友人との再会と誘い 06
中央貿易都市セントナーレに到着した四季崎は、活気あふれる港と多様な人々の賑わいに包まれながら、三年ぶりにギルド本部を訪れる。
かつて「大還輪廻の儀」で起きた騒動と、その後の苦い記憶が胸をよぎるが、感傷を振り払い依頼の完了報告と武器の受け取り、宿泊手続きを進める。
受付嬢イリーネとの和やかなやり取りで心が和らぐ一方、手続きの最中、かつての仕事仲間・銀鏡神楽と偶然再会。
思いがけない再会に戸惑いつつも、四季崎は新たな出会いと出来事への予感を胸に、再び動き出す。過去と現在が交錯するなか、彼の新たな物語が静かに幕を開ける。
扉を抜けると、そこは広大な円形の高い壁に囲まれた演習場だった。足元には風に舞うざらついた砂の地面がどこまでも広がっている。周囲の石造りの壁は、これまでの冒険者たちの激戦や訓練を物語るように、剣戟や魔法による多くの傷跡が残っていた。
壁の上部にはぐるりと一周する簡素な造りの観覧席が設けられ、上から演習の様子を見下ろして観戦できるようになっていた。今は人影もなく、静寂が場を支配している。かすかな風が吹き抜け、砂埃を巻き上げては消えていく。
四季崎は銀鏡との模擬戦の前に、愛用の武器『四季』を静かに取り出した。両端をつかみ、慣れた手つきで両手を別々の方向にカチリと音がするまで捻ると、一瞬で元の長さの五倍――約150センチまで延びた。しかし『四季』が長大化しても材質感も手に伝わる強度も変わらず、しっかりとした感触が手に残る。整備され戻った相棒を手にした四季崎は、静かな喜びを覚えつつ、身体に馴染ませるように長大化した武器を風を切る音を立てて、様々な軌道で振るった。
一方、銀鏡は簡単な準備運動をしながら、弓の調子を確かめていた。昨日のラフな格好とは違い、彼は仕事着である動きやすそうな濃緑のシャツに濃茶のズボン、迷彩柄のスリット入りローブを羽織り、弓を点検する手には使い古された革製のグローブを身に着けていた。背中には矢筒があり、そこにはきっかり二十本の矢が収められている。
十分ほどかけて二人が武器の調子を確かめ終えると、何も言わずに同時に向き合った。互いに不敵な笑みを浮かべ、拳をぶつけ合って距離を取る。
「そっちは準備万端か?久々の模擬戦だ。準備不足で台無しにすんなよ」
銀鏡は弓を背中に戻しながら、余裕の笑みを浮かべた。
「バカ言え。準備運動はとっくに済ませてますよ。今までの勝敗は7勝3敗で勝ち越してますからね。神楽こそ、仕事の疲れを言い訳にしないでくださいね」
四季崎も負けじと笑みを返し、互いに間合いを測る。
「それで、勝敗はどう決めますか?」
「そうだな。是空は棍、俺は弓。距離もある。是空が守備に徹し、俺が攻撃する。俺の矢がお前の身体に一発でも掠めたらお前の負け。逆に俺の矢が尽きたら俺の負け。これでどうだ?」
「いいでしょう。で、神楽の持ち矢は全部で何本です?」
銀鏡は背中の矢筒を叩き、愛用の長弓を外した。
「きっかり二十本だ。まあ、お前相手なら半分も使わんだろうがな。これなら楽勝だ」
銀鏡の軽口に四季崎が「それも勝敗に入れるか?」と返すと、「勘弁してくれ」と銀鏡が笑い、場の空気が和らぐ。
二人は話がまとまると、無言のまま素早く距離を取り、演習場の端と端――約百メートル離れた地点に立った。砂塵が風に巻き上げられ、視界を曇らせる。両者が得物を構えた瞬間、場の空気が一変する。風の音だけが耳に残り、あらゆる雑音が消え失せた。観覧席の石造りの椅子さえ、今はただの影にしか見えない。まるで世界が二人だけを残して静止したかのような、張り詰めた沈黙が支配する。
四季崎は相手の動きを一瞬たりとも見逃さぬよう、全神経を集中させる。心臓の鼓動さえ、遠くで響く太鼓のように感じられた。
両者は一向に動かない状況の一瞬の時でさえ、永遠の時に感じれるほどであったが、その永遠の時間を最初に破ったのは、銀鏡の方だった。
最初、少し、指をピクリと動かすとそれに反応するようにして四季崎が武器の構えを変えた。それを確認すると彼はわずかに身を沈め、矢筒から二本の矢を抜き取る。その動きはあまりにも滑らかで、一瞬見逃しそうになるほどだった。
銀鏡の指先が弦に触れ、弓に矢を番える。鋭い鏃が四季崎を正確に捉えた刹那、空気がさらに重く、張り詰めていく。
場の空気が一層重くなり、張り詰めた糸がピンっと張り詰め、今にも切れそうだった。
互いの呼吸すら聞こえそうな静寂の中、次に動くのはどちらか――その一瞬を、場のすべてが待ち構えていた。
私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。




