成人の儀 前夜 04
物語は、主人公の四季崎がギルドで旧知の仲である銀鏡と偶然再会する。
銀鏡に誘われ、隠れ家のような店を訪れた四季崎は、そこで極秘任務である「成人の儀」の護衛を依頼される。
依頼を引き受けた四季崎は、自身の武器である『四季』の性能を拡張する「可変機構」を受け取る。
彼はその夜、来るべき任務に備え、夜通し武器の手入れに没頭してしまった。
翌朝、四季崎はギルドで再び銀鏡と遭遇し、模擬戦を行うことになった。
演習場では、銀鏡が弓矢と体術を組み合わせた巧みな戦術で四季崎を翻弄します。
銀鏡は矢の軌道を隠したり、煙幕で視界を奪ったりと、次々に変化に富んだ攻撃を仕掛けますが、四季崎は卓越した身体能力と冷静な判断力でこれらに対応していきます。
セントナーレの門をくぐり抜けると、東通りの喧騒とはかけ離れた、穏やかで心地よい静寂が広がっていた。石畳の道は夕暮れの光を吸い込み、どこか懐かしいような温かみを帯びていた。
門をくぐり抜けた瞬間、まるで別世界に足を踏み入れたかのような、空気の質の変化を感じた。背中に感じる都会のざわめきが嘘のように遠ざかり、心臓の鼓動だけが、自分の存在を確かに告げているようだった。
時刻は夕方を過ぎ、西の空を茜色の光が優しく包み込む中、街を後にした四季崎の足音が整備された街道に響く。
舗装された道は、日中の熱をゆっくりと放出しており、足元からは微かな温もりが伝わってきた。どこまでも続く街道は、緩やかなカーブを描きながら奥へと誘い、まるで絵画の中を進んでいるかのようだった。
夕暮れの涼しい風に木々がざわめき、不意に左側に目を向ける。
手前には草原が広がっていたが、少し先からは鬱蒼と木々が生い茂る深い森へとその様相を変えていた。
夕日を浴びた葉は赤や金色に染まり、まるで炎のような色彩を放っている。風が吹くたびに葉がざわめき、耳を澄ませば森の奥から鳥たちの最後のさえずりが聞こえてくる。
その音は、まるで森が太陽との別れを惜しむ歌を歌っているかのようだった。
夕闇が迫る森の入り口は、昼間とは違う、どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。
街道の緩やかなカーブに差し掛かると、傾きかけた夕日に目を細める。
「思っていたより日が傾いている……早めに切り上げないと日が暮れてしまう……」
水平線に沈みかけ、きらきらと光を反射させる夕日が予想よりも沈んでいることに焦りを感じ、四季崎は足早に進んだ。 心の中には、僅かながら焦燥感が芽生え始めていた。
日が暮れてしまえば、視界は悪くなり、目的地の調査にも支障が出るだろう。
それに、夜の街道は危険が増す。
早く目的地にたどり着き、調査を終えなければという思いが、足を早めていった。
太陽が地平線に吸い込まれていく光景は息をのむほど美しかったが、その美しさとは裏腹に、時間の経過を容赦なく告げていた。
さらに街道を進み、太陽がさらに低く沈み、茜色の光がオレンジから深い紫へと変化する頃、穏やかだった道の両端の景色が次第に変わり始めてきた。
黄金色に染まっていた草原の緑が薄れ、赤茶けた小石が散らばる岩肌が目立つようになり、足元の道も、整備された石畳から自然の岩が露出した荒々しい表情へと変貌し、まっすぐだった道が大きな岩を避けるように曲がりくねるようになっていった。
空気もまた、変化していた。草原の温かい土の匂いは消え、代わりに岩の冷たく乾いた匂いが漂ってくる。
足元の感触も、柔らかい土から硬い岩へと変わり、歩くたびにゴツゴツとした感触が足裏に伝わってきた。
周囲の風景の変化は、目的地の近さを予感させた。
しかし同時に、その荒々しい地形に、これまでとは違う種類の緊張感が走った。
さらに進むと、地面から鋭く突き出した奇妙な形の岩が無造作に立ち並ぶ荒涼とした景色に変わった。
まるで大陸を握りつぶし、ひしゃげたかのように、無造作に岩が隆起しており、中には人の背丈を優に超えるものもあり、夕暮れの薄明かりの中でその影が長く地面に伸びている。
「この辺りは死角が多く敵が潜伏していたら、発見が遅れるだろう。注意が必要だ」
岩の奇妙な形は、まるで生き物が息を潜めているかのようにも見え、薄暗がりの中では、その影が不気味に蠢いているように錯覚した。
周囲の静けさが、かえって不気味さを増している。感覚を研ぎ澄まし、常に周囲を警戒する。
夕暮れの光が次第に陰り、吹き抜ける風からは岩のひんやりとした冷たさが感じられる。
昼間の暖かさは既に失われ、夜の冷気がじわじわと辺りを包み始めていた。空を見上げると、茜色の残光が消えかけ、代わって濃紺の夜空が広がり始めている。
最初の星がちらほらと瞬き始め、東の空には三日月がぼんやりとその姿を現していた。
「これなら、夜が更ける前には戻れそうですね」
空の色は、刻一刻と変化していた。
燃えるような夕焼けが、深い藍色へと変わり、やがて漆黒の闇に星々が瞬き始める。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返った世界で、月明かりだけが頼りだった。夜の帳が降りる速さに少し驚きながらも、月の位置を確認し、帰路の時間を計算する。まだ余裕はある、そう自分に言い聞かせた。
景色が完全に岩場へと変わったあたりで、四季崎は足を止めて周囲を見渡した。月明かりが岩肌を青白く照らし、どこか陰鬱な雰囲気を醸し出していた。
風が岩の間を吹き抜け、ヒューヒューという低い音が鳴り響き、岩場の冷たい空気が肌を刺し、凍えるような感覚に包まれる。
この場所には、言葉では表現できないような、独特の重苦しさが漂っていた。
そこで彼は、街道から分岐し森へ向かう祭祀場への道を見つけた。その道は岩場の間を縫うように続き、やがて深い森の中へと消えていく。
「あれが祭祀場へ続く道ですね。十数年前と全然変わりませんね。まあ、風化はしてますが……」
四季崎は自分が異端者だと断じられた辛い記憶を思い出し、忘れるように首を振った。
目の前に現れた祭祀場への道は、過去の記憶を鮮明に蘇らせた。
あの時の絶望、屈辱……。胸の奥底にしまい込んでいた感情が、まるで今起きたことのように蘇り、全身を締め付ける。しかし、今は感傷に浸っている場合ではない。
過去は過去だ。
そう自分に言い聞かせ、記憶を振り払うように首を振った。目的を達成することに集中しなければ。
「それよりも周辺の調査を早めに済ませましょう。イリーネの言うにはあの道より先は立ち入りが禁止ということでしたね」
祭祀場へ続く道を見据えながら、道の入り口周辺の地形や、両側に広がる森の茂みの危険を入念に調べたが、人の踏み入った形跡はほとんどなかった。
森の入り口は暗く、奥へと続く道は、まるで闇の中へと吸い込まれていくように見えた。
イリーネの言葉が頭をよぎる。
「立ち入り禁止」
(この先に入って行っては、言われにない罪で裁かれそうだ)
そう心で悪態をつくとその場からできるだけの情報を集めようと意識を集中させた。
(この道の先に何か人の気配が感じ取れる。多分、見回りをしている聖騎士だろう)
さらに風の音、木の葉の擦れる音、微かな獣の気配……あらゆる情報に耳を傾け、この場所の「顔」を読み取ろうとしていた。
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