楽。なんか感じるか?」
四季崎の問いかけに、彼はゆっくりと瞼を閉じた。銀鏡の表情は一変し、真剣な眼差しになった。彼の全身から、鋭い集中力が放たれる。
微かな風が肌を撫で、遠くで動物の息を潜める音。その一つひとつの感覚が研ぎ澄まされていく中、彼の意識は周囲へと深く潜り込んでいった。まるで水面に広がる波紋のように、彼の五感が周囲の情報を吸収していくように、草木のざわめき、土の匂い、遠くの獣の気配までをも捉えていく。それは、獲物を追う凄腕の狩人が静かに息を潜め、五感のすべてで世界を読み解くかのような、研ぎ澄まされた集中だった。
しばらくして、銀鏡は目を覚ますように目を開けた。彼の瞳には、状況を正確に把握した者の冷徹な光が宿っていた。
「警戒心の強い囁き鳥の声が聞こえない。さらに周辺にいる動物がなにかおびえるように身を潜めてる。あと微かだが、血の匂いもするな。方角は、、、あっちだ」
銀鏡が指差した方角は四季崎が立ち向かおうとしていた方角だった。その指先は、確かな危険を指し示していた。
(神楽が言うなら間違いないだろう。警戒して進んだほういいだろう)
四季崎は胸騒ぎを覚えながらも、冷静さを保ち腰から『四季』を引き抜くといつでも使えるように身構えた。銀鏡はしゃがみ込むと片手を地面に当てた。彼の指先が地面に触れると、微かな震えが伝わってきた。
「そう遠くない場所で戦闘が行われているな。急いだ方がよさそうだ」
立ち上がりながら、銀鏡は簡潔に伝えると背中から弓を外し、腰から矢を引き抜いた。その動作は淀みなく、彼がすでに戦いの準備を整えていることを示していた。
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