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時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
異端者の烙印、聖女の覚醒

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友人との再会と誘い 03

中央貿易都市セントナーレに到着した四季崎は、活気あふれる港と多様な人々の賑わいに包まれながら、三年ぶりにギルド本部を訪れる。

かつて「大還輪廻の儀」で起きた騒動と、その後の苦い記憶が胸をよぎるが、感傷を振り払い依頼の完了報告と武器の受け取り、宿泊手続きを進める。

受付嬢イリーネとの和やかなやり取りで心が和らぐ一方、手続きの最中、かつての仕事仲間・銀鏡神楽と偶然再会。

思いがけない再会に戸惑いつつも、四季崎は新たな出会いと出来事への予感を胸に、再び動き出す。過去と現在が交錯するなか、彼の新たな物語が静かに幕を開ける。

 先ほどの店を出て、夜の静寂が支配するギルドへと四季崎は戻った。


 ギルドの扉をくぐると、夜の静寂が広がっていた。高く昇った月が窓から淡い光を差し込み、広大なホールには受付カウンターのランプだけが明るく灯っている。イリーネは変わらぬ姿勢で書類仕事に没頭していたが、四季崎の足音に気づくと、ペンをそっと置くとすぐに顔を上げ、優雅な所作で挨拶をした。


「あら、お帰りなさいませ、四季崎様」


 彼女の声は、静かな夜に溶け込むように柔らかく響き、ギルドホールの静寂を乱すことはなかった。イリーネは優雅に一礼し、その所作に四季崎はわずかに微笑みを浮かべる。この時間、広大なホールには他に人影はない。


 ただ、左奥の食堂からは、マスターらしき人物が食器を片付けるカチャカチャという微かな音だけが聞こえてくる。厚い絨毯が足音を吸い取り、四季崎は音も立てずに受付へと歩み寄った。


 彼は先ほどの店主の言葉を思い出し、銀鏡から託された依頼について改めてイリーネに尋ねた。イリーネはその言葉を聞き終えると、仕事の手を止め、「やれやれ」といった風に小さく息を吐き、両肘をカウンターに乗せて腕を組み、顎を支えた。


 その姿は、普段の完璧な受付嬢の仮面が少しだけ外れ、素の表情が垣間見えたようだった。


「あぁ、その件ですね。もうとっくに知ってますよ。先ほど銀鏡さんが息を切らして報告に来られましたから。なんでも、『強引にあなたを推薦してきた。彼はちょうど金に困っているはずだから』とか何とか……」


 イリーネは銀鏡の勝手な言い分に呆れたように言葉を返したが、その口調の奥には、四季崎が巻き込まれる出来事をどこか楽しみにしているような期待が滲んでいた。


 やがて彼女は短い休憩を終え、「んーっ」と小さく声を漏らしながら、猫のように背筋を伸ばして両腕を高く掲げた。その無防備な仕草には、年相応の愛らしさが感じられる。だが次の瞬間には、すっと表情を引き締め、いつもの凛とした完璧な受付嬢へと戻っていた。


「こほん。失礼、話がそれました。改めて、『成人の儀』関連の特殊護衛の件ですね。関係者には既に通達済みですが、明日の昼十二時に、この二階の第三会議室にて作戦の最終確認会議が行われます。参加にあたり、一応、個別識別証の提示をお願いします」


 四季崎は静かに頷き、ズボンのポケットから黒曜石のような光沢を持つプレート状の認識証を取り出してイリーネに差し出した。イリーネはそれを手に取り、表面にそっと触れて表示内容を確認した。


「はい、登録確認しました。大丈夫です」


 とすぐに言い、四季崎はそれを懐にしまった。


「明日のお昼ですね。分かりました」


 部屋の鍵を受け取り、「では、これで」と受付を離れようとしたところ、再びイリーネに呼び止められた。


「四季崎様、少しお時間をいただけますか?」


 静かな声に振り返ると、イリーネがカウンターの下から小さな黒い箱を取り出し、両手で大切そうに差し出した。


「お渡しし忘れていたものがございます。可変機構です。本体とは別便で届き、少し遅れてしまいました」


 それは手のひらサイズの箱で、クラフトギルドから本体とは別便で届いたものだという。定期船の便の都合で少し遅れたらしい。四季崎は夕方に武器本体を受け取った時のことを思い出し、嬉しさを抑えつつ冷静に相槌を打つ。その素っ気ない態度に、イリーネは少し残念そうな表情を浮かべた。


「こちらも『クラフトギルド』からですが、本体とは別便で少し遅れて届きました。輸送荷物が定期船の便の都合で跨いでしまったようです」


 四季崎は夕方に武器本体を受け取った時のことを思い出し、嬉しい気持ちを抑えつつ冷静に「…そうですか」と短く相槌を打った。そんな素っ気ない態度を見たイリーネは、期待外れだったのか少し残念そうに眉を下げた。


「工房組合からも、動作に問題なしとの報告を受けております」


「それは安心しました。部屋でしっかり確認します」


「あら、人も他にいませんし、ここですぐに確認なさっても大丈夫ですよ?」


 イリーネは悪戯っぽく微笑むが、四季崎は首を振る。


「ご冗談を。それではイリーネさんの大事な仕事を邪魔してしまいますし、これは部屋でじっくり確かめたいので」


 そう言い、四季崎は小さな箱と部屋の鍵を受け取った。


「夜も更けてきましたから、仕事もほどほどにして休んでくださいね」


 とイリーネを気遣う言葉を残し、部屋へ向かった。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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